第28話 空に輝く満点の星々よ

「トリニティブレイバァァァ!! ンッぎゃああああ!!!」


 頃合いが来たので必殺技を撃ち、相変わらずの悲鳴を上げる。

 情け容赦の無い痛みだが、なんだかやっと慣れて来た気がするよ。

 まさか早々と使い始める事になるとは、当初思っても見なかったんだけどな。


 というのもこの必殺技、意外な効能があったんだ。

 腱鞘炎を無かった事にしてくれるっていうな。


 実はこれ、使用後に肉体疲労などをリセットしてくれる。

 HPやMPに依存しない蓄積疲労や擦り傷程度なら無かった事にしちゃうんだ。

 身体全身をバッキバキにした後、強引に修復するからだろうな。


 必殺技含め、バグの塊でしかない。

 だがそんな雑仕様が重なった結果、回復能力が発生しちゃったんだろう。

 回復魔法の使えない昨今、とても助かる仕様だとは思う。


 なので肘がキツくなってきた時にリセットの意味で使い始めた。

 激痛をこらえればその後はスッキリだしな。


「随分と悲鳴の規模が小さくなりましたな。良い傾向ですぞ」

「心構えがあると多少は耐えられるみたいだ。だからってあまり依存したくは無いけどね」

「悶え転がる翔助様、可愛かったのにぃ残念でっす」


 なお、この効果は記録に無かったそうだ。

 そもそも勇者は皆、使ってすぐに封印して無かった事にしたみたいだからな。

 こうやって初めての事を見つけると何となく嬉しく思う。


 それにこの苦痛はダウゼンも乗り越えたらしい。

 あの無限射程腕も、最初は相当な苦痛をもたらしたのだと。


 そう聞いたら俺もやれなきゃ張り合いがないよな。

 ずっとその力を使って守って来てくれたんだから。


「よし、肘の調子も戻った。どんどん行くぞ!」

「「「おーっ!」」」


 こうして疲労を無くしながら進むこと約半日。

 夕暮れの中、俺達はとうとう大海の見える海岸線へと辿り着いていた。


 夕焼けに煌めく海がとても綺麗だ。

 俺の知る海と違って透き通っているし、磯の香りも嫌気が無いし。

 青いともいう話だから、きっとここは地球と同じ元素を持った惑星なんだろうな。


 ただ、夜になれば無数の星一つ一つが輝いてとても綺麗に見える。

 これだけは元の世界じゃあなかなか楽しめない光景さ。


 そんな星空を楽しみにしつつ、海岸線を行く。

 とはいえそろそろな時間帯だから、別の事も考えなくてはならない。


「このままだと野宿になりそうですな」

「残念、湿気で蒸れた身体を洗い流したかったのに」

「次の町では浴場みたいなところがあるといいな」

「皆で一緒に入るぅでっす!」

「待ちたまえ。嬉しい事言ってるけど少し自重するんだ」


 夜も歩き続けると迷うからな。

 街灯がある日本と違って、異世界の夜はとても暗いんだ。

 RPGの様に歩き続ける事なんて出来る訳が無い。


 なので野宿できる所を求め、周囲を見渡しながら歩いていたんだけども。

 そうしていると、景色の先に小屋が見えた。

 恐らく旅人の為に用意された休憩所だろう。


 それで足早にその小屋へと辿り着き、疲れた様にドカリと荷を降ろす。

 雨風をしのぐ物が見つかり、揃って一安心だ。


「今日はここに泊まっていくとしようか」

「小屋の裏に風呂釜もありましたぞ。すぐ傍の川から水を汲めば湯舟も焚けそうですな」

「「やったぁ!」」

「その労力くらいは捻出するかぁ」


 更には風呂もあるらしいので女性陣も大喜び。

 俺も汗を流したいし、最後の労働に精を出す事にした。


 それで夕食も済ませ、風呂も入ってスッキリに。

 ようやく落ち着き、今は皆揃って小屋外で夜空を見上げている。


 仲間達にとっては見慣れた光景かも知れない。

 けど、きっとそんな事なんて関係無いのだろう。


 こうして揃って空を眺める。

 彼等にはそれだけでも楽しいと思える心のゆとりがあるのだから。


 素敵でうらやましい感性だと思う。

 現代ではなかなか見られないからな、色々としがらみが多過ぎて。


「なぁ、この世界じゃ空の星に名前を付けているのか?」

「えぇ、目立つ星だけには付いておりまする。例えばあの赤く輝く星は【エ・ラーヴェルト・ダウゼン】と呼ばれております」

