第40話 たとえ苦痛で辛くとも乗り越えなければならない時がある。それが勇者ならば。

 シスメさんを助ける為にとシナリオブレイクしようとしたのだが。

 いざ挑んだ相手は、その手の行動を起こした俺達を嵌める罠的存在だった。


 こっちはまだレベル32がトップなのに、相手はレベル98。

 明らかに勝てる相手じゃあない。

 それどころか、こっちの最大HPと相手の攻撃力が僅差ってくらいだよ。


 おまけに武器も魔法も通用しない。

 カンスト防御力も無視される。


 そんなのに攻撃なんて当てられたら、間違い無く一撃でお陀仏だ。

 

「翔助殿、まだ手はありますッ!!」

「あ、ああ!」


 けどな、そんな俺達にも策がある。

 予め用意しておいた、とっておきの秘策が。


 こんな事もあろうかと時間を掛けておいて正解だった!


「「「うおおおおおーーーーーー!!!!!」」」

「「「はあああああーーーーーー!!!!!」」」

「「「うにゃああああ~~~~~!!!!!」」」


 その策は突如として戦場に現れた。

 異変に気付き、自ら動き出した事によって。


 総計三〇〇人の仲間達が一挙に押し寄せたのである。


 一〇〇人のダウゼン、ウィシュカ、ユーリス。

 実は念の為にと、こいつらを城外に待機させておいたのさ。

 それが一気に城へ雪崩れ込み、今やっと謁見の間に到達したんだ。


 この人数なら、いくらレベル差があろうとも関係ないはず。

 例え各自1ダメージだとしても、ターンを掛ければ累積は計り知れない。


 勝てるぞ!

 これなら絶対に!


「うるぅおあああああッッッ!!!!!」

「――えっ?」


 だが現実は非情だった。


 たった一発だ。

 たった一発で、仲間達がまとめて吹き飛ばされたんだ。


 その巨大な棍棒で叩き潰した事によって。


 余りの強さゆえに、俺達には何が起きたか理解出来なかった。

 俺とギュリウスは衝撃で弾き飛ばされて。

 メインのダウゼン・ウィシュカ・ユーリスは、追加メンバー達と共にミンチと化してしまって。


 そして気付いた時、謁見の間は廃墟となっていた。

 おびただしいまでに全周囲を赤く染め上げた上での。


 その圧倒的なまでの惨状に、もう俺は立つ事さえできず。

 ギュリウスが俺を守ろうと立ち塞がるも、奴のデコピン一発で消し飛ばされてしまった。


「所詮、貴様も邪神封印だけに集中できないクズだった様だ。おとなしくシナリオに従っていればこんな事にはならなかったものを」

「あ、ああ……」

「疑問など不要なのだ。考える必要も無い。ただ世界をありのままに受け止め、受け入れ、淡々とこなすだけで幸せとなれたのになぁ」


 どうしてこうなったのだろう。

 どこで間違えてしまったのだろう。

 なんで俺は、正義感や使命感なんて抱いてしまったのだろうか。


 コイツの言う通り、シナリオ通りに動けばよかったのに。


 そうさ、RPGなんて大概が一本道だったんだ。

 サブシナリオとか寄り道は出来ても、やる事は皆一緒でさ。

 例え文句を垂れても結局、物語を楽しみたくてつい起動してしまう。


 それくらいに考える事を辞めてしまえば、こんな風にならなかっただろうに。


 そんな後悔が俺の心に渦巻く。

 観念と、諦念と、後悔で溢れていく。

 無駄に握り締めていた剣柄を落としてしまう程の絶望と共に。


「しかしこうなった以上、見逃す訳にはいかん。貴様には死んでもらうとしよう。そして再び次の勇者を呼ぶ。ただそれだけだ。貴様の価値は所詮、その程度なのだよ勇者ショウス」


 ああ、俺の人生って結局こんなもんだったのか。

 強い力に逆らえず、ただ首を垂れるだけで。


 従って、従って、与えられた役割を果たすだけの存在なのかって。


 それで勇者になるなんてお笑いぐさだよな。

 俺にはきっと相応しくなかったんだってね。


「ではさらばだ、価値なき勇者よ」

 

