第21話 それでも眼福要員が欲しい

 一目ぼれが素敵な出会いとは限らない。

 その現実を異世界で味わわされるとは思っても見なかった。

 まだ低能力なら許せるけど、性格が悪いのはちょっと許せないかな。


 という訳で宿屋の受付嬢を速攻で解雇した訳だけども。

 今は彼女が居なくなった宿屋の前で少し悩んでいる。


「なぁ、解雇した人って、どこに行ったんだ?」


 本当はさっさと洞窟を抜ければいいものの、なんか気になってしまって。

 無理矢理に勧誘した罪悪感があるからだろうな。


 それであれから一時間くらい宿屋前で待った。

 でも受付嬢は一向に帰ってこないんだ。


「残念ながら住民系の仲間を解雇すると、この世界から消え去ります」


 だが、その理由は想像の遥か斜め下を突き抜けていた。


「ですが安心を。こういった仕様で住民が失われた場合、いなくても店などは営業し続けますし、作物なども勝手に収穫されますので経済に支障はありませぬ」

「それ全く安心できないんだけど!? 住民の存在意義とは一体……!」


 この世界、余りにもゲームっぽさを追求し過ぎて色々と不具合起きてる。

 なんなの、人がいなくても回る経済って……!


「それと、しばらくすると不足した役割の住人が普通にリポップするわ。それもスッと現れて、今までずっと居たかの様に馴染んでいるから平気よ」

「人は普通リポップなんてしないと思うんだけど!? なんか勧誘システム、世代交代とか輪廻転生とかの仕組み完全に破壊してるよね!?」


 おまけに仕様がしっかり補填までやってくれるらしい。

 その代わりに全く知らない奴が湧いて、いきなり親密に接してくるとか。


 先住民に与える恐怖を一切考慮していない、とても恐ろしい不具合だと思う。


 しかしこの世界の住民はそんな不具合ももう受け入れているんだろう。

 それら全てが自然な事なんだって信じているから。


「……よし、宿屋はもういいか!」

「それがぁいいでっす。考えるだけ無駄なぁのでっす」


 なので俺は料理の時同様、深く考える事を辞めた。

 気にしてるの、俺だけみたいだし。


 ただ、代わりに別の好奇心がむくりと膨れ上がる。

 一つだけ気になる事が出来たんだ。


「ところで、もしかして住民リポップって制限無かったりするのか?」

「もちろんですぞ。なので、かつてとある勇者が厳選し、超屈強な住民ばかりを引き連れて邪神封印へ向かったという話です」

「まさかここで厳選という言葉を聞くとは思っても見なかったわ」


 どうやら同じ事を考えた奴が過去にもいたらしい。

 きっとそいつは仕舞えるモンスター育成に余念がない奴に違いない。


 とはいえ、俺はそこまでやる気なんて無いが。

 ダウゼンもウィシュカもユーリスもいい奴等だからな、このメンバーは固定にしたいと考えている。


 なのでせいぜいあと一人か二人、眼福要員が欲しいといった程度だ。


「なら改めて、ちょっと気に入った住民がいたら勧誘してみてもいいか?」

「もちろんですとも。酒場での応募と違い、容姿や性格が選べますからな。性能はそこから絞っていけばよいでしょう」

「そこはせめて能力って言ってあげよう?」

「もう少し進めば職業も変えられるからね、バッドスキル以外は問題無いわ」

「あ、やっぱりあるんだな転職機能」


 それで早速、中継地点を一通り回って目星をつけてみる事に。

 すると二人ほど候補を見つけたので、思い切って普通に誘ってみた。

 もちろん今度はちゃんと個々に事情を説明済みで。


 その上で二人とも快く承諾してくれたよ。

 消えるかもしれないとわかっていてもね。


 機能なんて使わなくてもみんな素直なもんだ。

 余計な仕様と邪神さえなければとてもピュアな世界になりそうなんだが。


 それで早速、二人をカメラで撮影。

 アイテム化した上で使い、パーティに加えてみる。

 その後はお決まりの、仲間三人による審査開始だ。


 まず一人目はこんな感じ。

 

