第9話 バグは勇者側だけとは限らない

『フォレストウルフがあらわれた。バトル開始』


 俺達の前に現れたのは白狼型の魔物だった。

 白い毛並みと顎よりも長い牙に、高い凶暴性を兼ね揃えた相手だ。


 しかもレベル5。

 全員レベル2な俺達に対してかなりの格上だ。

 こいつは相当用心してかからなければ危ないぞ。


「クッ、ウィシュカはユーリスを頼む! ここは俺とダウゼンで何とかする!」

「よろしく頼むわ!」


 おまけに今、ユーリスは気絶したまま。

 こんな事なら回復魔法なんて気にしなければ良かった。


 けど悔やんでいても仕方がない。

 気持ちを切り替え、剣と盾を練習通りに構える。


「こうなったら先手必勝だ! 俺が隙を作る!」

「いえいけません翔助殿!! 相手が来るまで待つのです!」

「ッ!?」


 しかしここでダウゼンから突然のストップが掛かった。


 相手の方が強いのに先制攻撃を許すだって!?

 一体何を考えているんだダウゼンは!


 ただ、コイツは決して嘘は言わない。

 そう明言した訳では無いが、間違いなく誠実系のキャラだからな。

 きっと何か別の意図があるに違いない。


 そう信じ、相手の出方を待つ。

 すると機が熟したのか、魔物がとうとう走り込んで来た。


「き、きたッ!?」


 凄まじい速度だ。

 景色の彼方にいたのに、あっという間に目前まで迫って来る程に。


 だから俺も盾を構えて身を固める。

 突進攻撃ならこうすれば防げると教えてもらったから。


「さぁ来やがれウルフ野郎! 俺が仲間を守ってみせるッ!!」


 ――こう意気込んでいたのだけど。


 間も無く、なぜか魔物が地面に吸い込まれていったんだ。

 シュッって、まるで落ちる様に。


「……えっ?」


 何が起きたのかさっぱりわからなかった。

 ただただ消えた場所を眺めて、唖然とし続けていて。


『バトル勝利。翔助達は720の経験値を手に入れた』

「いや待ってシスメさん。俺達何もしてないんだけど?」

『翔助達はレベルがあがった!』


 しかもなんか戦いに勝ったらしい。

 あと否応なしにレベルまで上がった。


 一体何なの、この言い得ない虚無感。


「いいですか翔助殿、この世界では決して走ってはなりません。もし走ってうっかり地面に引っ掛かってしまえば、ああして地面にしまいかねませんぞ」

「地面に落ちるって何!?」


 どうやらその原因はまた『仕様』にあるらしい。

 それも敵味方関係無く陥る罠が。


「原理はわかりませぬが、石と石の隙間に引っ掛かると地面をすり抜けてしまうのです。特にぶつかるのが速ければ速いほどに」

「あー……知ってる。これ、ポリゴンの隙間に落ちる奴だわ」


 説明を受けた事でなんとなく原因はわかったけどな。


 これは3DCGのアクションゲームで時たま起こる現象だ。

 うっかり意図せず隙間に入り込んで、フィールドの外側に出ちゃうバグだな。


 フォレストウルフはその隙間に落ちて次元の狭間に消えたんだ。

 で、交戦状態だったから俺達が倒した事になったと。


 ウルフさん、仕様に殺されちゃってた。

 いくらモブだからって不憫過ぎるだろ……!


「一歩間違えれば俺がフォレストウルフと同じく仕様に殺されていたのか……」

「さよう。急いでもみだりに走ってはなりませぬ。歩けば問題無いので、今後は気を付けてくだされ」

「なんだかレトロRPGにダッシュが無い理由、わかった気がするよ」

 

 要は、常に死と隣り合わせって事だな。

 走ったら即死亡って相当雑だぞ、この世界構造。


「……にしてももう経験値720も貰えるようになったのか、さすが格上だな。この調子でシステムキルしまくれば歩いてるだけでレベル上げ放題なんじゃないか?」


 世界構造の不具合と言えばこの経験値もなかなかに凄まじい。

 森に入るまでは二桁にすら届かない数字ばかりだったのに。

 格上補正でも入っていたのだろうか?


「いえ、そんなうまい話はなかなかありませんぞ。ステータスをご覧になって見てくだされ」

「えっ?」


 しかしダウゼンが残念そうにこんな事を言うので、早速自分のステータスを開いてみる事にした。


//////////////

狭間 翔助 ♂ ☆勇者

職業:フリーター

Lv:3

HP:393/393

MP:180/180

攻撃力:26

防御力:99999

瞬発力:21

知性力:18

精神力:22

運命力:8


次のレベルまであと 39,202 ポイント

//////////////


「待って。桁がおかしい。どうして720だけで上がった次が万クラスになる?」


 一瞬、カンマがピリオドなのかと空見したよ。

 でもちゃんと跳ねてるし、でもそれだと明らかにケタがおかしいし。

 何が正しいのか本気でわからなくなってた。


「そういうものです。第二の町を越えると、貰える経験値も桁が上がるので問題ありませぬ」

「問題無いって言いきれるそのマインドが真面目にすごいと思うわ」


 まぁ察するに、やり込みを避けさせる為なんだろうな。

 格下を乱獲してレベル上げまくりは推奨していないんだ。


 だからってこのインフレはさすがにやりすぎじゃないかと思う。


「ちなみにレベルカンストでどれくらい経験値が必要なんだ?」

「記録によりますとレベル999が最大で、およそ八千かんだそうですぞ」

「それもうゼロが幾つ付く桁かさえわかんねーよ……」(※三六桁)


 だがどうやらレベル最大ともなると人知を超えた数字になるらしい。

 そこまで調べ上げた奴の努力をホント讃えたい。

 俺だったらそこまで行く前に絶対ラスボスへ行くね。


 なにはともあれ、長期滞在のレベル上げは不毛だと知った。

 それに早く気付いただけでも今は良しとしようか……。

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