第6話 改造チートってレベルじゃねーぞ!

 ドリルの力は凄まじかった。

 防具として装備した後、敵の攻撃が全て1ダメージに抑えられたのだから。


 ま、カンスト装備が必須な難易度は大問題だと思うけどな。


 ここまで来るともう不具合がこれだけとは思えない。

 この先にも予想もしない『仕様バグ』が待っているのだろう。

 そう思うと少しも油断出来なくて胃がキリキリしてきそう。


「このアラッタ平原を越えるとトーネの森があるわ。その先に第二の町テレスがあるから、今日はそこまで向かうとしましょう」

「わかった」


 そんな悩みを抱きつつ平原を進む。


 まだ最初だからか、敵はいずれも非好戦的なので安心だ。

 一見怖そうな狼でさえ、横を歩いても襲ってくる事は無いらしい。


 なので、ここまでは修行を兼ねて俺一人で戦っていた。

 先手を打てば最初は反撃も無く勝てるという事で。

 

 当然、現実で戦った事なんかある訳無いからな。

 だからダウゼンに教えを請い、前衛の基本を少し学ぶ事にしたんだ。


 とはいえ、そんな俺にもしっかり戦闘力は備わっていたれども。

 数値が全てな世界だからかな、そこは幸いにもステータス通りだった。


「森に入れば敵も好戦的となりますので、そこからは我々も共に戦いますぞ!」

「ならその前に皆の力を見せてもらいたいな」

「えぇ、もちろんですとも!」


 ただ、ステータスだけではわからない事もある。


 例えば戦術。

 ダウゼンが斧使いなのはわかっても、どう攻めるかまでは読み取れない。

 敵陣に乗り込んで振り回すのか、それとも慎重に一撃を見舞うか、ってね。


 だから皆の攻撃パターンを先に知っておきたいんだ。

 戦い方を間違えて、うっかりフレンドリファイアなんて事になったら最悪だしな。


 そこで早速、仲間達が戦う様子を見せてくれる事になった。


「ごらんの通り、自分は斧で敵を叩き切るパワーファイターですな。一撃には自信がありまする」


 まずはダウゼンから。

 少し先にある木を目標に、自慢の斧を構えて見せる。

 しかも大きな斧なのに片手持ちと、なかなかに壮観だ。


「では見ていてくだされ。これが自分の攻撃手段です! はああッ!!」


 そんな斧が空かさず持ち上げられ、思いっきり鋭く振り下ろされる。

 すると間も無く、ターゲットの木が「バキバキ」と音を立て、荒々しく切れ落ちた。


 ――十メートルくらい先にある木が、ひとりでに。


 待って。

 なんで切れてるの!?

 明らかに攻撃が届く訳ないのに!?


 え、なに今の、もしかして斬撃波とかそういう類の技なの???


「これが自分の通常攻撃ですぞ」

「いや、普通みたいに言ってるけど明らかにおかしいだろ」


 そこで俺は一つ考えた。

 この世界がゲームらしいなら、答えもまたゲームらしいんじゃないかと。


 そしてふと思い立つ。

 この現象はRPGならなんとなく説明が付くのだと。


「あーわかった。これあれだ。ダウゼンだけサイドビューの戦闘方式なんだな」


 そう、今のはJRPGによくある戦闘形式での攻撃と同じ原理なんだ。


 サイドビュー方式のコマンドバトルでは、敵味方が離れていても攻撃が届く。

 システム上の戦闘だから実際の距離なんて無いのと同じで。

 あれと同様、ダウゼンにはきっと距離なんて関係無いんだ。


 そう仮定し、もう一度やって欲しいと頼み込んで。

 一方の俺は少し離れ、ダウゼンと木の間に立つ様にして眺めてみる。


 そこで再び攻撃。


 その様子を客観的に見た事で、俺の仮説が正しいと証明された。

 確かにまたしても攻撃がしっかり届いていたさ。


 ただし、一瞬だけ腕が物凄い速さで伸びる事でな!


 振り下ろした瞬間、肘先が「グーンッ!」ってゴムみたいに伸びたんだよ。

 しかも切りつけた反動とか一切受けないのな!


 それがわかった途端、なんか急なめまいに襲われた。

 余りにも非常識過ぎて「戦士ってこんな事出来るんだっけ?」と疑心暗鬼になってしまって。


「わ、わかった。ダウゼンは後方からでも攻撃できるすごい奴だったんだな……」

「いやぁそれほどでもありませぬ! 邪神には一切通用しませんからな。これでもし自分が勇者ならここから攻撃して倒してしまうのに、と何度思った事か」

「届くんだ!?」

「えぇ、届きますぞ」


 おまけに距離や障害を一切無視できるときた。

 これもう立派なチートレベルだと思うのだが。


「な、ならさ、例えばだけど……あの空に浮かぶ月とかにも届くわけ?」

「やった事ありませぬが、試してみましょう」


 そこで冗談交じりにこんな事を言ってみる。

 さすがにこれは無理だろうと思いつつ。


 けど本人は何故かやる気満々なんだが?

 いくらなんでも無理なんじゃないの!?


 しかしダウゼンはまるで誇るかの様に斧を掲げ、空へと向けて腕を振る。

 天の彼方にうっすらと見える小さな白い月へと「ズババッ!」と。


『ダウゼンは【第二衛星リクシス】に31のダメージを与えた』


 ……届いちゃった。


 しかもシスメさんの報告のみならず、途端に月のHPゲージもが表示された!

 それもなんか四分の三くらいにまで減ってるんだけど!?

 ちょっと待って、月HP低くない!?


 つーかこれ、普通に削り切れちゃうんじゃないの???


 仲間達は平然としているが、こっちはもはや気が気でない。

 あまりの不安に動悸さえもよおしてきたんだが?


「月って、倒した事……ある?」

「いえ、そこまでは『記録』にありませんでしたなぁ」


 どうやら月への攻撃を試したのは俺が初めてらしい。

 けど、このまま調子に乗って月を倒したら何が起こるかわからない。


 という訳で「ムーンアタック作戦(仮称)は成功」という形で中断した。

 こんな非常識な世界だからな、下手な事をすると後が怖すぎるので。 


 にしてもなんつー驚異のチート能力なのだろうか。

 異世界転移者である俺が授かった力ならまだわかるんだけども。


 現地人の仲間が無限射程のパワーファイターって、既に色々おかし過ぎるだろ。

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