//////////////

イステル=マルリ♀

職業:道具屋の看板娘

Lv:1

HP:120/120

MP:12/12

攻撃力:6

防御力:6

瞬発力:5

知性力:9

精神力:10

運命力:5


パッシブスキル

〇村人 〇武器特攻:錫杖 〇原価低減

アタックスキル

〇ソロバンアタック

//////////////


 能力は見た通り少し控えめ。

 容姿はユーリスよりちょっと背が高く、少し肉付きが良い。

 浅緑ショートで、膨らむ様にもこもこっとした感じがとてもキュートだ。

 動物で例えるなら羊さんと言った所かな。


「これはなかなかの性能ですな。魔術士寄りでスキルも申し分ありませぬ」

「少し全体的に能力が低いから大器晩成型ね。今後が楽しみだわ」

「あと【原価低減】で買い物が少し安くできまっす。補助要員でも役立ぁちそう」

「面白そうな攻撃スキルあるな。まだ無い身としては羨ましい限りだよ」


 しかも仲間達の評価は上々、候補としても手堅いだろう。

 可愛すぎるって程でもないけれど守ってあげたい温和タイプなので、ぜひとも仲間に加えてみたい所だ。


 で、二人目はこんな感じだった。


//////////////

ラトニャ=アウリール♀

職業:踊り子

Lv:1

HP:6380/6380

MP:1880/1880

攻撃力:421

防御力:391

瞬発力:630

知性力:325

精神力:410

運命力:210


パッシブスキル

〇村人 〇武器特攻:扇 〇ブレードダンサー 〇シャドウムーヴ 〇先見の明 〇トレースライン 〇無償の愛

アタックスキル

〇虹孔雀の構え 〇震天節の構え 〇露幻草の構え 〇魔廻典の構え

//////////////


 待って。なにかおかしい。

 レベル1とは思えない頭のおかしい性能の人来たんだけど?

 スキルとか改行するくらい一杯ついてるんだけど???


 見た目的にも最高、俺の一押しだ。

 褐色肌に銀長髪で赤のラインが少々、踊る度にふわりと浮くほど柔らか。

 その背丈は俺並みに高いが、細身で綺麗なのでとても軽やかに見える。


 となると、これはもう決定じゃないか?


「うーん、これはお勧めできませんなぁ。恐らく彼女は極早熟型で、レベルが上がってもほとんど成長しませぬ」

「スキルも数だけかな。先見とトレースはほぼ同じ効果だったりと、とりとめがないわね」

「多分もうスキルはこれで打ち止めぇでっすね。恐らく中盤くらいから能力不足で泣きが入るでっす」


 フゥー! 辛辣ゥ!


 どうやら初期能力が全てとは言えないらしい。

 逆にここまで不自然に高いと後々が辛いそうだ。


 そこまでわかる仲間達の知識が怖い。


「二人とも誘うのも手ですが、ラトニャ殿はいずれ離れる運命。下手に情を育みますと、別れの時が辛いかもしれませぬ」

「そうか……そうだよな。ならここで別れた方が彼女の為にもいいか」

「えぇ、そうですね。ありがとう勇者様、淡い夢をくださって感謝いたしますわ」


 仕方が無いので、ラトニャさんとはここでお別れする事に。

 笑顔で去っていった彼女の姿は、俺の心には少し重かった様だ。


 不意に頬を伝った感触がなぜか、とても熱く感じるくらいに。


「イステルだよぉ~これからよろしくねぇ~」

「ああよろしくな、イステル」


 その後、気を取り直して一人目のイステルを仲間に加える。

 それで俺達はそのまま、五人で街道洞窟を抜ける事にした。


 適正レベルより圧倒的に低いけど、まぁ平気だろう。

 彼女にもドリルを装備させたし、低レベルでも心配いらないだろうさ。




 ――なんて思っていたのだけど。

 俺の見込みはどうやら甘過ぎた様だ。


 なぜかダンジョンの魔物たちはやたら知能が高いらしい。

 おかげでレベルが最も低いイステルを集中的に攻撃してきたんだ。


 その結果。


『イステルは倒れた』

「「「イステェェェェェェルッ!!」」」


 守りきれませんでした。


 そういえばこの世界、レベルアップしてもHP全快しないんだよチキショウメェ!

 誰だよ、「戦闘中もレベルアップし続ければ死にはしない!」なんてテンプレ考えた奴ゥゥゥ!!!!!


 しかし残念ながら、この世界はレトロRPGに近い概念を持ってる。

 この理不尽なくらいに徹底してくる難易度とかはもう。

 なのでサービス精神なんて一切持ち合わせていないみたいだ。


 おかげで俺は一人の美少女が散っていく姿を目の当たりにしてしまった。

 こういう所はしっかりリアルなのがたまらなく憎らしい……!


 それから俺達は速攻で街道洞窟を抜け、反対側の中継地点に到達。

 少し休憩を挟み、第五の街へと向けて歩み始めていた。

 もちろん、イステルを手厚く弔った後に。


 するとそんな時、奇妙な物体が道の先からやってくる。


『ブラックニードルがあらわれた。バトル開始』


 とうとう空中浮遊した相手が現れ始めた様だ。

 コイツばかりは地面落ちの期待は出来ないな。


 となれば、実力で排除するしかない。


「敵ですぞ翔助殿!」

「よし、前衛は任せてくれ!」


 そこで俺達は今まで以上の気迫を向けて魔物と対峙した。

 イステルの死はそれだけの心の成長を促してくれた様だ。


 只の村人で、すぐいなくなって愛着も育まれなかったけれど。

 人一人の命なんて無くても変わらないってくらい軽すぎる世の中だけど。


 けどきっとそんな理屈なんてどうでもいいのだろう。

 少しでも一緒にいてくれたから。

 そんな仲間の為にも、これからも頑張ろうって気になれたんだからさ。


 だから重い雰囲気を引きずるのはここまでだ。

 これからも俺達は、この理不尽な不具合世界の中で笑いながら戦っていくよ。


 例え束の間だろうとかまわない。

 それでも、バグまみれの中で生きる人々の笑顔を守ってあげたいから。

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