第11話 英雄の祠攻略-RTA版-

 苦難を乗り越え、俺達はようやくテレスへと辿り着く。

 町というより村らしい装いに、ワクワクよりもホッとした気分が込み上げてきた。


「確かここに英雄の祠ってダンジョンがあるんだったか」

「えぇそうよ。町の中心にあるわ。祠があったから自然と周囲に集落が生まれ、町になったっていう設定なの」

「だからそれ、『そういう歴史があった』って言わない?」


 ウィシュカのさりげない一言で雰囲気ぶち壊しだけどな。

 便利な『記録』のせいで余計な現実言葉が浸透し過ぎだろう。


 使い方を間違えてるぞ、教えたの誰だよ全く……。


「こっちにあるわ。ついてきて」

「妙に詳しいんだな」

「そうよ。だって私、この町の出身だもの。実家も町のはずれにあるわよ」

「なるほど。じゃあいいのか? 実家に顔出さなくて」

「家を出たのはほんの数日前だから平気かな」

「あぁ、俺に合わせて出たんだな。ならいいか」


 ……にしても、ウィシュカの雰囲気が前よりずっと柔らかい気がする。

 いつもは常にキリッとした感じだったから。

 故郷だからかな?


 なのでこんな感じの雑談をゆる~く交わしつつ街道を行く。

 通りの店をチラリと覗きながら。


 さすがに小さな町だけあって品物はそこまでじゃない。

 それもナイフとか鎖鎌とか普通じゃない武器ばかりで。

 これならわざわざ買い替える必要も無さそうだ。


「着いたわ。あれよ」


 そんな物に気を取られつつ歩くこと数分。

 ようやく英雄の祠へと辿り着く。


 おお、随分と立派な建物だ。

 円錐状で一切の継ぎ目が無く滑らか。

 その中央に門があり、煌びやかな紋章が刻まれている。

 これだけでなんだかワクワクしてくる造りだな。


 それでいざ門に手を掛けてみたんだけど。


 全くビクともしない。

 うんともすんとも言わない。

 なんだ、何か開く条件でもあるのか?


「そこは入口じゃないわ。こっちに来て」

「そ、そうなのか」


 でも雰囲気だけだったらしい。

 じゃあ一体何なんだよ、このオブジェクト!


