第12話 勇者の証を使いこなせ
勇者の証を手に入れた翌日。
俺達は早速、第三の街へと向かおうとしていた。
「【第三の街アルタス】はここからあの山を越えた所にあるわ。でも半日歩き続ければ着くからそう遠くは無いと思う」
「あの山結構高く見えるんだが、半日で越えられるもんなんだな……」
「街道が整えられていますからな。おかげで流通もあって、色んな物があつまってくるらしいですぞ」
「大都市だからぁ装備も一式新調出来るくらぁい品物が揃ってるって話ぃでっす」
「へぇ、それは楽しみだなぁ」
その道自体はそれほど辛くは無さそう。
恐らく、かつての勇者とその仲間達が道を切り拓いたからだろうな。
各都市の流通と、未来の勇者達の道程を確保する為に。
となると最初の街があんなに品ぞろえ良かったのもこれが理由か。
かつての勇者の中には元卸問屋でもいたのかな?
そんな妄想を膨らませつつテレスを出る。
ウィシュカも家族と別れを済ませたし、もう準備に余念は無い。
個人的に気になる事はあるけども。
それは例の機能拡張の事だ。
勇者の証を得た訳だが、別に感覚が増えたとかそういうのは無い。
まぁ昨日はウィシュカ一家との触れ合いに夢中となり、弄りさえしなかったもので。
だからふと取り出し眺めてみる。
うーん、手に掴めるこのサイズ感……なんだかしっくりくる。
持ち慣れたかの様な、扱い慣れたかの様な。
「そういえば翔助殿、先日は勇者の証を試しておりませんでしたな。早速使ってみますか?」
「これ使う物だったんだな!」
するとそんな俺に気付いたのか、ダウゼンが人差し指を掲げてにこやかに提案してくる。
俺としては願ったりだ。
例の『記録』がある以上、機能についての知識も充分にあるだろうから。
「ならレクチャーを頼みたいんだけどいいか?」
「もちろんですとも! では早速使ってみるとしましょうか。その勇者の証――別名【ファンタジースマホ】を!」
「うわぁいきなり現実チックになったな!」
でもその知識がいきなり俺の過度な期待を現実へと引き戻す。
なんだよファンタジースマホって。完全に雰囲気ぶち壊しじゃないか!
……まぁラノベじゃスマートフォン持ち込みは常套手段だしな。
それにそのものって訳じゃないから、ここは一歩譲っとくとしよう。
そう自己解決しつつ、勇者の証に触れてみる。
ノリはもちろん現実の通り、顔認証をさせるかの様にして。
そうしたら突然、証が輝いて空中に画面が表示された。
おお、これはむしろ現実よりハイテクかもしれないぞ。
とはいえこの感じ、ステータス・オープンとすっごいよく似てるけど。
「さすが翔助殿、既に扱い慣れている感がありますな」
「既視感しか無いしな。表示の仕方も含めて」
「ファンタジースマホには様々な機能が搭載されておるのです。例えば【証インベントリ】という機能。手に入れたアイテムが不思議な力でその証の中に収納されるのです。取り出す時は証を操作すれば、翔助殿の腰に備えたポーチと繋がって取り出せるそうです」
「ほぉ、無限収納鞄みたいなもんか」
「残念ながら数に許容はありますが、サイズに制限は無いそうな」
様相はさておき、機能はかなり有用的だ。
言われた通りに証インベントリを開いてみると、既にアイテム名が載っていた。
ポーチに入っていた道具も自動的にカウントしてくれるらしい。
「他にも地図機能や緊急クエストマッピングが表示されます。あ、でもメインクエスト案内は役に立ちませぬ。永遠にバラウル山を指し続けますゆえ」
「ショートカットのせいで機能不全になってるじゃねぇか! まぁ皆がいれば案内いらなさそうだけどさ!」
他にも色々と機能がある事を教えて貰えた。
メンバーのステータス一斉確認や装備の簡単管理など。
中には不具合のせいで機能していないのも幾つかあったが。
特に【セーブ機能】とかなんで存在するのかわからない。
リスタート出来るならいいが、別にそう出来る訳でもないらしいし。
ファンタジースマホ、便利なんだか不便なんだか。
「そして特筆すべきはそう! カメラ機能ですぞ!」
「カメラ機能? それがなんで便利なんだ?」
「なんと証カメラで撮ると、映した物を即座に取得出来るのです!」
「なんだって!?」
「敵の剥ぎ取りなども一瞬で終わる、とても素敵な機能なのですぞ」
だがたった一つだけ、すさまじく便利そうな機能があったようだ。
カメラ機能、その能力は明らかにポテンシャルがずば抜けていた。
誰しもが面倒だと思う採集作業。
それを全て一瞬で済ませられるっていうんだからな。
しかも手を汚す必要さえ無いときた!