「ああ~、あの星が名前の由来だったのか!」

「ハハハ、そうですぞ。名前負けしておりますがな!」

「そんな事は無いと思うぞ?」


 相変わらずのダウゼンの話も面白いしな。

 もちろんウィシュカの追い話も、ユーリスのノリも。

 話題も尽きないし、心地良いしで俺も何だか心が落ち着くよ。


 おかげで一つ、トライしてみたい事を思い付いてしまった。


「ダウゼン、前に月へ攻撃が届いたよな。あれ、もしかして小さい星にも届いたりするか?」

「やった事はありませぬが、試してみましょうか」

「遠すぎる星ならここに影響無いだろうし、壊すつもりでやってみてもいいかも。実験を兼ねて」


 それはふと、この世界に来たばかりの時を思い出して。

 月を攻撃して、うっかり壊しそうになってしまった事を。

 あの時は怖くて中断してしまったな。


 けど遠くの星なら何の問題も無いだろう。

 僅かに光って見える程度の星なら。


 という訳で適当に身繕い、攻撃してもらう事にした。

 ムーンアタック作戦、標的を変えて続行だ。


「ぬうりゃあああッッッ!!!!!」


 武器はもちろん、お気に入りの迷宮武器。

 そんな斧が一瞬にして夜空に消えていった。


 しかし一向に帰ってこない。


 それどころか腕は天に向かって伸び続け、ターゲット星自体もまだ反応無し。

 どうやら相当遠すぎてすぐには届かない様だ。


「むう、かなり遠いですな。まさかここまで時間が掛かるとは」

「月でさえ一瞬だったのにな。でもこれ、もしかして光速を超えられない? となると最悪、何年もこのままになりそうなんだが……」

「なんですとォ!?」


 そりゃ遠すぎれば何万光年も離れている可能性があるしな。

 むしろ生きている内に届けばいいんだが。


 仕様のおかげで一瞬で届くと思ったが見込み違いだったか。


 仕方ないので勇者の証を通して装備を外し、斧を手元へ戻す。

 こうしてダウゼンを安心させ、そのまま俺達は床へと就く事にした。


 なお腕を伸ばし続けたダウゼンだけは野外だ。

 なんたって伸びる腕が小屋の屋根を糸ノコギリの如く「チュィィイン!」と切り裂いたからな。

 その鋭利な切れ味に思わず戦慄したもんだよ。






 それで翌日。

 俺達は出発の準備を始め、小屋を後にしようとしていた。


「腕、戻りませぬな」

「悪い。俺が変な事思い付かなきゃこうならなかったのに」


 でもダウゼンの腕はまだ戻って無かった。

 未だギュンギュンと伸び続け、空を突き抜けている。

 このまま月の周回軌道に入ったら、間違い無く月さん真っ二つだろうな。


 こいつはやっちまったかぁ……?


 だがそう思っていた矢先、突如としてそれは起きた。

 シスメさんが突然輝き、声を上げたのだ。


『ダウゼンの攻撃。【地球】を倒した。バトル勝利』

「……えっ?」

『しかし経験値は入らなかった』


 でもその内容に、俺はただただ絶句するばかりだった。


 え、なに、どういう事?

 地球? あれ、それ俺の住んでたとこと同じ名前?

 あれ、別の地球? どの? それどこの地球だよ……ッ!!?


「待ってシスメさん。その地球ってどういう事かな?」

『誰に話しかけているのだ』

「君だよ!? お願い教えて!? 今の地球ってもしかして俺の知る地球さんだったりしますかァァァ!!?」

『んがぐぇぇぇ!?』


 余りの大興奮に、遂にはシスメさんを捕まえて握り込む。

 更には訴える様にガクガクと振り、なんとかして答えを振り絞ろうとした。


 けど当然、まともな答えなんて帰ってくる訳が無く。


『ゆ、翔助はタンスをあけ、た。中には何も、入って、い、いなかった』

「いけませぬ翔助殿! そのままではシスメ殿が死んでしまいますぞ!」

「ハッ!? す、すまない、余りにも興奮してしまってつい……」


 結局この後も、その【地球】と呼ばれた星と俺の故郷の因果関係はわからずじまい。

 唯一わかったのは、シスメさんの辞世の句が「箪笥開きのテンプレ台詞」だという事だけだった。


 なので俺は地球の事を考えるのを辞めた。

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