第29話 サービスエリア

『ワイバーンが現れた! バトル開始!』

『ワイバーンは倒れた。バトル勝利』

「唐突に現れて唐突に死ぬのやめてくんない?」


 それは【第七の町ワークルーフ】を越えた道中の事だった。

 意気揚々と旅を続ける俺達の前に突如、翼竜が強襲を仕掛けて来たんだ。


 まぁ現れたと思ったらそのまま地面に落ちて死んだんだが。


 これは新しい死に方だ。

 今までは大地を走る魔物が地面に落ちてばっかりだったんだけど。

 今度は遂に空からの魔物までが自死し始めるバグに遭遇したらしい。


「ダウゼン?」

「これは落下死ですな。高低差によるダメージを受けて死んだのです」

「空飛べるワイバーンが落下死とかもうわっかんねーな」


 にしても相変わらず度し難い理由だ。

 高低差ダメージは昨今のゲームじゃ当たり前だし、わからなくもないけど。


「この世界では高い所から落ちるとダメージ判定が発生するのです。それも際限が無く、高ければ高いほど数値が高くなり、場合によっては即死します」

「まぁこんな理不尽世界だからな、それくらいは大体予想はつくよ」

「例えばおよそ二〇メートルの高さから落ちたら十万ダメージを越える為、どんなレベルの者でも人間なら死にますな」

「結構シビアだなー」

「でも転送魔法や吹き飛ばしによる差は無効とされるぅでっす!」

「ま、それが無いとユーリスは跳ね飛ぶ度に死ぬしな」


 それにこの世界じゃ理不尽な設定は当たり前だ。

 だったら人間に対する制約なんてむしろ優しいもんだろうさ。

 高い所から落ちたりしようだなんて、ゲームくらいでしか思わないよ。


 ……今度から高い所には気を付けとこ。


「ですがワイバーンの飛行高度は山並み。ゆえにそのダメージ計算値は計り知れませぬ。そんな者の翼先でも地面に触れようものなら、たちまち落下死してしまうという訳です」

「落下判定ガバ過ぎない?」


 けどワイバーンは気を付けようもないよな。

 襲ってくるのは本能だろうし、どうせ仕様を理解する知能も無いだろうし。

 というか生物の性質上、空を飛ぶ事自体避けられないか。


 それでふとファンタジースマホを取り出して確認してみる。

 するとログにはしっかりとワイバーンの被ダメージ値が記載されていた。


 39,287,992,549のダメージ。

 なかなか笑えるくらいに桁違いなダメージが入ってる。

 この計算値、加算じゃなくて倍率掛けとかで相当マシマシなんだろうな。


 これ邪神でさえオーバーキル狙えるダメージなんじゃないか?


「しかしとうとうこのサービスエリアに入りましたな。しばらくここでレベル上げも良いかもしれませぬ」

「サービスエリア!?」

「えぇ、ワイバーンが現れるエリアは自滅する魔物しか襲ってこないの。なので歩き回るだけで稼げるし、ワイバーン自体もかなり経験値高いから周回オススメスポットって言われてるのよ。おかげで付近の住人のレベルはかなり高いわ」

「現地人にも大人気!」

「でもそのせいで素材はぁ最底値価格でっす。パンを買うお金にすらならないのでぇ捨てられる事がぁ多いでっす」

「RPG中堅モンスターと呼ばれたワイバーンもこの世界じゃゴミクズ扱いか……」

「他にもハーピーや鳥類モンスター、スカイドラゴンはカモでっすね」


 だが仕様であるなら仕方がない。

 ワイバーンという生物に存在価値を見出せないが仕様だから仕方ない。


 なので俺達もその仕様にあやかり、ワイバーン狩りを始める事にした。






 それからおよそ三日後。

 第七の町と海岸を往復し続け、俺達の平均レベルは27から31に。

 攻略推奨レベルに達したので、ようやく旅の本筋へと復帰する事となった。


「これでようやく適正レベルですな。今まで低レベルでよくここまでやって来れたと思います」

「いや、レベル1のままでも普通に攻略出来そうだったんだが?」


 正直、ドリルのせいでレベルなんて必要とは思えない。

 攻撃力も武器で補えるから戦えない事はないし。

 強いて言うならHPが上がって日持ちするメリットがあるくらいか。


 なにせ仲間達のRTA行動が凄まじいからな。

 全てすっ飛ばして攻略しちゃうからね!

 おかげで未だ邪神王子以外の強いボスに出会った事なんてないもの。


 でもせめて一度くらいは体験したいよな、強ボス戦。


 そんな想いを胸に秘め、俺達は海岸線を進み続けた。

 すると大きな岬へと到達し、その高台にそそり立つ巨大な塔へと辿り着く。


 仲間達曰く、どうやらここを登って先に進むらしい。

 相変わらず、全くの予備知識が無いと脈絡さえわかりゃしないな。


 ただ、行き先はなんとなく察せるが。

 恐らくは岬のすぐ先に見える別大陸に行こうとしているのだろう。


 ぱっと見、小舟とかで行けばすぐ辿り着けそうな距離感なんだけども。

 きっとまた変な仕様があって、そう簡単には海を渡れないとかなんだろうな。

 

「さぁこれからこの【ドオンの塔】を登りますぞォ!」

「ウッフフ、腕が鳴るわね!」

「なんかみんな凄いやる気なんだけど、なんで?」

「ここは冒険の醍醐味が詰まっている良ダンジョンと呼ばれてるでっす。なので皆、楽しみにしてたぁんでっすね」

「楽しみなダンジョンってどういうことだってばよ」


 この雰囲気を見ると、それ以外の理由もありそうだけどな。


 でも正直、畏れ多くて敵わんよ。

 だってバグまみれのこの世界での〝良〟ダンジョンなんだから。

 きっとまた常識外れの事が待っているに違いない。


 そんなダンジョンへ、揃って足を踏み入れる。

 果たしてどんなとんでもない内部が待っているんだか。




 そう恐れて入った訳だけど。

 間も無く、俺はその認識さえ甘かったと思える場面に遭遇する事に。


 どうやらここは、想像を絶するとてつもなくヤバイ所だった様だぞ……!

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