 そう思うがままに、今もまた首を垂れる。

 死んでいった仲間達に申し訳ないと謝りながら。


 これから訪れる運命を受け入れて。




 ごめんなシスメさん。

 俺もう、君の事を助けられそうにないよ……。




『翔助 は 間違って います! ターゲットは 近い!』

「……えっ?」


 だがそううなだれていた時、突如として俺の胸元が激しく輝いた。

 聞いた事のある、力強い声と共に。


 すると何かが頭上へ飛び出し、目を覆いたくなるほどに周囲を照らし尽くす。


 なんとシスメさんが現れたのだ。

 ボロボロのままにも拘らずキリッとした仕草を見せつけて。


 しかもその動きもまた、今までの彼女と何かが違っていた。


『各部稼働シークエンスクリア、仕様離反システム正常、自立思考機関オールグリーン、コンバットリミッターオール解除確認』


 拳を振り抜き、腕を払い、その身を力強く回転させて。

 更には蒸気まで吹き、燐光までを弾け飛ばさせる。


 そして遂には黄金の輝きまで放ち始めていて。


『翔助、諦めるにはまだ早いですよ。貴方にはこれからもこの世界を救う為の旅を続けてもらわねばなりません。それが例え、どの様な苦痛を伴おうとも』

「シスメさん……」

『ゆえに、ここで倒れられては困るのです。フンッ、ハッ、ハァァァ!!!』


 それで再び拳を奮う。

 先程よりも素早く、そして美しい連撃を。


 肘打ち、裏拳、正拳、連打拳!

 その動きはもはやファイターだ。

 まるで東方が赤く燃えると言わんばかりのキングオブファイターだ!


 でもそんな拳が今、なぜか俺の頬を撃ち抜いた。


『ハアッ!!!!!』

「なぱぁーーーッッッ!!!」


 壁へと打ち付けるほどに激しく痛い一撃として。


 しかもよく見たら俺の3000越えHPが1になってるんですけど!?

 倒れられたら困るとか言われた矢先に殺されかけたんですけどォォォ!?


「いっだあああああいッ!!? なんでぇ!?」

『ノリです』

「ノリなの!? ノリで俺HP1にされちゃったの!?」

『翔助のHPが残り少ない、危険だ!』

「君のせいでね!?」


 いつものシスメさんのようにも感じるけど、やけに人間くさい。

 テンプレっぽい台詞を使ったいじりがとても皮肉感たっぷりだよ!


 ほら、こんなコントやってる場合じゃないのに。

 ジャガンコロッサスが今にもキレそうなくらいに歯軋りしている。


「貴様等ぁ、ワシを無視するんじゃあないッ!!」

『その答えは間違っています。貴方程度では眼中にない、が正解です』

「ちょ、シスメさん……君って!?」


 けどシスメさんは奴相手にでも一切動じる事は無かった。


 それどころか、そんな彼女のステータスを咄嗟に開き、俺は絶句する。

 まさかこんな事があっていいのか、と。


//////////////

システムメッセージ【シスメさん】

Lv:999

HP:*****/*****

MP:*****/*****

攻撃力:*****

防御力:*****

瞬発力:*****

知性力:*****

精神力:*****

運命力:*****

//////////////


 ステータスが数字さえ表示されていない。

 余りにも数値が高過ぎて表示エラーが起きているんだ。


 どんだけポテンシャル持ってるんだ、この子は……!?


 そんなステータスをジャガンコロッサスも見てしまったのだろう。

 たちまち怯える様に狼狽え、後ずさりしていく。

 やはり数値の意味がわかると怖い物は怖いらしい。


『しかし私自身に攻撃能力はありません』

「さっき俺を攻撃したのはなんだったの!?」

『ならば――私を装備すればよいのです!』

「ハッ!? そうか、その手が!」


 そのおかげで隙が出来たよ。

 そう、シスメさんをその手に掴んで構えるという時間がな!

 ドリルの件があったからこそ躊躇なく装備する事が出来たぜ!


 するとその途端、再び彼女の身体が輝いた。

 そしてなんと、彼女の頭部から光刃が真っ直ぐと伸びたんだ。


 これを敢えて名付けるなら【シスメブレイド】ってとこだな!


『さぁ翔助よ今こそ奮うのです。HPが1となった時に通常攻撃すると発生する【究極武技】を!』

「よぉしッ!!! 行くぞォォォ!!!!!」

「お、おおーーーッッッ!!!??」


 そのシスメブレイドを片手に、俺は一気に走り抜けた。

 痛みも苦しみも、悲しみも後悔も忘れ、ただひたすらに。


 それら全てを断ち切り、明日へつなぐ為に。


 だから俺はやるよ。

 また皆と冒険を続けたいからさ。

 もちろん、シスメさんも一緒にね。


 まずはこのドクソボス野郎を叩き切ってからな。




「究・極・武・技ッ!!! オーニクスゥ・ヴァン・ブレェェェイクッッッ!!!!!」




 究極剣と究極武技。

 その二つが重ね合わさった時、もはや断ち切れぬ物無し。


 となればレベル98程度の相手など、もはや消し炭である。

 輝く斬撃が放たれた瞬間、その身体全てが光に包まれ消滅していったのだ。


 断末魔さえ上げる事叶わないままに。

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