第13話 集いの酒場

 第三の街アルタス。

 実質、最初の街から一日で辿り着ける隣国の首都だ。

 この首都同士が極近い世界観が未だよくわからない訳だが、ともかく俺達はそんな街へと辿り着いた。


 ユーリスを何とかしたかったからな、ひたすら競歩で急いだよ。

 その速度で逃げれば敵からは逃げられるし、追って来られても勝手に死ぬから特に立ち止まる理由が無い。

 ただ、おかげでもう足がパンパンで休みたい気分ではある。


 しかしここは一つ耐え、早速とある施設へと向かった。


「ここが第三の街から存在する【集いの酒場】ですぞ。ここで仲間を入れ替えたり、新しい仲間を迎えたりする事ができるのです」

「なんで最初の街にだけ無いんだよ。最初こそ大事だろ、その要素」

「わかりませぬが、開業すると謎の力によって即廃業させられるそうですぞ」

「やだなにそれ。『仕様』怖い」


 そして辿り着いたのは定番の酒場。

 よくRPGで仲間を勧誘する為に用意される場所だ。

 どうやらこの世界も相変わらず酒場らしい。もっと別なの無かったの?


「でもまさか二人とも、ユーリスの代わりを雇う、とか言わないよな?」

「アハハ、まさかぁ! 私達初期メンバーは特別固い絆で結ばれてるから、そんな無責任な事はしないわよ」

「でも実際に会ったのは三日前とかそんなんだよね?」

「うん」

「……」


 とはいえ仲間もこう言っているし。(色々と不安要素だらけだけど)

 今後も活用する可能性もあるからと、ひとまず足を踏み入れる事にした。


 そこで待ち受けていたのは、やはりそれらしい雰囲気だ。

 幾人もの冒険者たちや歩き回る店員など、繁盛している様でとても賑やか。

 酒場がなぜか食事処や求人所と一体化しているのももはや定番だよな。


 だとすれば奥に見えるのが雇用系の受付か。

 少し年増のお姉さんが受付嬢なのもお約束だな。


「いらっしゃい、仲間をお探しかい?」

「あぁ、そんなもんだ」


 それで覚悟を決めて尋ねてみる。

 すると相手もそれなりに仕事がこなれているのか、眼前へ貼り付くなり先にきりだされてしまった。


 ただ妙な安堵感を感じるな、テンプレみたいな台詞だったのに。


「ならそこの用紙に呼んで欲しい奴の名前を書き込んで渡しとくれよ」


 で、その人に案内されたのが、カウンター脇に置かれた用紙の束。

 それを一枚、ペンと共に取って仲間達の下へ。


「こういうのを渡されたんだが?」

「そこにユーリスの名を書いて受付に渡すのですぞ」

「日本語でもいいのか?」

「問題ありませぬ。紙が言語ではなく意味を読み取ってくれますからな」


 早速、教えられた通りに用紙へと名を刻む。

 ダウゼンが教えてくれた事に感心しつつ。


 意外とファンタジーらしい要素もあるんだなぁって。


「この人でいいんだね?」

「ああ、た、頼む」

「ユーリスさん! お仲間がお呼びだよ!」

 

 それで用紙を受付嬢へと提出してみる。


 すると早速と何のためらいもなく、こう叫びを上げていて。

 まるで待機中なのがわかっているみたいな。


 なので俺も苦笑いを浮かべていたのだけれども。


「はぁい。あ、翔助様ー! 酷いですよぅ、いきなりぃ撮らないでくださぁい!」


 本当に出て来た。

 受付嬢の裏の幕から、ユーリスがなんのためらいも無く出て来やがりました。


 ちょっと待って、なんで!?

 君、次元の彼方に消えたんじゃないの!?

 もしかして受付嬢の裏の幕、異次元と繋がってたりする???


