第20話 勧誘システム(なお
勇者の証には【勧誘システム】と呼ばれるものがあった。
俺はどうやらそんな最重要システムを見逃してしまっていたらしい。
そういう所に気付かせてくれるダウゼンにはいつも助けられているな。
「相手をパーティメンバーに誘うと強制的にパーティへ組み込むシステムです。戦闘状態でなければ基本的には誰でも勧誘する事が出来ますぞ」
「それ勧誘って言わないと思うんだが?」
ただ、紹介されたシステム自体は不具合以外の何者でもなかったが。
有無を言わさずに連れていけるって、とてもこの世界らしい仕様だと思うよ。
あまりにも理不尽過ぎて使いたいと思えないくらいに。
――でも、今回ばかりは少し心が揺れる。
あの受付嬢を無条件で仲間に入れられると思うと。
誰も不快に思わないのならいっそ。
「……どうやるんだ、ダウゼン?」
「カメラを使うのですぞ。相手を撮り、アイテム化した所で使用すれば、自動的に仲間へと組み込まれるのです」
「想像を遥かに超えた強制具合だな! ただのバグなんじゃないのそれ!?」
いや、これは世界を救う為に必要な事なんだ。
素晴らしい仲間を一人でも増やし、この旅を完遂する為の大事な行為なんだ!
そう言い聞かせ、ファンタジースマホを手に取る。
そしてすかさず踵を返し、宿屋へと戻った。
あの可憐な娘を再び視界に収める為に。
「いらっしゃいませー! ……あら、何か忘れものですか?」
「すまない、君を今から……勇者パーティへと勧誘するッ!!」
「えっ――」
そんな俺は屋内へと入るや否や、カメラを構えて機能を解き放つ。
するとたちまち彼女の姿が画面から消え、同時にログが幾つも流れた。
『翔助は宿屋カウンターを手に入れた』
『翔助は呼び出しベルを手に入れた』
『翔助は椅子を手に入れた』
『翔助はメルティエを手に入れた』
『翔助はユーリスを手に入れたが二つ以上持てないので諦めた』
「受付嬢ゲット、だぜ……」
多少なりに罪悪感はある。
有無を言わさずやってしまった事に。
これじゃあ人さらいと何ら変わらないんだって。
けどそれはあくまで、現実の倫理観だ。
この世界では今の様な勧誘は許されて、認められている。
それなら今くらいは
理不尽な世界だから、少しくらいは自分のわがままを通したいって。
それくらいはしたっていいじゃないか、ってさ。
再び己に言い聞かせて罪悪感を紛らわせる。
それで早速、アイテム化した受付嬢使ってみた。
「――まさかあなたがあの勇者様だったなんて。勧誘、ありがとうございます!」
「あ、ああ……嫌だったりしない?」
「いえ、とんでもない! 光栄の至りです! むしろ嬉し過ぎて卒倒しそう!」
「そ、そうか、そうかぁ~~~!」
すると意外に、現れた当人は純粋に喜びを見せてくれて。
なんだか戸惑っていたのが馬鹿みたいだと思えるくらいに素直だった。
そうだよな、そういう所が可愛いって思ったんだ。
きっとこれは一目ぼれとかそういう類に違いない。
「それじゃあこれからよろしくな。えっと、メルティエさん?」
「はいっ!」
そんな相手とこれから冒険できると思うとドキドキしてくる。
これだけで冒険の意味がグンッと増えた気がしてしょうがないよ。
これから彼女と一体どんな旅が待っているんだろうなぁって!
「あ、いけませぬ。その方はゴミなので」
「見紛う事無きゴミね」
「産廃ゴミでっすね」
「なんでェ!?」
でもすかさず仲間達から酷評が飛び交いまくった。
ついでに復活させてやったユーリスまでひどくない!?
「一体何を根拠にそんな事言うのかなァ~~~???」
「ステータスを確認すればすぐわかりますぞ。その娘はどうやら稀に見るハズレキャラの様です」
しかし彼等は決して根拠なくして意見を言わない。
何かしらの裏打ちされた理由が必ずあるんだ。
だからこそ俺は恐る恐る、メルティエのステータスを開いた。
//////////////
メルティエ=マルシャリヤ♀
職業:宿屋の受付嬢
Lv:1
HP:285/285
MP:0/0
攻撃力:12
防御力:10
瞬発力:9
知性力:11
精神力:12
運命力:8
パッシブスキル
〇通常攻撃-1 〇村人 〇純情乙女
アタックスキル
なし
//////////////
基本ステータス値的には申し分ないと思う。
武器も無いし、防具も布の服と靴だけだから。
それ含めると初期のダウゼンより強いんじゃないかってくらいだ。
けどすぐ、見慣れない項目がある事に気付く。
なんだ、このスキルって。
こんな項目って最初からあったか?
「我々はまだスキルを憶えるレベルではないので見えなかったのですが、村人などは制約がある為に最初からスキルを所持している場合があるのです」
「でもこのパッシブスキルは全部、デバフ効果があるのよ」
「それも戦闘で役に立たないってぇくらいの効果でっすね」
これはどうやらまだ解放されていない要素だったらしい。
有りそうだとは思っていたが、本当にあったんだなスキル。
でもそのスキル全てがメリットだけとは限らない様だ。
「まず【通常攻撃-1】ですが、これは攻撃回数を示しております。つまり、これをどうにかしないと攻撃回数がゼロ、すなわち攻撃できなくなるのです」
「そこらへん意思とかでどうにかならないの?」
「無理ですな。仕様が邪魔して手が出せなくなりますゆえ」
一個目がいきなりエグかった。
通常攻撃回数を減らすスキルとか、普通はあっちゃいけない物だろう。
どうして実装したのかと頭を疑いたくなるレベルだ。
「【村人】は行動速度を落とすものね。これは住民系なら誰でも持ってるわ」
「ならなんで?」
「本来は代わりに【農具特攻】などのスキルがあるはずなのよ。それがあれば【村人】の効果を一部の武器で相殺出来るんだけど。でも彼女にはそれが無いの」
二個目もなかなかに厄介だ。
得意武器が無いので常時弱体しているようなもんだ。
「特に【純情乙女】スキルは最悪でっすね。余計なイベントを呼び込んだりぃ、敵を寄せ付けたりぃするでっす」
「それ俺にも効いてない?」
「翔助様だけでなく、色んな男にもぉ効いてるはずでっす。そのせいで多分この子、相当なぁビッチなんじゃないかって」
「OH……」
三個目は見た目こそいいけど中身が酷い。
まるでメルティエの性格を投影しているかの様な性能だよ。
それが暴かれたせいなのか、彼女すごく居心地悪そうだし。
やめて、歪んだ顔逸らして舌打ちしないで!
何その嫌悪顔!? 俺の恋心をぶち壊さないでェ!
こうなると無能どころかマイナス能だよ。
デメリットしか見当たらない娘だったよ。
つまり外面だけが自慢だったって事かよォ……!
クッ、そんな娘に俺は騙されていたのか!
これじゃあチョロイン遭遇どころか俺がチョーローじゃねぇかァ!!!!!
「ダウゼン、解雇方法は酒場の時と同じでいいんだな?」
「えぇ同じですぞ」
そんな訳で俺はこの後、彼女を躊躇なく解雇した。
最後は可愛い顔で放送禁止用語連発してたし、後腐れなくていい別れだ。
にしても今回は本当に助けられたな。
仲間達の機転のお陰で既成事実まで至らなくて良かったよ。
ま、そこに至る勇気が俺にあるかどうかは別としてね。
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