第27話 必殺技はファンタジーの華

 なんとか資金を工面し、現状で最高の武器を揃える事が出来た。

 その代わりウィシュカがダウゼンの背中で灰色になってうなだれているが、きっとすぐ元通りとなるだろう。


 それで俺達は第六の街を離れ、第七の町へと向かう事に。

 肘スラッシュを駆使して敵を全て薙ぎ払いながら。


 おかげで街を出てから二時間、右肘がもう痛い。


「ダウゼン、教えてくれ。俺はあと何発肘スラッシュをすればいい? シスメさんは俺に何も言ってはくれない」

「頼る相手を間違えている気がしますぞ」

『ターゲットが遠すぎます』


 ただおかげで連射方法に工夫が生まれた。

 最初は一指だけで押してたが、今は四指で連続的に押している。

 なので発射は常に四連発、大概は初回だけで終わらせる事が出来るように。


 これが馴れってやつなんだな。

 腕が痛い事には変わりないけど。


 他に代わる便利な攻撃があればいいんだが。


「やっぱりこれから色々必殺技とかを覚えていったりするのか?」

「もちろんですとも。中にはド派手なものもたくさんあるという事です。特に必殺技系はショートカットを駆使しても動きは省かれませんので、翔助殿には嬉しい話なのでは?」

「ほう、それは期待したいな」

「おまけに仕様が動きを補助してくれますからな、肘スラッシュと違って腱鞘炎の恐れもありませぬ」

「おおー!」


 なんて思っていた矢先、まるで図ったかのようにこんな事を教えてくれた。

 相変わらずなんてタイミングのいい奴なんだ、さすがダウゼンだぜ!


「実は次のレベルほどまで経験値を稼げば職業練度が上がり、その必殺技を覚える事が出来るはず」

「なんだって!? ならこうしちゃいられないな! よぉし、レベル上げするぞぉ!」

「「おーっ!」」


 そう知ったら止まってなんていられない。

 早速とショートカットを叩く手に力が籠る。

 元々じっくり経験値稼ぎは好きな性分なもんでね。


 だから稼ぎ終わるまで保ってくれよな、俺の肘!




 という訳で、道中にてしばし経験値稼ぎを行う事に。

 その末に、とうとうお楽しみの時間がやってきた。


『バトル勝利。翔助達は1,993,941,668の経験値を手に入れた。翔助達はレベルがあがった! 翔助の職業練度があがった! 翔助は【トリニティブレイバー】をおぼえた!』

「きッたッ!!! 必殺技きたあッ!!!! 名前もドかっこイイッッッ!!!!!」


 ここまでおよそ一時間。

 その間ずっと肘スラッシュを撃ち続け、魔物の死体の山を築き続けた。

 おかげで肘の痛みは否めないが、今だけは全く気にならない。


「本当に、これを叫ぶだけで体が勝手に動いてくれるのか?」

「ええ、そうですぞ。『おぼえた』とは言っておりますが、動きまでは知識に投影されませんからな。それで代わりに仕様が補助してくれるという訳なのです」

「それで誰でも必殺技が使えるのか。なかなかいい所もあるじゃないか仕様さんよ」

『いいえ、それほどでもありません』


 こういう時だけちゃっかり意志を発するシスメさんはひとまず置いといて。

 早速と姿を見せた魔物へ歩み寄り、剣を構える。

 相手は【わたもちくん】とかいうよくわからんスライム族だ。


 ここまでに散々狩りまくった相手だから問題無い。

 せっかくだから試し切りをさせてもらうぜ!


「その必殺技は少しMPを消費しますが、とても強力なものです。恐らく奴程度なら一撃で終わるでしょう!」

「よし、じゃあ早速行くぜ! トリニティィィブレイッバァァァーーーーーー!!!!!」


 その気迫のままに叫び、心猛らせる。

 するとその途端、身体が勝手に動き出した。


 腰を落とし、剣を深く構えて。

 その拍子に周囲から魔力の波動が溢れ、光となって輝きだす。

 そうしたら今度は敵へと向かって跳ね飛んだ。


 凄い、これが俺に出来る動きなのかッ!!


