第5話 唐突にドリル

 次は仲間達が装備を整える番だ。

 既にある程度揃っているとはいえ、まだ少し足りない所があるそうなので。

 歯抜けなのはRPGのお決まりだよな。


 なので早速、仲間に選ばせる事にしてみた。

 この世界では何が必要なのかを見届けてみたくて。

 意外性の多い世界だからこそ、現地人にしかわからない事もあるだろうから。


 で、その仲間達をずっと眺めていたのだけども。

 みんな揃って、雑貨屋でなんだか妙な物を購入していた。


「待って、それ一体何なの?」

「ドリルですな」

「決まってるじゃない。ドリルよ」

「やっぱり定番はドリルでっす」


 唐突にドリル。

 手回し式の小型なやつ。


 ……どうしてそれを選んだァ!?


 この世界は穴掘りするのが基本なのォ!?

 そもそもなんでそんな物が売ってるんだよォォォ!!?


 そんな葛藤を心で押し殺しつつ、悩む様な仕草をして返す。

 すると仲間達はさも当たり前のように笑顔で応えてくれた。


「もちろん頭に装備するためですぞ」


 言ってる意味は全くわからなかったけどな。


 待って、どういう事!?

 ドリルを頭に装備するって何ィ!?

 穴掘り用じゃなくてそれ防具なのォォォ!!?


「えっ、まさか翔助殿の世界にはドリルが……無い!?」

「そんな、まさかドリルが無いなんて……!」

「なんて可哀想なんでっすか……」


 しかもなぜか憐れまれてる。

 なんだかすっごい悔しいんだけど。


 おかげで抑えていた葛藤がすぐにでも飛び出してきそうだ。

 今、俺の顔はすぼめたシワだらけで相当醜いと思う。


「……本当にご存知ない様なので説明いたしましょうか。まず、この自分めにステータス・オープンしてみてくだされ」

「やっぱりこの世界にもあるのな、ステータス・オープン」


 そんなカルチャーギャップにさいなまれながらも、ダウゼンに頷いて返す。

 それでどうやるかもわからないが、とりあえず「ダウゼンのステータス、オープン」とそれっぽく叫んでみる。


 すると上手く行ったのか、空中にウインドウが表示された。


//////////////

ダウゼン=グラウリー ♂

職業:戦士

Lv:1

HP:280/280

MP:0/0

攻撃力:15

防御力:12

瞬発力:4

知性力:18

精神力:7

運命力:3

//////////////


 ほう、これが基本的な数値か。

 戦士の癖に無駄に知性が高い気がするけど、それはまぁこの際おいておこう。


「そこでドリルを頭に装備します」


 そうステータスを眺めていたら、今度はダウゼンが頭にドリルを乗せる。

 しかもなぜか「ドッガッシャァァァン!」という無駄な効果音付きで。


 ツッコミ所は多いが今は我慢だ。

 溢れ出んばかりの欲求を抑え込み、そっとステータスを再び眺めてみる。


//////////////

ダウゼン=グラウリー ♂

職業:戦士

Lv:1

HP:280/280

MP:0/0

攻撃力:15

防御力:99999

瞬発力:4

知性力:18

精神力:7

運命力:3

//////////////


 待って、防御力がカンストしてるんだけど!?

 頭にドリル付けただけで防御力だけ桁違いなんですけどォォォ!!?


「遥か昔、とある勇者がこのドリルの性能に気付き、ふと頭に装備した事が始まりでした。以降はその仕様にあやかり、今でも多くの冒険者達もが頭にドリルを備える様になったのです」