さすが異世界、何でもありだ!
これはモンスターをハンティングするゲームもぜひ見習ってほしい。
「ちょっと撮ってみていいか?」
「えぇ、構いませんぞ」
そんな高機能ならすぐにも試したいとさえ思う。
なので早速、その力を実践してみる事にした。
そこですかさずパシャリ。
なんて事のない森の景色を一つ撮影してみる。
すると途端、映した景色一帯が丸裸に。
最奥で十メートル程だろうか、その範囲全てが土だけとなったんだ。
『翔助はカラカルの木を手に入れた』
『翔助はカラカルの木を手に入れた』
『翔助はカラカルの木を手に入れた』
「おお!? しっかりログまで表示されるんだな!」
写した範囲が広かったからな、取得アイテム量も半端じゃない。
更にはシスメさんの声とリンクして、証の画面にもログが流れまくる。
むしろシスメさんの声が圧倒的に遅れるくらいだ。
『翔助はテレスビートルを手に入れた』
『翔助はテレスビートルを手に入れた』
『翔助は雑草を手に入れた』
「あー、ちょっと写す場所が広かったか……やり過ぎたな」
ただこれ、どうやら一個一個でカウントされてるみたいだな。
とめどなくログが流れて、追うのがやっとって状態だ。
『翔助は雑草を手に入れた』
『翔助は雑草を手に入れたが荷物が一杯だったので諦めた』
『翔助は雑草を手に入れたが荷物が一杯だったので諦めた』
「あ、とうとうインベントリが埋まっちゃったか……整理が大変そうだなぁ」
しかも不親切な事に
この点はとても不便で、インベントリが「〇〇×1」で埋まっていく。
これでレアアイテムを逃したりしなきゃいいんだが。
『翔助はユーリスを手に入れたが荷物が一杯だったので諦めた』
だがその時一瞬、奇妙なログが見えた気がした。
それで追ってみようとフリックしたのだが、そのログはあっという間に押し流されてしまって。
焦った俺はふと周囲を見渡し、状況を確認する。
「え"ッ?」
……どう見てもユーリスがいない。
どこにもいなくなってる。
それで再び画面を開いてパーティメンバーを確認したのだけど。
俺、ダウゼン、ウィシュカ。
この三人パーティとなっていたんだ。
「ちょ、待ってッ!? えッ!? えええッッ!?」
「一体どうなされたのですかな?」
「ユ、ユーリスが! インベントリで、荷物が一杯で、え!? き、消えたあ!!!??」
もう意味がわからない。
あのログも、何が起こったのかも。
おかげで何喋っているのかわからないくらいにパニック中だ。
可能性として考えられる事はあっても、とても信じられなくて。
「あぁ~、うっかりユーリスが撮影範囲に入ってしまったのですな」
「た、多分そう……ッ!」
「それできっとアイテムとして収納されてしまったのでしょう」
どうやらその可能性が正解だったらしいが、到底受け入れられない。
だって「諦めた」って事は、そういう事なんだろう???
「でもログには諦めたって……じゃ、じゃあユーリスは……」
「とすれば恐らく、次元の彼方に消えましたな……。取得できなかったアイテムは消える定めなのです」
「うわああああああああ!!!!! ユゥゥゥリスゥゥゥゥゥ!!!!!」
そしてその事実からは決して逃れられない。
そう実感してしまった俺はその場に崩れ落ちる。
うっかりで仲間を消してしまった。
そのとてつもない罪悪感に耐えられなくて。
確かにユーリスはシスターを容赦無く焼くほどのうっかりさんだ。
身長130cmくらいで歩くのも遅いし、喋る声も小さくて聞こえにくいし。
けどだからこその可愛さもあって、妹みたいに思い始めていたのに!
そんな娘を、俺は……ッ!!
「まぁ大丈夫ですぞ。ひとまず次の街に行きましょう」
「そうね、平気よ。第三の街に行けば問題無いわ」
でも仲間達は平然としていた。
待って。
なに、この温度差。
崩れ落ちた俺が間抜けみたいなんだけど?
まるでユーリスを戻す手段があるみたいな雰囲気じゃない???
――え? も、もしかして……あるの?
そう気付いた俺は即座に立ち上がり、歩き始めていた仲間の後に続く。
全てを抜き取られてカラッカラとなった土を握り締めながら。
今は仲間達の事を信じるしかない。
こんなアホなシチュエーションのせいでユーリスとお別れだなんて信じたくも無いからな。
ゆえにこの時の俺は、まるで世紀末覇者のごとき使命感に駆られていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます