第7話 誰一人まともな奴がいない

 ダウゼンの一段低い右肩は伊達では無かった。

 月にさえ届くその無限射程の腕は、もはやチートクラスと言っても過言ではない。

 とはいえ、それが肩の低い理由であるとは限らないけども。


 しょっぱなからそんな能力を見せつけられたら、もう後が怖くてたまらない。

 ウィシュカとユーリスがどんな力を見せつけるのか、もう戦々恐々だ。


 特に、俺のパンピーマインドが耐えられるかどうか。

 頼む、しのぎきってくれ俺の素麺メンタルゥ!


 しかしここで怯えていても話は始まらない。

 なので恐れを圧しきり、二人の攻撃を実践してもらう事にした。


 ウィシュカは弓士で、特に短弓を得意としているらしい。

 それで愛用の弓を早速撃ってもらったのだが。


「はあッ!!」


 彼女の場合は至ってだった。

 放った矢がスプーンやリンゴの芯に変わる程度と、バグ持ちにしては想像通りで。

 でも実際には普通の矢だからか、対象に刺さるとそのスプーンなどが空中で静止している状態となる。


 スプーンとかの部分、矢羽根なんだな。

 なら何がどうやって刺さってるんだろうか、コレ。


「どうかしらッ!?」

「まぁ木にちゃんと当てられるのはすごいよな。うん、すごい」

「反応薄くない!?」

「うんまぁ、普通だし?」

「そ、そう……翔助の世界の弓士はみんなすごいのね(しゅん……)」


 成果も速射なのに五射必中となかなかのものだと思う。

 けど、どうにも物足りなさを感じてしまっていたんだ。

 ダウゼンのインパクトがあまりにも強過ぎて。


 既にバグ馴れした自分が怖い。


「ウチは一通り魔法を撃ってみるぅでっす!」

「あぁ、頼む」

「その破壊力にぃ度肝を抜くのでぇす!」


 それで最後に、ユーリスが自慢の攻撃魔法を披露してくれた。


 撃ったのはファイアボールやフリーズカッターといった、ファンタジー定番の魔法。

 一発で木を焼き尽くしたり、氷漬けでバラバラにしたりと威力はなかなかにエグい。

 異世界に来たなら、これくらいは出来る様になりたいよな。


 でも、やはり至って普通だ。

 これに限ってはバグでも何でもないし。

 あの伸びる腕と比べたら、すべてが霞んで見えてならない。


 ……ダメだ、物足りない。

 やはりダウゼンがただ特殊過ぎただけなのだろうか?


 だとすれば、そこまで不安を抱く必要は無いのかもしれないな。

 たまたま不具合持ちが二人いるってだけで。

 むしろユーリスっていう普通の子がいるから釣り合いが取れるというものだ。


「良かったよユーリス、君だけがまともで」

「えっ?」


 そんな安心感のある子だったから、ついつい肩をポンと叩いていた。

 心の拠り所への感謝を兼ねてのスキンシップで。


 ――だがこの時、俺は理解する事となる。

 ユーリスもまた決して例外ではなかったのだと。


 彼女がたったそれだけで、一瞬にして空彼方の星となったのだから。


 しかもその一瞬で、身体自体もあらぬ方向へ曲がっていた気がする。

 なんか「えぼぎッ!?」とかいう感じの鈍い声と共に。

 で、気付けばピッカーンと空の果てに飛んでいたんだ。


 もう何が起きたのかさっぱりわかんないよ……!


 しかしその直後、俺達の前の空間が突如として歪む。

 するとその景色の先からユーリスが霧のようにして現れた。


「突然触らないでくださぁい……ウチ、普通の人よりぃ飛びやすいんでっす。転送魔法憶えておいてぇよかったぁ」

「飛びやすいってなに!? どういう事ォ!!?」


 どうやら転送魔法を使って帰還したらしい。

 そうでもしないと戻れないくらい飛ばされたって事か。


 まぁでもなんとなくわかったよ。

 彼女の持つ不具合がどんなものかって。


 状況的に言うとあれだな。

 某スマッシュバトルでいう所の常時999%積んだ状態なんだろう。

 それくらい雑に激しい吹き飛び方だったしな。


 そこから察するに、ユーリスだけ3Dアクション要素入ってるんだ。

 そんでもって演算処理が狂ってて、触れると反発力で吹っ飛んでしまう。

 俺もさ、アースをディフェンスする軍隊ゲームで遊んだ事あるからよく知ってる。


 あと女の子の胸とかポヨンポヨンさせたい時も、同様の処理が掛かってるって聞いた事ある。

 ユーリスの場合だから、多分この影響が出てるんだろうな。


 うん、わかるよ。そうしたかった気持ち。

 ユーリスって小柄で細身だけど、身体の方はすっごくぷにぷにしてる感じだし。

 胸も小ぶりだけど「プルンッ」てしてそうな柔らか感あるしね、アハハー。


 ――エロ開発者め、クソがッ!!


「それで翔助様、さっき何を言おうとしたぁのでっすか?」

「イイエ、ナニモイッテマセン」


 つまりパーティメンバー全員漏れなくバグってるって事だ。

 しかもあのユーリスがここまでブッ飛んでいたとはな。

 姿が普通だったから予想もしていなかった。


 うーん、これは……この世界、クソゲーの予感しかしない!

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