第30話 唐突にジャンルが変わったんだが?
この塔に来る前、俺はダウゼン達に一つ頼まれごとをされていた。
各仲間達を最低一〇人ほど、アイテム化して持っておいて欲しいと。
元々保険も兼ねて、各一人は持つ様にしていたから違和感は無かった。
それでも一〇人は多いなとは思ったけどな。
だがその理由は、ドオンの塔に入って初めて理解出来た。
「なんだ……これ……ッ!?」
ここは、普通じゃ絶対に通る事の出来ない場所なんだってな。
出来るとしたら、相当腕前に自信がある奴なのだと。
何の自信かって?
そりゃもう決まってる。
リアルアクションステージ攻略の自信だよォ……!
塔なのは見た目だけだった。
中はほぼ空洞で、空まで空間が突き抜けている。
しかもその内壁全面が鉄トゲで埋め尽くされているという。
更にはその中を、空浮く床や砲弾もが飛び交っていて。
足元もよく見ればスッカスカ。
床面積の方が少なく、入口すぐ先でさえ断崖絶壁となっている。
その先を見下ろすと、底にもまた鉄トゲやら溶岩でびっしりときたもんだ。
なに、この殺意満点のダンジョンは。
「待って。唐突にアクションゲームが始まったんだけど? しかも『イトゥミー! ヒャッフウ!』とか叫ぶ常連が挑みそうなハイレベルなんだけど!?」
「いやぁ気合いが入りますなぁ! 先祖の記録を今こそ超える時!」
「フフ、私のお母さん、二死で到達できたのよ? その記録に勝てるかしら?」
「残機一〇あるから保険は充分でっす!」
いや待て待て待て!
なんでコイツラ皆こうもやる気満々なんだよ!?
いいよな、残機ある奴ゥ!!
でも俺無いんだけど!?
単機でここ乗り越えなきゃいけないんだけどォォォ!!?
「安心してくだされ。翔助殿を必ずやタイトルホルダーにしてみせますぞ」
「いやいいから! 普通に安全に攻略すればいいから! つか、こんな所通らないで海渡ろう!?」
「それはいけませぬ。海を渡る船を造るのに一年は掛かりますゆえ」
「むしろそっちの方がマシに思えて仕方がねぇよ!!!!!」
悪いが俺はインドア派だ。
昔からキャンプもした事ないし、アスレチックも嗜んだ事が無い。
部活は将棋部や読書部だったし、体育くらいでしか体を動かした事が無い。
なら究極サバイバルアタック参戦なんてもっての他だ!
この日まで戦い続けられたのも仕様の補正があったからなんだ。
それでもこのアクションステージをクリア出来るかどうか。
もう不安しか無いんだが?
「恐れていても始まらないわ。さぁ行きましょう!」
「あああもう! 何でこんな時ばっかり積極的で強引なの君達ィ!!!」
そんな俺の身体を仲間達が揃って掴み、強引に連れて行く。
しかもウィシュカとユーリスに至っては体まで密着させてきて。
普段なら嬉しいシチュだけど今だけは別だ。
まるで死地にドナドナされる気分だよォ!!
――しかしこうなった以上はもうやるしかない。
仕方ないので覚悟を決めて挑む事にした。
なにせ今、ユーリスが俺の脚にかすって一機失ったので。
壁に飛んで行った彼女の末路はきっと凄惨だったに違いない。
そんな無念を晴らす為にも、ここは何とか乗り越えなければな!
それで最初に挑む事となったのは動く石床。
水平に往復するだけの入門編みたいなやつだ。
それでも落ちれば即死はまぬがれないが。
でもこの光景、なんか知っている気がする。
何かのゲームでこんなシチュエーションに遭遇した気がして。
「あー俺知ってるーっ! これ知ってるゥー! 床に置いて行かれる奴だーっ!」
そしてふとそのゲームを思い出し、つい得意げに叫んでいた。
そう、これはとあるバグゲーとそっくりだったのだ。
動く床に乗ったと思ったら床だけがするりと飛び去り、主人公が落下死するというクソゲーと。
そうだよね、この仕組みって実はすごい難しいし。
製作者サイド曰く、このバグは初心者がよくやる失敗なんだって。
ゲーム造った事ないけど、SNSで見たから知ってた。
「これは乗っても油断しちゃいけない奴、そうなんだろうダウゼン?」
「いいえ、違いますぞ」
「違うのか、そうか」
でも違ってた。
なので恥を圧し殺して真顔でやり過ごす。
「この床はただの背景ゆえ乗る事も出来ませぬ」
「ならなんであんの!?」
「詳しくはこの看板を読んでみてくだされ」
するとダウゼンがふと、傍にあった標識を指差した。
石床に突き刺さった木製の標識を。
なぜこんな所に街道用の標識があるんだよ……。
「なんだこれ。ええと、『不具合発生中につき、反対側に渡る時はこの看板に触れてワープすること』ちゃんと造れよ開発者ァァァ!!!!!」
『ターゲットが間違っています』
しかも読んだら遂に不具合という言葉がしっかり出て来た。
もう誤魔化す気無いだろ開発者。
造り込むの飽きて来たのか?
放置し続けて忘れるくらいに。
世界観がますますゲーム寄りと化していく状況に頭を悩ませる。
もしかしてここは本当にゲームの中の世界なんじゃないか、と。
けど仲間達はそんな悩みなど露知らず、もう反対側で俺を手招きしていて。
そこで俺も渋々看板に触れ、仲間の下へとワープしたのだった。
まだまだ先に続くアクションステージを見上げつつ、不安に溜息を零して。
さぁて、この先本当に無事進めるのかねぇ……。
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