 そんなツッコミを入れつつ、ウィシュカに連れられて回り込む。

 そのまま少し離れまで行くと、また街道に妙な建造物が立っているのが見えた。


 箱状の木造建屋がちょんと置いてあったんだ。

 言い例えるならそう、仮設トイレみたいな。


 そんな物体の扉を無造作に開くと、直下には穴が。

 はしごが掛かっているものの底が見えないくらいに深く、すごい不安感を煽って来る。


「え、何この穴……」

「遥か昔に祖先がドリルで掘った穴よ。ここを降りるの。安心して、空気はあるから」

「ドリルの正しい使い方してる例あったんだな。なんだかブランチマイニング跡にしか見えないけども」


 でもウィシュカは全く恐れる事無くはしごを降りていて。

 なので俺達も続いて穴へと降り始めた。


「本当はここ、レベル20くらいで訪れる場所なの。第四の町の先でイベントをこなしてから一度戻って来て攻略するのが定石だったっていう話よ」

「待って、俺達まだレベル3なんだけど?」


 そんな中、ウィシュカがさらっととんでもない事実を告白する。


 言っておくが森での戦闘はさっきのウルフだけだ。

 シスター救出イベントは同行拒否で経験値を入手出来ていない。

 だからレベルはまだほとんど上がっちゃいないんだけども。


「安心して。この穴は勇者の証が生成される台座の真上にあるの。だから戦闘無しで手に入れる事が出来るわ」

「雰囲気もへったくれもないな。シナリオショートカットをリアルにやるとか」

「だって早く機能拡張したいでしょう? これが理想を追い求めた結果よ。全ては勇者の為に!」

「「全ては勇者の為に!」」

「ありがたいんだけど、ロマンだけは残して欲しかった気がしなくもない」


 レベルはもはや必要無い様で、一応は一安心だ。

 その代わり大事な夢を失った気がするけれど。


 複雑な想いを抱きつつ、穴を降りていく。

 そうしてようやく最下層へと辿り着いた。


『よく来たな勇者よ。お前の到来を待ち侘びていた。さぁ、今こそその扉を開き、我が下にやってくるのだ』


 すると降りきる前にこんな声が聴こえて来る。

 恐らく俺が近づくと発せられる自動音声なんだろうな。

 けどすまない、扉なんてどこにも無いんだ。


『ここまで苦難の道程を越え、よく辿り着いた。【バラウル山】の登頂は特に困難だったであろう』

「いや、そんな山知らないんだが?」

「例の第四の町の先にある霊峰の事ね。この祠に入る鍵があるの。でもこの通路が造られて以降、誰も立ち寄らなくなったらしいわ。他に何も無いから」


 でも謎の自動音声は自分勝手に話を進める。

 発声源らしい龍の像の背後に俺達が降り立つ中で。


「これよ。さぁ勇者の証をその手に」

『だがその苦労が遂に報われる時が来たのだ』

「話まだ終わって無いけど?」

「平気よ」


 それでウィシュカの指示通り、台座に置かれた小さい板っきれを掴み取る。

 で、音声を待つ事も無く、四人揃って地上へと再び戻っていった。


『この力こそ、其方の旅の助けに――』

「良かったわね翔助。これで機能拡張成功よ」

「これ、俺がここまで来る意味あったのか?」

「流れだけはちゃんと守らないといけないもの。仕方ないわよ」


 今や冒険クリアだけに飽き足らず、速さを求める段階なのだろうか。

 この容赦無くショートカットを突き進む所がなんともR T Aリアルタイムアタックっぽい。


 仲間達はそう意識してないみたいだけど。




 それで地上へと戻ってくると、空が赤みを帯びていた。


 時間帯的には丁度いい訳だが、なんだか演出とさえ思えてならない。

 それだけ今までご都合主義が独り歩きで駆け抜けていたもので。


「今日はここまでにしておきましょうか。せっかくだから私の家に来るといいわ。宿代を浮かせた方がいいと思うし」

「それならお言葉に甘えようかな」


 ただ、いくら何でも夜に移動しようと思うほどRPGっぽくはない様だ。

 なら今はウィシュカの言う流れに乗った方が無難だろう。

 さすがに歩きっぱなし、戦いっぱなしで疲れたしね。


 なのでこの後、俺達は進言通りウィシュカの家に泊まる事となった。


 両親達も盛大に迎えてくれたものだ。

 彼女の母親も勇者と共に冒険したらしく、話も大盛り上がりだった。

 特に、昔に実践した戦い方などを教えてくれたりで。


 例えば、この世界での盾の正しい使い方。

 普通に構えるより、盾の先端を持って叩く方がいいらしい。

 敵が盾をすり抜けるからだそうだ。3Dグラフィックみたいに。

 盾の存在意義とは一体……。


 他にも仲間達とのコンビネーションのやり方とかも教えてくれた。

 特にユーリスには魔法よりも強力な必殺技を。

 なんでも、同格相手なら下位魔法の反動で吹き飛んで体当たりした方が強いらしい。

 転送魔法も消耗少ないから効率もいいのだとか。

 それもう魔術士じゃなくて良いのでは?


 そんな感じの話をしてもらった訳だけど、気付けば皆して笑いあっていた。

 話術が娘のウィシュカと違ってウィットに富んでて、とっても面白かったからね。


 最初はどうなるかと思ったが、こんな日が来るなら悪くは無い。

 おかげで明日も、冒険を頑張る事が出来そうだ。

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