第8話 このパーティに攻撃役しかいないワケ

 クソゲー。

 それはバグにまみれたゲームの事を指す。


 しかしただバグがあればクソゲーになるという訳では無い。


・通常進行でも普通に発生して

・進行に著しい障害をもたらして

・でも頑張ればクリアできない事も無い

・その上で笑いを誘発するバグだとなお良し


 こんな条件を満たしたゲームこそクソゲーを冠するに相応しいとされている。


 俺も昔そんなゲームを愛して求め、遊び惚けていた事があった。

 クソゲー黎明期にはよく頭を抱えて悩みながら日々プレイしたもんだ。

 あの時は常々イライラしながらも、攻略できた悦びを堪能したなぁ。


 でもそんなクソゲー世界で命を張るとなると話は別だ。


 まさか仲間全員がバグってるとは夢にも思わなかった。

 それでもダウゼンやウィシュカはいいが、ユーリスはブッ飛び過ぎている。

 下手すると、気付いたらパーティから消えているとか有り得そうだぞ!?


 この綱渡り感はせめてやり直しが効く世界だけにしてほしい。


 そんな葛藤を胸に秘めつつ、トーネの森へと足を踏み入れる。

 森と言っても割と開けていて、マイナスイオンを感じる雰囲気だ。

 それに見回した限りでは敵が襲ってくる心配はまだ無さそう。


 そこで俺はふとこんな疑問を仲間達に投げかけた。


「ところで聞きたい事あるんだけど、俺って一度死んだら終わりなのか?」

「えぇ、勇者が死んだら最後、世界はしばらく邪神の影響を受けて暗黒期に入ると言われているわ」

「それで新たな勇者を再召喚するのに三年かかるため、再復活の周期も最低三年からとなっている訳ですな」


 そうしたらサラッとこんな事を返された。


 どうしてこんな難易度になったんだ?

 敵一匹一匹に即死攻撃が備わってる世界なのに。

 これじゃあまるで俺以外ハード洋ゲーの世界じゃないか。


「この世界に回復魔法とか無いのか? ありそうなもんだけど」


 理不尽な世界に少しでも救済が欲しい。

 そう思ってこんな質問を更に返したんだが。


 その途端、仲間達が立ち止まっていて。


 ふと気付いて振り返る。

 すると視界に、なぜか驚愕する仲間達の姿が映り込んだ。


「かっかかか回復魔法ですとォォオオオ!!?」

「イィヤアアアアアアアア!!!!!」

「ウチもうアカン……グフッ」


 ダウゼンは歯を鳴らして震え。

 ウィシュカは体を抱えて叫び始めて。

 ユーリスに至っては白目を剥き、泡を吹いて卒倒してしまった。


 え、何、俺なにかヤバイ事言ったのか?


「いけません! それはいけませんぞ翔助殿! 森の中だったから良かったものの、公の場では決してその名を口にしてはなりませぬゥゥゥ!!!!!」

「そこまでなのォ!?」


 ……どうやら言ってしまっていたらしい。

 どういう事? 回復魔法って禁句なの?

 そもそも存在したのか!?


「どうやら翔助殿は知らない様ですな……でしたら教えて差し上げましょう。回復魔法というものが如何に恐ろしいかを」

「普通恐ろしいものじゃないと思うんだけど?」


 仲間達の突然の反応に戸惑いを隠せない。

 一体何なんだ回復魔法って!?

 ただ癒すだけじゃないの!?


「確かに、回復魔法を使うと仲間の減ったHPゲージを増やしたり、失われた命を呼び戻す事が出来たそうです」

「まぁそうだよな、回復魔法ってそんなもん――」

「ああなんて恐ろしい! そんな事をしたら悲劇しか産まれないのにッ!!」


 そう思っていたんだが違うらしい。

 遂にはあの巨体のダウゼンが恐怖ですくみ、座り込んでしまった。


「……回復魔法をかけると、まず相手のHPゲージが増えます」

「うん」

「するとその者に【閾ェ蜍募屓蠕ゥピーピピーザザー】というデバフが付きます」

「待って。ちょっと待って、なにそのデバフ。しかもモザイク掛かった様に聞き取れなかったんだけど!?」

「そのデバフが掛かると、HPゲージが枠を越えて延々と伸び続けます」

「もれなく限界突破!?」

「そしてそのHPゲージが水平線の彼方まで到達した時、その者は死にます」

「怖ぇッ!! 回復魔法怖ぇぇぇ!!!」


 でもその説明を受けて初めて、恐ろしさを垣間見る事が出来た。

 この世界における回復魔法は死の宣告と同様だったんだって。


 そりゃ忌避されるよな。俺も怖いもん。


「ちなみに蘇生魔法も同じですぞ。蘇った途端に同様のデバフが付き、HPゲージの長さと同じ分だけ秒単位で伸びて行きまする。あまりにも速い伸び率ゆえに、被害者は爆裂四散して死ぬそうな。そしてまた自動的に復活し、また――」