 余りにも速い跳躍だった。

 敵との間隔を一瞬にして詰める程に。

 相手に動く隙さえ与えないくらいに!


 そして遂に剣が輝き迸る。

 ターゲットへと必殺斬撃三連をブチかます為に!


 ――その前にまず、俺の右手首が三六〇度、一回転した。


「うっぎょおおおおおおッッッ!!?」


 次に肘が逆方向に強引に曲がった。


「べぎゃらあああああッッッ!!!?」


 更には上半身が九〇度直角に回り、腰から鈍い音が響いた。


「なっびゅううううううッッッ!!!!!」


 しかも肩がねじれ、骨がメキメキと砕けた様な音まで届いた。


「ぎゅべろおおおおおおおッッッ!!!??」


 それで剣を振り被った時、なんと腕が一.五倍くらい伸びた。

 腕全身から筋肉と骨が引き千切れる音がしたけれど。


「んンンンンヌビィィィィィッッッッッ!!!!!」


 そんな腕が高速二連斬撃をかまし、敵が瞬く間に切り裂かれる。

 だがその反動で胸部に声にならない激しい痛みが走った。


「~~~~~~ッッッ!!!!!」


 それだけに留まらず、全力斬撃中に勝手にバックステップする。

 足首が砕けたかのような奇音と共に。


「めっごおおおおおおッッッ!!!??」


 その直後、身体が空高く跳ね飛んでいく。

 何十Gもの重力をその身に受ける程の超高速で。


「お ご ご ご ご――ッッッ!!!??」


 そして最後の飛び降り斬撃が放たれる。

 余りの威力ゆえに敵が弾け、爆発四散する程の。


 俺自身をも巻き込み、吹き飛ばす威力をもって。


「ぎぃにゃああああああーーーーーーッッッッッ!!!!!」


 その末に大地へ転がり、横たわる。

 まるで全てを使い果たしたかの如く、動く事さえ叶わないままに。


『バトル勝利!』

「さすが翔助殿! 素晴らしい一撃でしたぞ!」

「……」


 そのせいでもう声を上げる気力さえ湧かない。

 というより全身が痛すぎて正気を保てているかさえわからない。


 これは一体どういうこと!?

 MPが減るって、こういう事なの!?

 地獄の様な想いをして精神をすり減らすって事なのか!!???


「安心してくだされ、その痛みはすぐ元通りになりますゆえ。仕様で傷付いた分は即座に仕様が修復してくださります」

「……え? あ、ほ、ほんとだぁ。もう痛くなぁい――ってちっげえだろおッッ!!?」


 確かに今はもう痛みが無いよ?

 身体も普通に動くしなんて事はないよ!?


 けどあの痛みは本当に地獄の苦しみだったんだよ!

 あれで消費MP三〇なの!?

 本当にそれだけであのヘル苦痛なの!?


 ま た 耐 え ら れ る 気 が し な い……!


「必殺技ァもうやーやーなのォお!! 撃っちゃうのもうやぁーなのおーーーッ!!!」

「むぅ、翔助殿がとうとう癇癪かんしゃくを起こしてしまわれた」

「とっても可愛いでっす」

 

 なので訴える様に転がり、精一杯の意思表示で応える。


 だってもう無理だもん。

 あんなの撃つくらいなら肘スラッシュの方が一億倍マシだもん。

 腱鞘炎なんてまだ可愛い方だもぉぉぉん!


 毎回全身が砕ける痛みを味わうのと比べたら断然なッ!!!




 そんな訳で俺はトリニティブレイバーを封印する事にした。

 というか恐らく、今後も必殺技なんて使わないだろう。


 己をも殺害しかねない技なんてもう二度と撃ってやるもんかバーカバーカ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る