第10話 イベントクエスト

 フォレストウルフを退けた(?)俺達はテレスの町の近くまで訪れていた。

 景色の先で僅かに見える建造物にホッと一安心だ。


『緊急クエスト発生! 急いでシスターを守れ!』

「うおッ!? なんだ、何が起きた!?」


 だがそれも束の間、突然シスメさんが妙な事を叫び始める。

 しかもピカピカと輝き出してやたらうっとおしい。


 この世界の開発者、一体何を考えてこんな機能付けたんだよ!


「これは突発的に起こるイベントクエストね。問題が発生するとこうやって知らせてくれるらしいわ」

「人が襲われているらしいですぞ! 急ぎましょう!」

「よ、よし!」


 しかし無下にする訳にも行かない。

 人が襲われてるなら助けるのが勇者ってものだからな。


 なので全員で競歩の如く歩き行く。

 ユーリスは起きたてで脚も短いからちょっと遅めだ。


 すると間も無く、魔物の大群が視界に映る。

 どうやらアイツラにシスターとやらが襲われているらしい。

 すぐに助けなければ!


 ……まぁ、それほど急ぐ必要は無さそうだが。


 確かに大変な事にはなっている。

 魔物が全部で二十匹くらい、一斉にシスターに襲い掛かっていて。


 だけどそのシスター、HPゲージ全く減って無いんだわ。


 魔物達が一生懸命にタコ殴りしてはいるんだけども。

 こうして見ている間でも一割さえ減っていない。


 何あの人、ものすッごい硬いんだけど?

 もしかして頭にドリル備えてる?


「急ぐ必要は無さそうでしたな。救助イベントが発生すると、救出対象人物は特別硬くなると聞きますので」

「あれ素なんだ!? ドリル装備してる訳じゃないんだ!?」


 当人は怖そうにうずくまって震えてるんだけどね。

 けど攻撃に一切動じないし、その頑丈さを物語っている。

 さすがイベントキャラ、簡単には倒れないんだな。


「でも俺達で助けられるのか? あの魔物達、そうとう格上だぞ?」

「うぅむ、このままうかつに手を出せば翔助殿がタコ殴りされかねませんな。どうしたものか」


 ただ正直、俺達も簡単に手出しできる相手じゃない。

 なんたって敵のレベルは全部10前後、俺達よりはるか上だ。

 経験値インフレしてる癖にこのレベル設定って、明らかに配置間違ってるだろう。


 なんにせよ、このままじゃ手を出しても返り討ち確定だ。

 もはや見逃すしか手は無いのだろうか?


「ウチがやってぇみるよぉ」

「ユーリス、やれるのか!?」

「うん~」


 しかしここで遅れてやってきたユーリスが名乗りを上げる。

 何か自信満々そうなのでここは任せてもいいかもしれない。


「いくよぉ! 〝炎霊よ、灼熱の炎にて邪を灰燼と滅さん! 【極大範囲焼却魔法アンプロシオーン】!!〟」


 ただ、そう任せた途端に想像を絶する大魔法が顕現した。


 空一帯が真っ赤に染まり上がる。

 それ程の極炎熱が着弾地点に降り注いだのだ。


 シスターを爆心地にして。


「ギャオオオオオ!!!!!」

「シ、シスタァァァァァァ!!!!!」


 ひどい!

 余りにもむごぉい!!

 こいつシスターごと焼き払いやがったァァァ!!!


 この際、使った魔法が最大級なのはもういいよ。こういうバグは慣れたから。

 だけどね、幾らなんでもひどすぎない?


 シスターさん、恐ろしいまでの悲鳴上げて業火の渦に焼かれてるけど?

 魔物の消し炭で埋もれるくらいに轟々としてるんだけど???


『クエストクリア!』


 で、全てを焼き尽くしたのか炎が忽然と消え去る。

 そしてシスメさんが容赦なくイベント終了を伝えてきた。


 クリア、じゃねぇよ!

 どう見たらクリアになるんだよ、この惨状!


「……あ、ありがとうございます、冒険者達よ」


 でもシスター、ちゃんと生きてた!


 爆心地の煙の中からすっくと立ち上がって、微笑みかけてきたんだ。

 衣服が全て焼け落ちていたけどな。


 ただ近寄って見ると、微笑んでいるようで違っていた。


 ものすっごい目が血走ってて、ぷるぷると身を震わせていて。

 ギリギリと奥歯を軋ませ、遂には血涙まで流し始めてる。

 とてつもない憎悪を感じてならないんだが?


「攻撃魔法は味方には効かないんでぇすよぉ。なので平気なんでっす」

「どう見ても平気に見えないんだが? 明らかに怒髪天状態なんだが?」


 確かにHPゲージは減って無いけど、苦痛はあるのだろう。

 それに衣服どころか髪さえちりぢりに燃え尽きてるし。

 命が助かっただけマシかもしれないが、これは死んだ方がマシとも言えるレベルじゃなかろうか。


「では皆様(ビキビキ)、お礼がしたいので(ギリギリ)礼拝堂まで来て頂けないでしょうか?(メキメキィ)」

「いえ、我々は当然の事をしたまで! 礼なんて不要ですよ! では!」


 そんな人に誘われたら寝首を掻かれかねない。

 例え緊急イベントクリアで良報酬だとしても、これは付いて行ってはいけない奴だ。


 なのでここはあえて軽快に断り、足早にテレスへと向かう。

 仲間達は「なぜ……?」と疑問を浮かべていたが、この際ツッコミも無しだ。

 むしろこれを受け入れたら人としてダメな気がしたので。


 どうやらバグっているのは『仕様』だけじゃなかったらしい。

 倫理観も少なからずバグっている事に、俺は恐怖を抱かざるを得なかった。


 ゲームっぽい世界って怖いな、ホント。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る