第14話 禁断の行為

「皆聞いてくれ、俺にはここでやっておきたい事がある」


 九一人パーティを崩した後、俺達は酒場で食事を摂っていた。

 別れた残り八七人が受付の裏からどこへ消えたのか、そう考えてしまった事を忘れる為にと。

 

 そうしたらふと思い浮かんだのだ。

 この第三の街アルタスでやるべき事はまだあるのだと。


 その一つが、コレだ。


「さっきの大増員でうやむやになってしまったが、真面目にあと一人だけメンバーを増やしたいと思っていたんだ。正直、俺以外が後衛なのはいささか不安だと思ってね」


 それが前衛の確保。


 今の構成は俺一人が前衛で、他は後衛だ。

 それでも普段なら問題無いが、想定外の出来事が起きると対処のしようがない。

 例えば伏兵などが現れて挟撃された時とかな。

 こうなると一番脆いユーリス辺りが真っ先に倒されてしまいかねない。


「なるほど。それに今だと翔助殿が敵対心を一挙に引き受ける事となってしまいますからな。確かに、初期メンバーにしてはバランスが悪いかもしれませぬ」

「ダウゼン、戦士って本当はその分散役なんだからな?」

「なん……ですと……!?」

「知らなかったんかぁーいッ!」


 あいにく、パーティの盾たる戦士がこの体たらくだからな。

 先祖代々、遠距離近接攻撃役をやってきたせいで前衛の自覚が無い。


 なので身軽に動ける前衛が必要だと思ったんだ。


「そこで実質パーティ上限が無いというガバ設定を利用して五人目を迎えたいと思う。それも美少女を」

「美少女ってぇ本当に必要でっすか?」

「必須事項だ。後世に語られるパーティとしてビジュアルは大事だろう。となればあと一人はどうしても美少女がいなくてはならん」

「さすがね、翔助が考える事は一味違うわ! 特に私を美少女としてカウントしている所は!」


 あとこれは個人的なこだわりだが、三人目のヒロインも必要だ。

 大概のラノベでは初期ヒロインは三人が安定と言われるくらいだからな。

 しかもその条件を満たすのは早ければなおいいとも。


 だから決してやましい気持ちで迎える訳じゃあないぞ。


「本当ならドラマティックに出会い、打ち解け、心を触れ合いながら仲間になっていくシチュエーションが好ましい。しかしこの世界ではそんな状況に出会う可能性など皆無だ。だからいっそ切り替えていく」


 素敵なヒロインとの出会いを待っても無意味だからな、この世界では。


 イベントクエストで出会う事はあったが、いずれも攻略レベルが鬼高い。

 全てユーリスが焼き尽くさないと勝てない難易度ばかりだった。

 シスターの一件しかり。


 それでは焼き尽して敵対心を抱かせたまま仲間に入れる事になってしまう。

 それも髪さえほぼ残らない、まさに生まれたままの美少女をな。

 ならいっそ酒場で真っさらな人を迎えた方がいいってワケだ。


 それで仲間達の同意を得て、早速と選定を始める事に。


「ではどの様な職業の仲間を迎え入れるつもりですかな?」

「今の所考えているのはシーフとか武闘家とか忍者とか。他に候補があればいいんだが」

「かつても同じ事を仰った勇者がいたそうですが、シーフや忍者という職はありませぬ。当てはまるのは【迅駆士じんくし】という短双剣で戦う職となります」

「ま、シーフも忍者も元は良くない名前だしな」

 

 やはり知識の面で仲間達はとても役に立つ。

 職業一覧も例の日記には記されていた様で、色んな職業を教えてくれた。


 例えば速さを求める職業ならこんな感じ。


迅駆士ハイスラッシャー……反応速度と攻撃回数に定評のある双剣使い

格闘士グラップラー……素手やナックル、蹴りなどを駆使して闘う体術使い

豪破士ミッドブレイカー……一撃を狙って武器の重さで飛び交う棍棒使い

魔闘士エーテルエッジ……魔法の刃を奮い、遠近に対応した魔導闘士

閃剣士シンフォナイザー……疾風魔法で戦場を駆け巡る魔法剣士

機翔士マッハブースター……魔導ブースターを使用、戦場の空を駆ける重火器


 他の世界にさえ無さそうな職の数々を見よ。

 俺自身がなってみたいと思うものばかりだ。

 これでも速さで絞っただけの一部に過ぎないんだから豊富だよな。


 まぁ全てが使えるかどうかは疑問だけど。


 後半二つは凄そうだが、ダウゼンの説明がちょっとどもってたし。

 何かしら問題があるんだろう。地面に落ちる問題とか。


 そんな反応もあって、ひとまず安直な迅駆士を選ぶ事に。


「次は名前を選ぶ訳だが、これも俺が選んでいいか?」

「もちろんいいですとも」


 で、今度は仲間自身を選ぶ訳だが。

 これ実はユーリスの時と同様に、あの紙へと名前を書く必要がある。


 つまり、書かれた名を持った人物がそのまま現れる。

 例え「バカアホ」と名付けたとしても、本当に「バカアホ」という奴が現れるんだ。

 そこがまたレトロRPGっぽいというかなんというか。


 だからそこで、俺は一つトライしてみる事にしたんだ。

 遥か昔、幼い頃にやりたくてもやれなかったあの事を。


 ヒロインの名前を、好きな子の名前にするという禁断の行為を。


「そう、彼女の名は【虹原 ゆうか】だ……!」


 彼女は俺の初恋とも言っていい。

 高校で出会って、大学も一緒で、就職して離れてからもSNSでよく話したものさ。

 でも俺はずっと思いを寄せながらも告白出来なかったんだ。


 だって彼氏いたんだもん。

 あ、それ俺の親友の事な。


 本人達は隠してたけど知ってる。

 デートしてる所うっかり見ちゃったから知ってる。

 すっごい幸せそうだったから今でも脳裏に焼き付いてる。ギリィ!!


「用紙五枚しか作れてないけどいいかい?」

「ああ、構わない。やってくれ」


 けど、それでも想いは断ち切れなかった。

 それだけ可愛くて、可憐で、とても気遣ってくれるいい娘だったから。

 彼女とは、この世界に飛ぶ前まで普通に接していたくらいに。


 ならもう彼女の分身をここで創ってやる!!!

 現実で想いを叶えられないならいっそ!!!!!


 その一心で用紙をお姉さんに渡し、遂に彼女と異世界での対面へ。


「ゆうかさん! お仲間がお呼びだよ!」

「はぁーい!」

「――ッ!?」


 だが、やってきたのは似ても似つかない人物だった。

 それどころか、美少女ですらない。


 そもそも女性かどうかさえわからない。

 

 筋骨隆々で身長は二メートルほど。

 茶髪のツーテールという所だけは共通している。

 しかしそれ以外はどう見てもマッスルなオッサンでしかない。

 おまけに無駄に露出が多く、視線のやり場さえ困る程だ。


「この人でいいんだね?」

「よくないです」


 なので速攻でお帰り願った。


 どうやらこちらが決められるのは名前と職業だけらしい。

 性別や性格、容姿などは完全なランダムなのだそう。


 教えてくれダウゼン、紙が文字から意味を読み取るとは一体なんだったのか。

 

 なお残り四枚でゆうかガチャを回したのだけど全くダメでした。

 どのゆうかも世紀末に出てきそうな奴等ばかりで、美少女どころか美男子にさえ出会う事もなく。


 という訳で結局、俺達は四人パーティのままでしばらく進める事にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る