「そこで頭に装備する事を閃いた発想がもうヤバイと思う」


 ちなみにプレートアーマーを装備した俺は【防御力:16】だ。

 初期装備のダウゼンと比べれば固いが、ドリルとは比べるまでもない。


 おかげで一瞬、「あれ、防御力ってなんだっけ?」って思ってしまった。

 この数値、本当に頼りになるのかって。

 力が高くてもムッキムキにならない現象と同じで。


「ま、まぁ最初の街だしカンストさせる必要は無いだろ? 必要になったら付ける事にするよ」

「そうですか。翔助殿がそうおっしゃるなら無理にとは言いませぬ」


 でもやはり頭にドリルは異物感がすごく、気が引けてならない。

 なぜか装備すると非表示になるらしく、間抜けな装いにはならなさそうだけど。

 とりあえずここはひとまず遠慮しておく事にする。


 という訳で装備調整を終え、俺達はようやく街を出た。


 外壁を越えると、待っていたのはやはり広大な平原だ。

 遠くを眺めれば魔物らしい存在がチラリと見える。

 これだけでもう異世界って雰囲気をひしひしと感じるよ。


 すると早速、俺の足元に一匹の魔物の姿が現れた。

 とても小さい、手乗りハムスターみたいな奴が。


「これも魔物なのか?」

「ええ、スモールラットという人に害を及ぼさないけど魔物認定されている存在ね」

「むしろ時々、農作物を守ったぁりしてくれるぅ。共存共栄できる子でっす」


 やはり最初の相手という事でとても弱そう。

 というか可愛くて逆に戦えないな、ハハ。


 それでふとスモールラットを掬い上げ、近づけて眺めてみる。

 見るからに普通のハムスターだ。尻尾も短いし、クシクシしてるし。


 子どもの頃、ハムスターを飼った事があるからな。

 当時を思い出してとても懐かしいよ。


「あっ、翔助殿、それはいけませぬ」

「いいじゃないか、人畜無害なら。可愛いもの――」

 

 だがこの時、俺は忘れていたんだ。

 ここが異世界なんだって。

 しかも現代の常識が何一つ通用しない場所なのだと。


 空高く吹き飛ばされながら、俺はその現実を実感していた。


 身体がきりもみ、四肢の自由が効かない。

 プレートアーマーが粉々に砕け散っていく。

 そんな様子をスローモーションで眺めながら、俺は今青空を仰いでいたんだ。 


「ぐぶぉ……げふぁッ!!?」


 そして大地へグシャリと墜落。

 何が起こったのかもわからないまま、今度は込み上げる痛みでのたうち回る。


「いっぎいいいい!!? うぎょおアアアアア!!!? んぎゃごろオオオオオ!!!!」


 もう言葉にもならなぁい!

 痛い、痛い、痛いィ!!

 まるで臓物がドロッドロに溶けて全身を駆け巡っているかの様だァァァ!!!


「確かに無害なのですが、魔物に一定時間ふれ続けると交戦状態となってしまうのですぞ。なお今のはスモールラットのクシクシ攻撃でしょう」

「なっにッぞれえッ!!?」

「可愛いでっす」

「まっだぐッ! がわいっぐなッいッ!!!」


 しかし一方の仲間達は妙に冷静なまま。

 むしろ「ホッとした」と言わんばかりに胸をなでおろしている。


「ですが安心してくだされ、HPがまだ3残っておりますゆえ死ぬ事はありませぬ」

「さんッ!? たった一撃で残り、さんッ!!?」


 この激痛地獄のどこに安心できる要素があるんだよ!?

 今にも気絶して死にそうなんだけど???


 ちなみに俺の最大HPは【230】だ。

 つまりあのハムスターが残り227を一発で削り取った訳で。


 ますます何が起こったのか理解不能だった。


「通常攻撃で良かったですな。即死攻撃である【ラットクロー】でここで冒険は終了でしたから」

「即死攻撃あんの!? 序盤なのに!? そしてクローなのに噛むのォ!?」

「えぇ、技名がそうなだけで噛む攻撃なのです」

「デバッグ班ンンン!! 仕事しろォォォ!!!」

「それとHPがゼロにならなければ死にはしませぬ。宿に泊まれば翌日には元気になれますぞ。ハッハッハ」

「何でもいいから笑ってないで助けてェェェ!!!!!」


 痛いし辛いし苦しいし。

 なのでこの後、俺は仲間達に運ばれて街へと戻った。


 そして宿に泊まって翌日になると、言われた通り体は元通りに。


 そこで俺は朝一番に武具屋へと赴き、ドリルを買って速攻で装備したのだった。

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