「我々の様な特殊メンバーは死んだり消えたりしても再び呼び出せるのですぞ。もちろん別れた時と同じステータスですので、幾ら死んでも安心ですな」

「なにその不死身設定!? あの幕の裏にクローニング装置でもあんの!?」

「それは我々にもわかりませぬ。唯一知るのは受付嬢のみだとか」

「フフッ、さぁどうだろうねぇ。あるかも、しれないねぇ?」

「受付嬢さん、さりげなく『仕様』を越えて会話に入ってません?」

「シスターもですが、イベントキャラは皆パーティメンバー扱いなのです。なので連れて行く事も出来ますぞ」

「なにそのガバ設定」


 な、なんにせよユーリスが戻って来た。

 まだ呑み込み切れてはいないが、ひとまずは安心だ。

 喜ぶままにスキンシップが出来ないのは辛い所だけど。


 代わりにエア手のひら合わせをして、堂々と再会を祝してみた。


 タイミングはばっちり、ユーリスもとても嬉しそう。

 一緒に行動して間もないけど、どうやらそれなりに信頼は築けていたらしい。

 もちろん、他の仲間達ともね。


「こうやって仲間の入れ替えが出来る様になりましたからな、早速もう一つ裏技を教えておくとしましょうか」


 けどそう落ち着いたと思った矢先、ダウゼンがまたこんな事を言いだし始めた。

 待って、再会の感動的雰囲気をぶち壊しにしないで!


「翔助殿、さっきの用紙にまた誰かの名前を書いてみてくだされ。誰でも構いませぬ」

「え? じゃあまたユーリスでも」


 しかし流れに乗せられがちなのが俺だ。

 というよりこの世界の激流は逆らうだけ無駄だと思っている。

 なので言われるがまま、用紙に再びユーリスの名を連ねた。


 それで受付嬢に渡してみたのだけど。


「この人でいいんだね?」

「〝この人〟って、ユーリスなら俺の裏にいるけど?」

「ユーリスさん! お仲間がお呼びだよ!」

「はぁい!」

「なぬ!?」


 だがこの時、俺は衝撃的事実を目の当たりにする事となる。


 幕の裏からまたユーリスが出て来たのだ。

 俺の背後にもいるのに、なぜか『二人目』が。


「我々特殊メンバーだけは幾らでも呼べるのですぞ。パーティメンバーも最大は四人とされていますが、それでも枠を超えてこうやって好きなだけ増やす事が出来るのです。パーティ表は四人のままですが、非表示で存在していまする」

「「人数が多いとぉ安心でぇすよね、翔助様!」」

「安心どころか頭が痛くなってきたんだが? あと君、なんでそう簡単に受け入れられてるの?」


 しかもこの増殖バグ、際限が無いときた。


 ならばと試しにもう一つユーリスを呼んでみたら、本当にまたやってきた。

 三人、四人と同じ幼顔の人物が次々増えていく。

 それぞれにきちんと意思を持ったままで。


 こうやって増やす度に、俺のタガもが徐々に外れていくかの様だった。




 それから一時間後。

 調子に乗った俺は気付けば、九一人パーティを抱える長となっていた。

 ダウゼン、ウィシュカ、ユーリスをそれぞれ三〇人づつまで増やした事で。


 フハハハ! 置かれていた用紙を全て消費してやったぞ!


「これ、事実上最強なのでは?」

「「「えぇ、我々が盾になれれば翔助殿は決して死にませぬな」」」

「「「必殺・数の暴力、なのでっす!」」」

「「「声が常にコーラスになるのは若干うっとおしいけどね」」」


 声はおろか団体行動も少し――いや、かなりうっとおしい。

 通り一帯を占有出来るこの人数感は圧倒的だ。

 けど、このパーティなら何があっても負けないだろうな。


 距離無効なダウゼン軍団なら先手での開幕勝利も余裕。

 いくら多く敵が近づいて来てもウィシュカ部隊で簡単に蜂の巣だろう。

 あとはユーリス連装砲の無慈悲な滅却魔法で漏れなく消し炭だ。


 ククク、我ながらなんて恐ろしいパーティを構築してしまったんだァ!


 ――と、まるで軍師の様な気分でうぬぼれていたのだけど。

 この後、ダウゼンから「取得経験値は人数頭割り」という話を聞く事に。

 経験値は共有しないらしいので単純にレベルが上がり難くなるそうな。


 という訳で結局、俺達は元の四人パーティへと戻る事になったのだった。

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