第24話 遂に来たぞ、アタックスキル!

 関所を越えると、途端にジャングルが待っていた。

 第五の街から一日分くらい歩いただけなんだけども。

 地域で一気に環境が変わるもんなんだな、この世界。


『バトル勝利。翔助達は499,104,513の経験値を手に入れた。翔助達はレベルがあがった!』


 そんな場所に訪れて早速、襲ってきた魔物を排除する。

 相手はまた空中浮遊タイプの蜂族だ。

 相変わらず、この手の相手はちゃんと相手しないといけないのが面倒だな。


『翔助の職業練度があがった! 翔助は【セイバースラッシュ】をおぼえた!』

「お? なにか覚えたらしいぞ!?」


 するとそんな時、今までに無いログがシスメさんから発せられる。

 それもワクワクさせてくれる様な名称付きで。


 勇者たる者、こんなシチュエーションに遭遇して嬉しくない訳がない!


「遂にアタックスキルを習得したのですな。この技は勇者だけが使えるもので、遠くまで斬撃を飛ばせるというスグレモノですぞ! 消費もありませぬ」

「おお! 本当かダウゼン!」


 しかも聞いた感じ、性能も相当に良さそうだ。

 最初に覚える技だからな、適度な便利さを持たせているんだろう。


 にしても、こう覚えたとなるとやはり実践してみたい。


「ちょっと試しに撃ってみていいか?」

「えぇ、いいわよ。サクッとやっちゃいましょ」

「で、どう撃つんだ?」

「魔法と同じでぇ、技名を叫んでそれっぽく動けばぁいいでっす」


 使用方法もおあつらえ向きで、実にわかりやすい。

 なので剣を抜き、言われた通りそれっぽく剣を振り上げてみる。 


「よし……! セイバァァァスラァァァッシュ!!!!!」


 そしてそのまま思いっきり剣を振り下ろした。

 魂を籠め、心行くまま叫びを上げて。


 その瞬間、俺の眼前で驚くべき事が起きた。


 なんと光の斬撃が一直線に飛び、木々を一気に切り落としたんだ。

 それも「ブゥゥゥン!」と波動音まで掻き鳴らして。


「かあッッッこいいーーーッッッッッ!!!!! これがッ! 勇者の必殺技かぁッ!!!」


 予想以上の格好良さだ。

 その威力もさることながら攻撃速度も申し分ない。

 おまけに遠くにも届き、無消費でリキャストも無いらしい。


 ここまで完璧な技がかつてあっただろうか。

 その素晴らしさに、ついつい力拳を振り上げてしまう程だ。


「対魔物に対しては通常攻撃ほどの威力しか出ませぬが、木々など固定HPを持つ物体には無類の便利さを発揮するものですぞ」

「充分だろう。魔物だって適正武器の通常攻撃三~五発くらいで落ちるしな」


 強いて言うなら叫ばないといけない所は少し不便か。

 それでも届く距離はおおよそ三〇メートルとかなり長い。

 蜂族のような相手と遭遇しても、接敵するまでに一~二発は撃ち込めるだろう。

 それだけでも有用性を感じずにはいられない。


「それともう一つ、翔助殿にとっておきの機能をお教えしましょう」

「お、もしかしてスキルを得た事で解放される機能があるのか?」

「えぇ。ほら翔助、貴方の利き手じゃない方の腕を見てみて」

「え? あれ、これは一体……」


 更には追加要素までもがあったらしい。


 ウィシュカにそう言われてふと左腕を見てみる。

 すると蛍光色の紋様が腕に浮かび上がっていたんだ。

 それもまるで十字キーのような配列で合計八つ。


「ショートカットでっすね。勇者の証を使ってぇ配置登録すると、押っすだけでスキルが使える様になるぅでっす」

「叫ぶ必要がなくなるのか!?」

「その通りですぞ」

「そいつぁすげぇや!」


 妙な所で無駄に現代的だな。

 いつもは年代ギャップを感じさせるものばかりなのに。

 まさか異世界でショートカット機能を堪能する事になるとは思わなかった。


 けど、今回ばかりは良機能だと言わざるを得ない。


『蔓生物ビュンビューンがあらわれた。バトル開始』

「むっ、翔助殿、丁度良い敵が現れましたぞ!」


 なので早速とショートカットを登録した矢先、シスメさんが声を上げる。

 それで釣られて顔を上げると、景色の先に妙な生物がいる事に気が付いた。


 緑の蔓に巻かれた何かだ。

 でも足もあるし、コミカルな大きい目もついてる。

 またしてもこの世界特有の魔物な様だ。何族かはもう予想も付かない。


「奴は遠くから攻撃してくるので近づいてきませぬ!」

「よし、じゃあショートカットを試してみるとするか!」


 だがそんな細かい事を考えるのはもう辞めた。

 倒してしまえば何でも一緒なんだからな。

 その想いで右手を素早く走らせ、左腕を指で打つ。


 するとその瞬間、一瞬にして光の斬撃が空を裂いた。


 更には魔物の体の一部をも切り落とす。

 その威力ゆえに本体を激しく弾き飛ばしながら。

 周囲の木々をも巻き込んだままに。


 ただし俺の右肘から出たものが、だけど。

 

「待って。ちょっと待って。剣振るどころか、抜いてさえないのにいきなり斬撃出たんだけど?」

「当然ですぞ、ショートカットですからな」


 どうやらこのショートカット、予想以上に動作カットするらしい。

 斬撃技なのにまさか斬撃モーションまでカットするとは思ってもみなかった。


 いくらなんでも端折はしょり過ぎじゃない?


「確かセイバースラッシュって無制限でリキャスト無しだよね? もしかして連打すると連射できたりする?」

「えぇ、もちろん可能よ」

「一秒間の一六連射にも対応してるでっす」


 せっかくなのでショートカットキーを思うままに全力連打してみる。

 腱鞘炎をも恐れず、某名人を右腕に宿したと言わんばかりに。


 そうしたらその度に斬撃が肘から打ち放たれ、魔物を八つ裂きにして見せた。


『蔓生物ビュンビューン、オーバーキル! バトル勝利』

「強いな、肘スラッシュ。無敵すぎるんよ……」


 跡に残ったのは無数の倒木と、無惨にバラバラとなった怪生物の成れ果てのみ。

 勢いあまっていっぱい放っちゃったからね、仕方ないね。


「さすが翔助殿、お見事ですぞ」

「あ、うん、そだねー……」


 ただ、個人的にはガッカリ感が否めない。

 ショートカット無しなら凄く格好良くて気に入っていたのに。


 でも余りに便利すぎて、ショートカット無しじゃもう使えそうにないよ……!


 便利なのはいいが、失う物も多い。

 時短が必ずしも良い事ばかりとは限らない、そう思い知らされた今日この頃なのであった。

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