第38話 シスメさん復活方法を探せ!

 シスメさんの復活方法を求め、俺達は最初の街へ戻って来た。


 それで早速とダウゼンの実家へ。

 彼の両親が出会うなり、笑顔で快く迎えてくれた。


「おお貴方が今期の勇者殿かぁ! ダウゼンがお世話になっておりますぞぉ!」

「なんて素敵な方なんでしょうっ! 良かったわねっダウゼンっ!」


 勢いがある所はダウゼンとそっくりだ。

 いや、両親がこれだから彼もこうなったんだろうな。


 しかし感心している暇は無い。

 今は一刻も早くシスメさんを何とかしなければならないのだから。


 なので緊急性を伝え、すぐに屋敷の中へ。

 代々の記録を残してあるという地下保管所へと揃って足を踏み入れる。


 すると現れたのは図書館を彷彿とさせるほどの広い部屋で。

 ビッチリと詰められた本棚の数に、俺は驚きを隠す事が出来なかった。


 これがウィシュカとユーリスの家にもあるんだろうな。


「しかしこれだけ膨大だと目的のものを探すのが辛いな」

「ふむ。でしたらジャンルで絞ってみてはいかがでしょう?」

「ジャンル……?」

「えぇ、日記は勇者の冒険傾向で分け置かれているのですぞ。例えば『攻略集中編』や『アイテム収集編』、『徹底育成編』などなど」

「やっぱり勇者によって傾向があるんだな」

「えぇ、伊達に一万を超えておりませぬ。なので自然とジャンルが生まれたのです」

「めっちゃ多いな!? そんなに勇者来てたの!?」


 しかもしっかりと区分けまでされているらしい。

 整理整頓もされている所はさすがダウゼンの家と言えよう。

 となれば探すのもそこまで苦ではなさそうだ。


「シスメさん関係のジャンルってあるのか?」

「えぇ、ありますぞ。『システムメッセージ観察編』、『実験編』、『改造編』などなど」

「勇者傾向ゥゥゥ!!!」


 納められてる日記自体はヤバげのばかりで笑えないけどな。


 なんだよ実験とか改造とか!

 シスメさんをどういう目で見てたんだ過去の勇者達ィ!!


 ――だが、そうしたいくらいに不思議な存在だというのはわかる。

 仕様と密接な存在であると同時に、余りにも謎な存在だからな。

 この世界の謎を解き明かそうと彼女に接触した勇者も少なくないのだろう。


 と思い、そのジャンルの本棚へと向かったのだが。


「シスメ編ちっさ!! 日記すくなッ!!」

「歴代勇者達にとってシスメ殿はそこまで気にする存在ではなかった様ですな」


 本棚の一列分しか無かった。

 しかも半分くらいスッカスカで、冊子自体もそこまで厚くない。


 なぜ気にしないのだ勇者達よ。

 シスメさん、明らかにこの世界のキーキャラだと思うんだけども。


 みんなRTAに忙し過ぎてそこまで気が回らなかったの?


