第23話 人さらいの塔攻略-RTA版-

 第六の街へ行くには、関所を抜けて国境を越えないとならないらしい。

 勇者の証があるので通れない事は無いようだが。


 ただ、関所なんてのは大概イベントが待ち構えてるもんだ。


 主人公の道を阻み、強制的に寄り道させる。

 どんなRPGでも使われる常套手段だな。


 そしてこの世界も例外じゃないみたいだぞ。


「翔助殿、こちらですぞ」

「あれ、皆どこに行くつもりなんだ?」


 それはもうすぐ関所に着きそうな時だった。

 仲間達が突然街道を外れ、何も無い湿原へと進み始めたんだ。


「関所を通るんじゃないのか?」

「そうなんだけど、記録にある通りならすぐには通れないの」

「なんでも、毎回ここで人さらい事件が起きるそうな。それで関所の人の子どももさらわれるらしく、助けて欲しいと懇願されるのです」

「なので先に助けておいた方がぁ楽だって事になったでっす」

「さすが歩く攻略本、やる事がRTA過ぎるな」


 どうやら皆の行く先に、その人さらいのアジトがあるらしい。

 にしても毎回起きるなんて、ほんとはた迷惑なイベントシステムだな。


「でも、なんで毎度そんな人さらいが起きるんだろうか。そういう職業でもあったりするのか?」

「いえ違います。実は今回の一件、邪神の配下が絡んでいるのですよ。我々の足止めをする為にと」

「なんだって!?」


 だがそのイベントはいつもとノリが違うようだ。

 思いがけなかった事実に驚愕を隠せない。


 今までに現れた邪神の手先と言えば、あの邪神王子くらい。

 邪神の配下となると姿さえまったく想像も付かない。


 それに、いくらなんでも安直過ぎやしないだろうか。

 本当に邪神の手先がやっているとは限らないし。


 だからふと、いつもの様に聞いてみる事にした。


「どうして邪神の手先が動いていると言いきれるんだ?」

「実は過去の勇者が暴いたのですよ。大人を操って人さらいさせ、この先にある【ベーネの塔】に監禁させていると」

「一体どうやって?」

「とある勇者が逃げようとした配下を捕らえ、拘束し、長い時間をかけてじっくりと拷問し続けたそうです。そこで観念した配下が全て洗いざらい吐いて発覚したそうですぞ。なんでも『勇者が復活するたびにここで人さらいをさせるのだ』って邪神から指示されているのだと」

「怖い! 勇者怖ぁい!」


 まぁその答えは相変わらずブッ飛んでいたけどな。

 過去の勇者の中に元拷問官でもいたのだろうか。

 なんでそんな奴が異世界転移なんて希望したんだ?


 色々と疑問もあるが、情報自体は間違い無いだろう。

 今までもその情報を元に、人さらいイベントをクリアし続けて来たと言うしな。


 そこで俺は記録の情報に頼るまま彼等と行く事に。

 それからしばし歩くと、湿地帯を抜けたところで塔が見え始めてきた。


 高さ的には四階建てのビル程度といった所。

 見上げれば屋上の塀も見えるし、石を投げれば届いてしまいそう。


「塔っていっても思ったより高くは無いな」

「元は霧の掛かりやすい湿地帯での目印とするのが役目ですからな」


 それにどうやら塔自体の建造目的もしっかりしている様だ。

 人さらいの時だけ出て来るとか、そういう謎仕様じゃなくて良かったと思う。


「この上に人さらいがいるんだな。よし、準備して登るとするか!」

「いえ、登る必要はありませぬ」

「んなっ!?」


 でもそんな塔に登ろうとした矢先、仲間達に止められる。

 一体何の策があるというのだろうか。


 それで誘われるがまま付いていった先は、塔のすぐ横。

 雑草が生い茂り、大岩がポツンと佇む所だった。


「まず、この傍にある大岩をのかします」


 その大岩を、ダウゼンが力一杯に押す。

 するとほんの少しだけ岩が動き、地面に小さな穴が現れた。

 それも人一人が通れるかどうかといった程度の。


「それで次に、シャルダンで予め買っておいた火薬袋を、この穴に落とすわ」

「そんな物いつ買ってたの君」


 その穴にウィシュカがポイっと袋を投げ入れる。

 ユーリスも何を思ったのか、壊れた杖を続いて投下していた。


「最後に、ウチが火炎魔法を投下しまっす!」

「ユーリス、なんか楽しそうなんだけど?」


 今度はユーリスが下級火炎魔法を「スポンッ」と穴の中へ。

 更には空かさずダウゼンが大岩を押し戻し、穴があっという間に下敷きに。


 そのダウゼンも岩に貼り付く様に背を預けては踏ん張っていて。


「あとは半刻ほど待てば万事解決ですぞ」

「なんとなく状況を察したけど、やる事かなりエグくない?」


 そこでちょっと地面に側頭部を当て、地下から響く音に耳を傾けてみる。

 そうしたら早速、妙な声が爆音と共に聴こえて来た。


(ウギャアア!! なんで燃えて!? ヒイイイ!!)

(で、出られない!? なんでェェェ!?)

(ま、待て、こ、この杖光ってェ――)


 そして直後、巨大な爆音が地面に響く。

 大地が揺れ、俺が堪らず起き上がってしまう程に。


 これでも半刻待つって事は、しばらく生きてはいるんだろう。

 でも今頃はきっと中で燻製状態かな?


 あぁ、邪神の配下さんすまない。

 まともに戦ってあげられなくてほんッとすまない。

 うちのパーティメンバー、とことん容赦無いんだ。


 なので悪いが、人さらい班になってしまった己の不運を嘆いてほしい。

 



 それでおおよそ半刻後。

 塔の外でブラブラとしていると、塔内から人が出て来た事に気付く。

 子どもや大人、中には武装した者までが。


「おや、あれはさらわれた人達の様ですぞ」

「おそらく誘拐犯も一緒ね。洗脳が解けたんだわ」

「って事は、やっと邪神の配下がくたばったぁでっすね」

「これぞ先人の知恵! 皆無事でよかったですなぁ!」

「やったわね! さっすが翔助!」

「全部俺がやったみたいに言わないで!?」


 なんとまぁ徹底した解決法なことで。

 誰も傷付く事なかったのは良い事だけどね。


 相手も相手だから同情はしたくないけど、それでも不憫に思えて仕方が無い。


 それで俺達はこの後、出てきた人達を連れて関所へ。

 事件を解決したとして声援を受けつつ、国境を無事に渡る事が出来たのだった。


 ……これ、俺本当に讃えられていいの?

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