「なにそのエンドレスヘルゥ!!!!!」


 恐らく、この世界は元々回復ありきで創られていたんだ。

 けど妙な『仕様』のせいで回復魔法が機能せず、相対的に難易度が上がってしまったのだろう。


 となると回復アイテムも鬼門だな。

 同様の効果が付いて即ゲームオーバーもあり得るから。


「ちなみに強化魔法や弱体魔法も禁忌とされておりまする」

「興味本位で聞くけど、なんで?」

「効果エフェクトが物理干渉し、あらゆる物質を削り取るという恐ろしい能力を秘めているからですぞ」

「強化魔法、最強の武器だった」

「敵のみならず仲間さえ削り取るので加減が難しく、封印される事となったのです」


 回復魔法のみならず強化・弱体魔法までバグまみれか。

 なるほど、だから皆攻撃一辺倒なんだな。


 それしか選択肢が無いから。


「なお邪神はその事実を知ってから強化・弱体無効の能力を備えたそうな。それと回復魔法ゴニョゴニョは敵に通じないので魔物達も使ってきませぬ」

「敵サイドも適応してるんだな。厄介だけど真面目にすごいと思うわ」


 更にはそのバグを利用する事も叶わない。

 確かに、これなら封印される理由もわかる。

 事故の原因にしかならないからな。


 ――この世界、想像以上にクソゲー過ぎないか……?

 昔に漁りまくった俺でさえ、ここまでのバグ満載ゲームは見た事無いぞ!?


「となると歴代の勇者達も相当苦労したんだろうな」

「えぇ、邪神が出始めた頃は無数の勇者達が犠牲になったと聞きます」

「惨状が目に浮かんで来る様だよ」


 回復魔法の話題から逸れたお陰か、仲間達が復調し始める。

 ユーリスだけは気絶したままなのでウィシュカが背負ったが。


 ただ、この話題はもう二度と出さない様にしよう。

 仲間達への精神ダメージが想像を超えて大きすぎる。


 それで話がそれた訳だけども。


 次に出てきた話題も充分気になる内容だ。

 これは平気そうなので少し聞いてみる事にした。


「ですが我々も考えました。どうしたら勇者殿を邪神の下へと連れていけるのかと。そこで考え付いたのが『記録』という訳です」

「俺達の言動を一語一句残すとかいうアレか」

「えぇ。初期メンバーとして同伴した祖先は皆、勇者殿の言動を全て日記に記し、『記録』として残しました。それがずっと受け継がれ、邪神封印成功へと導くまでに至ったのですぞ。もちろん我々もその知識を得ておりまする」

「つまり仲間が攻略本を作ってたって事か! それはすごいな!」


 おかげで思った以上の話が聞けたよ。

 うさんくさいと思っていた『記録』とやらが出来たのはそういう理由だったのかって。


 つまり俺は初期メンバーという攻略本を持って旅している様なものなんだ。

 彼等の注意や指摘に気を付ければ、恐らくは無事に最後まで戦える。

 歴代勇者達が犠牲となって道を作ってくれたおかげでな。


 これにはクソゲー攻略班ならではの一体感を感じざるを得ない。

 ありがとう勇者達よ、君達の勇気は忘れないから。


 特にドリルを見つけた人、本当にどうもありがとう。


「全ては勇者の為に。我々はその為ならこの命すら惜しくありませぬ」

「そこまでの忠義には感服するよ。今まで疑ってた。なんかごめん」

「ううん、わかってくれただけで嬉しいわ。これからも頑張りましょうね」


 そして『記録』を維持し続けて来た仲間の祖先たちにも感謝しよう。

 彼等のおかげで、俺もまたこのクソゲー世界を攻略できるかもしれないから。


 となると俄然やる気が出て来た。

 生き残れる可能性が大いに生まれたからな!

 さぁて、この森をさっさと突破して勇者の証を手に入れるとしよう!


 そう意気込みを得て、俺達は再び森を進む事となった。


 けど、どうやらそう簡単には通してくれないらしい。

 早速、好戦的な魔物に遭遇した様だぞ……!

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