「シスメ編は私達の学んだ冒険向け知識に含めないくらい重要性が無かったわ。だから私達もあまり知らないのよ」

「基本的には勇者の証の下位互換でっすからね」

「そうですなぁ。我々が旅していた時も、早い段階で消えておりましたぞぉ」

「消えていた……!?」


 でもそんな時、ダウゼンの父がしれっと重要な事を呟いていて。

 これには俺達も揃って顔を合わせずにはいられなかった。


 そう、シスメさんが消えた現象には心当たりがあったから。


 最初はただ勇者の証でも探しに行ってくれただけかと思っていた。

 それで今まで姿を見せなかったのだと。


 けど、もし彼女が『仕様』で姿を消していたのだとしたら。


「もしかして冊子が薄いのは皆、途中でシスメさんが消えたからぁでっすか?」

「あり得るな。少し日記を読んでみよう」

「よし任せろ! 我が全て音読してやろう!」

「それはいらないから。手分けして読もう」


 再び姿を現した理由はわからない。

 でも、その消える現象に可能性が秘められているかもしれない。

 だから今はそう信じ、各々が思い思いに日記へと手を伸ばした。


 少しでも希望を掬えるようにと。




 それで読み始めること、おおよそ一時間。

 ここまで読んだ事で、大体の事情がわかり始めて来た。


 まず第一に、シスメさんは読んだどの日記でも全て途中退場している。

 ただし原因は不明、いずれも中盤~終盤前に消えた様だ。

 なおダウゼンの父の場合は勇者の証を手に入れた直後だそうな。


 第二に、いずれも感情を見せた例は無い。

 俺達との会話と同様に近いテンプレ台詞を吐くだけだったという。

 台詞が歪んだ事は何一つ書かれてはいなかった。


 第三に、彼女は何をしても復元する。

 例の実験編では語りたくもないほどに凄惨な実験が行われていた。

 しかしいずれのケースにおいても即座に復元、普通にログを吐いていたそうだ。


 ここまでの日記ではいずれも上記の事ばかり。

 大概はシスメさんが消えてやる気を削がれ、そのまま冒険中に死亡といった感じ。


 そして今、俺達は最後の希望に視線を注いでいる。

 本棚に残された、たった一冊の希望に。


 今までどころか、他の棚の本さえも凌駕するほど分厚い日記へと。


「残るはコイツだけだ」

「明らかに大き過ぎて皆手を出さなかったものね」

「我、これを手にするのはさすがに無理だった。邪悪な気配を感じたのだ」

「オーラを感じるでっす。脂ギッシュなオーラが多大に滲み出てるでっす」


 ユーリスとギュリウスが奇妙な事を言い始めたが、この際仕方がない。

 ヒントを求めるのなら、こいつも読まなければ。


 ゆえに俺が恐る恐る手に取り、その場に座り込んで表紙を開いた。

 だがその時、俺達は揃って驚愕する事となる。


『僕とシステムメッセージちゃん。らぶらぶ冒険日記』


 吐きそうになった。

 見返し一番がポークと無表情シスメのツーショット写真で埋め尽くされてたので。

 加えてこのタイトルだったのもあり、開幕から全員の意欲をもごっそりと削られた。


 にしてもまさかの勇者直筆の日記が出て来るとは。

 探せばありそうだな、似た様なの。


 しかし狼狽えていても仕方ない。

 シスメちゃ――シスメさんを助ける為にもこれくらいの苦は乗り越えねば。


「読むぞ。心してくれ」

「「「いえっさー!」」」


 なのでこうして一致団結し、覚悟を統一する。

 それでページをめくり、どんどんと内容を読み取っていった。


 その内容を一言で言えば、地獄だ。


 全てが全て、ただひたすらシスメへの一方的な想いを連ねていて。

 アイテム化しないのを良い事に、ひたすら写真を撮って貼りまくっている。

 ツーショットのみならずセクハラまがいなお触りの写真までをも。


 更に中盤へと差し掛かると、遂には冒険の情報さえ無くなった。

 一つの街に滞在し続け、ずっとシスメとの生活を書いていたのだ。

 しかも行ったを一つ一つ詳細に書き残して。


 彼女がされるがままだからこそ、本当にやりたい放題で。

 最後には紐付きの指輪を首に嵌め、「僕達、結婚しました」だ。


 ここまでおぞましい物を、俺は見た事が無い。


「ユーリスッ! 火炎魔法を俺の腕に放てぇい!!」

「いえっさー!」


 なので猛るままに本を掴んだ腕を掲げる。

 そこへユーリスが空かさず炎を放ち、件の日記はあっという間に消し炭と化した。


「ノォォォゥ!! 何をなさるのですか翔助どのォ!?」

「ダウゼンの親父さん、悪いがこいつぁこの世に残しちゃいけないものなんだ。ただ、中にあった微細な重要情報は俺の日記に記すから許してくれ」

「えぇ、自分がしっかりと残しておきますゆえ、安心してくだされ」

「ダウゼンの記憶力なら安心ね」


 あとは煤と化した日記を踏みにじり、ツバも吐いておく。

 漏れなく全員分だから罪悪感も感じないぜ。


 で、肝心のヒントがあったのかと言えば。


「よし……皆もうわかっていると思うが、俺達のやる事は決まった様だ」

「我、わからないんだけど!」

「知ってた。ギュリウスだけはノリだったって知ってた」


 しっかりと書かれていたよ。

 その部分だけは残しておくべきだという、重要な一文がね。


 なんでも、シスメさんは構えば構うほど勇者パーティに長居するらしい。

 それとシナリオブレイクすると仕様がエラーを起こし、消えるフラグが失われるそうな。


 つまり、RTAがシスメさんを繋ぎとめていたという訳だ。

 それと俺と彼女のやり取りもな。

 そのどちらかが欠けても残らないから、そこまで記録が残らなかったんだ。


 戻って来たのも、恐らくスローライフを始めたからだろう。

 第八の街の崩壊で消えた理由はわからないけど、もしかしたらそれはシナリオ通りだったのかもしれないな。


 ピンクの宿イベント? そんなのは知りません。


「そこで一つ質問がある。この国の国王をしばくのはメインシナリオにあるか?」

「ありませんね。本筋には一切関わりませぬ」

「なら目標は決まったも同然だな」


 なら復活までの一押しを盛大にやるとしよう。

 俺の悲願とも言える、最初の街の国王成敗をな。


 これで人類を裏切ったあの嘘つき国王を正式にぶん殴る事が出来そうだ。

 一体どんな顔をするか楽しみでしょうがないな、まったく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る