第2話 なんだか妙だよ仲間達

 俺の名は狭間翔助。

 異世界転移者募集アプリを遊んだら本当に異世界へとやってきた男だ。


 しかし訪れた世界は妙な勢いと異質さを伴い、なんだか不穏を感じてならない。

 それでも、ひとまずは俺を召喚した国王を信じる事にしたんだ。

 勇者として邪神封印の旅に出て欲しい、という願いを受け入れると共に。


 それで今、その国王が旅の仲間を紹介してくれるという。


 それも見た目からして異様な奴等をな。

 国王は信用してもいいけど、彼等の方は一体どうなのやら。


「まず一人目は戦士ダウゼン。屈強さが売りな、パーティの攻撃力ですじゃ」

「勇者殿、今後ともよろしくお願いいたしますぞ!」


 最初に示されたのはなんだか暑苦しそうな男。

 ゴツい体格のおかげで、身に纏う真紅の鎧がとても様になっている。

 あとケツアゴと輝く歯を見せつけたスマイルが眩しい。何この無駄な爽やかさ。


 でもなんだろう、様相に妙な違和感がある。

 いかにもモデリング不調的な雰囲気を感じるんだ。

 なんだか変に右肩下がりというか、一段低いというか。


 その肩、脱臼してない?


「次に麗しき弓士ウィシュカ。素早く敵を射貫く、パーティの攻撃力ですじゃ」

「私がいるからには道中はもう心配なしよ!」


 その次に示されたのは少し気が強そうな娘。

 まるでラノベに出て来るエルフのようだ、と言っても差し支えないくらいに綺麗な顔付きが印象的だ。

 自慢の短弓を取る姿が様になっていて、麗しいのも頷ける。


 だがこの娘が一番おかしい。


 なんたって着ている服が【スモウレスラースーツ】なんだよ。

 綺麗な顔と美しい金髪、細い首と艶やかな肌――なのに体はぶっくりとした力士の着ぐるみに、頭頂部にはマゲまでついている。

 せっかくの美少女が台無しだよ!


 一体何をどう考えたら初期装備がそれになるんだ?

 君が誘うのは土俵への道のりなの???


「最後に魔術士ユーリス。膨大な魔力で敵を焼く、パーティの攻撃力ですじゃ」

「よ、よろしくおねがいしまぁすぅ」


 で、最初の二人から更に離れた所に、小柄な女の子がちょこんと一人。

 紫のローブとトンガリ帽子な所はもはや魔法使いならお約束だよな。

 モジモジした内気そうな所はなんだか可愛げがある。小動物みたいで。


 あとこの子だけは他と違って違和感は無い。

 むしろ先の二人が違和感だらけなだけに妙な安心感さえ憶える。

 この子以外をチェンジしたいと思えるくらいに。


 なんなら彼女と二人きりでもいいぞ。


「攻撃力極振りだな、このメンバー」

「『力こそパワー』という言葉が勇者殿の世界にもあるくらいですからな。全てを薙ぎ払える攻撃力は大事ですじゃ」

「なんでそんな言葉知ってるの!?」

「過去の勇者達がそう語っていたそうですじゃ。そういった言動は出来るだけ一語一句『記録』しておるのです。伝承にもエビデンス証拠は大事ですからのう」

「その点は俺の勤務先よりしっかりしてると思うわ。でもその現実世界への異様な理解度は一体何なの……」


 まぁ人は見た目に寄らないっていうし。

 たとえ違和感があっても、今は彼等に頼るしかない。

 もしかしたらものすごい頼りになる奴等かも知れないしな。


 それでも合わなかったら途中で別れればいいさ。


 そんな邪な想いを胸に秘めつつ、仲間達と熱い握手を交わす。

 なぜかユーリスだけは断られたけど。


 信頼度まだ低いからかなー、ちょっと悲しい。


「では勇者ハザマシ! 世界を救う旅に出るのじゃ!」

「どうしてその名前になった!?」

「伝統で、勇者の名前は四文字までと決まっとるし?」

「待って、何そのレトロRPG的な伝統ゥ!!」


 四文字までとかどんなRPG世界だよ。コードネームか。


 ならせめてもう一世代後くらいの制約にして欲しかった。

 名前五文字以上な子の夢を壊さないで!


「できれば下の名前から始まる方でオナシャーッス!」

「わかり申した。では旅立つのじゃ、勇者ケスウョよ」

「わかってない、それわかってないんよ! ショウスでお願いしまッすゥ!」

「んもぅ仕方ないのぉ~……行けぃ勇者ショウスよぉう!」


 本当ならもっとカッコイイ名前にしたいが、あいにくまだ何も考えていない。

 なので諦めてこの名前を受け入れる事にした。


 ゲームらしいなら、後で名前変更が利くといいんだけどな。




 そんな訳で、俺達四人は揃って城を後にした。


 で、早速と迎えてくれたのはやはり、ありがちなファンタジー式洋風の街並み。

 石やレンガで建てられた建物達と、ラノベで想像した通りの景色だ。


 だけどそんなの関係無いねッ!


 実際に来たら、ありがちにも拘らず冒険心をやたら煽って来るものでな。

 おかげでもう街の様子を見るだけで無性に堪らないんだ。

 不安なんて忘れちゃいそうになるくらいに。


「俺の事は翔助とでも呼んでくれ」

「わかったわ。私達も呼び捨てで呼んでもらって構わないから」

「信頼して頂けるよう、尽力を尽くす所存ですぞぉ!」

「ウ、ウチもがんばりまっす!」


 だから今は気楽に、楽しむつもりで挑むとしよう。

 仲間達もこう乗り気だからきっと何とかなるさ。


 さぁて行くとしようか、ワクワクする様な異世界の冒険に!


『こうして勇者・翔助達の旅は始まった!』


 ――ところで今、なんか妙な声が聴こえたが気のせいだろうか。

 ま、こんな異世界ファンタジーなら深い事気にしちゃダメだよな。

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