第33話 面倒臭いヤツ再び

 俺達は意気揚々とドオンの塔を飛び降り、次の大陸へと向かった。

 新しい大地に待ち受ける苦難は一体どんなものかと楽しみにしながら。


 けど、そんな俺達は今、土に埋まっている。


 なぜかはわからない。

 気付いたら首上だけ残して埋まっていたんだ。


 塔から飛び降りたら土の中って、なかなか斬新なシチュエーションだと思う。


「どうしてこうなった」

「わかりませぬ」

「さっぱりだわ」


 あいにく仲間達もこればかりはわからないらしい。

 無駄に冷静なのが逆に「パニックしているんだろう」とさえ察させる。


 それにユーリスに至っては全身土の中だしな。

 調子に乗ってお姫様抱っこされた代償は余りに酷だった。


「クックック、狙い通りだったぞ勇者ショウスよ!」

「うっ、そ、その声は……!」


 しかしそんな時、ほんの少しだけ記憶にある声が場に響く。

 この冷徹で闇の深そうな声は、アイツしかいない!


「邪神戦士ジャンバル!!!」

「邪神王子ギュリウスだ! どこから出て来たんだその名前!? 全く覚えてないじゃないか!」


 そう、あの敗けバトル王子が再び現れたんだ。

 しかも身動きが出来ない状態の時に。


 まずいぞ、これじゃあダイナミック敗北宣言が出来ない。

 この状態のままじわじわとHPを削られたら奴の思うつぼだ!


「……まぁいい、お前達をこうして拘束する事が出来たのだからな」

「なんだとおうッ!? ではキサマがこの土を盛ったのであるか!?」

「そうだともッ!! お前達があの塔を使ってここに降りてくる事は過去の出来事から証明されている! ゆえに、ここに盛り土をしておけば勝手に埋まってくれるという訳だァ!!! ふははははっ!!」

「ぐぬぬ……! おのれ邪神王子め、卑怯な!」

「いや、まず飛び降りたら土に埋まるっていう現象そのものを疑おう?」


 どうやら奴も過去の事から学習しているらしい。

 先回りして策を張る、そんな事ができるのも邪神王子の強みなのだろう。

 ランダムポップイベントキャラ、意外に侮れんぞ。


 まぁ盛り土で埋まるのもなんとなく察した。

 恐らく仕様による移動だから、地形無視して強引に座標移動させたんだろうな。

 その結果、土の中に入っちゃったってとこか。


 邪神王子め、まさかそこまで計算して盛ったのか?

 それとも天然で土に埋まると勘違いしたアホなのか?


「さて、前回は遊びだったが今回は違う。私も本気で挑ませてもらうとしよう。我の力に恐怖せよ、そして俺の偉大さにひれ伏すのだ!」


 いいや、やはりアホだ。アホの方でいい。

 一人称安定しないの相変わらずだし。


 そんな蔑んだ眼を浮かべつつ、仲間達と視線を合わせる。

 そして――


「うっぎゃわあああ!!! 土が、土が身体と混ざっていくゥゥゥ!!!!!」

「まさかこれも邪神王子の力だと言うのかァァァ!!? なんて超常的な力をもっているのだアァァァァ!!!!!」

「もうダメェ!!! こんなの勝てないわ!!! 世界の終わりよォォオ!!!!!」


 ダイナミック敗北宣言・新大陸編を盛大に披露してやった。

 首上だけだから多少おおげさ目にな。

 首を限界まで振り回し、飛沫とか撒き散らしてやりたい放題だ。


「え、は? ちょ、えぇ……」


 おかげですごく効いていた。

 めっちゃくちゃ狼狽えてる。


 相変わらず感情エラー起こしてて笑えるわ。


「あ、うん、そうだ、我だよ? 我の力だよ? あ、あったりまえだろォハハハ! えっと、よし、今日はここまでにしておいてやる。でも次に会った時はちゃんと戦って欲しい、かな? じゃあもう行くから。もう行っちゃうから。次、出来るだけ早く来るから」

 

 しかもなんか今回はとても寂しそう。

 もうちょっと戯れたかったなーみたいな雰囲気が駄々洩れですごい。

 何コイツ、かまってちゃんなの? 寂しがり屋なの?


 そんな虚無の視線を受ける中、ギュリウスが去っていく。

 で、気配が無くなったところを見計らい、強引に土を押し退けて脱出した。


「恐ろしい相手でしたな。まさか我々の知らない罠を張っているとは思いもしませんでしたぞ」

「そうね。ギュリウス……彼は唯一油断してはいけない相手なのかもしれない」

「あぁ、次はどんな罠で俺達を追い詰めて来るのか予想も付かないな」


 ただ、今回は結構ヤバかったと思う。

 ダイナミック敗北宣言・新大陸編が上手く行かなかったら、間違い無く瀕死にさせられていただろう。

 そうなったらあのまま土の中で死んでいたかもしれん。


 しかも奴は俺達と同じで過去から学んでいる。

 そういった意味ではライバルキャラとして相応しい立ち位置なんだろうな。

 厄介極まりない事だが、妙に親近感も抱いてならないよ。


 アホは距離を置いて相手すると面白いって言うしな。


「よし、旅を続けるか」

「そうね。第八の街はほら、すぐそこよ」


 とはいえ、敗けバトルでなければ戦ってやりたいとは思う。

 だから次の戦いでは本気で戦える事を祈っておくとするか。

 仲間達曰く、そろそろ敗け確定じゃなくなるって話だしな。


 そう願いつつ俺は一歩を踏み出した。

 まずは目の前に見える【第八の街ネクスディン】へと向けて。


 この国では一体どんな事が待っているのだろうか、そう想いを胸に秘めつつ。


『ユーリスは倒れた』

「あ、忘れてた」


 ま、着いたらとりあえず最初に酒場へ寄るとしよう。

 ユーリスを補充しておきたいところだし。


 ……いけないな、雑な扱いに慣れ過ぎてしまったかもしれん。

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