おいでませバグ世界!理不尽な不具合だらけの異世界を勇者の知恵と知識でRTAする。俺が真のクソゲーってものを教えてやるよ!

ひなうさ

第1話 おいでませ異世界

 始まりは恐らく、現実世界からだったんだと思う。


 ただの会社員だった俺は特に夢なんて無かった。

 きっと普通に働いて、結婚して、子育てして歳を取って死ぬんだって。


 けどそう思っていた矢先、親友から妙なモノを勧められた。

 それが【異世界転移者募集】とかいう極めて・盛大に・怪しい謎アプリだった。

 ラノベ大好きなアイツらしい拾い物だと思ったもんだよ。


 その内容は至極単純。

 ただ「あなたは異世界転移したいですか?」という質問に答えるだけ。


 こんなの検索から即弾かれそうなモノなのにな。そう、某リンゴちゃんならね!

 けど当の親友からは「深い事は気にするなよー」なんて軽くあしらわれてな。

 だから「随分と無責任だな」と鼻で笑ってやったもんだ。


 で、そのままいつも通り家に帰って飯を喰って寝て。

 そして起きたら、虹色ステンドグラスが印象的な神殿風の建物内にいた。


 それもベッドごと、トランクス一枚のままで。


「おお、召喚は成功じゃ! よくぞいらっしゃいました勇者殿ォ!!」

「えっ? は? うええっ!!!??」


 しかも目の前では見た事の無い男が喜びを上げていたという。

 赤いマントと刺繍入りの服、煌びやかな王冠をかぶった王様風の男が。


 更には周囲に、一〇人の同じ顔をした白ローブ髭男達が並んでいて。


「こうして呼んだのは他でもない! そなたに邪神を封印して頂きたいからじゃ!」

「待って、展開クッソ速くない!?」


 おまけにやたらと勢いがすさまじい。

 状況が読めないってのに、こっちの都合ガン無視ときた。

 いきなりの展開すぎて、当事者がまったくついていけてないよ!


 それにこの王様風の男、距離感が妙に近い。物理的に。


 なぜか無駄に顔・体を近づけて来るのだ。

 荒げた鼻息が届くくらいに!

 おっさんだから凄く不快だし、こっちはパンイチだから恥ずかしいしで最悪なんだが!?


「まずちょっと離れてくれないか!? 我が国にはソーシャルディスタンスという作法があってだな――」

「仕様ゆえ、なりませぬ。我慢してくだされ」

「仕様って何!?」


 だが妙な言い訳をして一向に離れようとしてくれない。

 手で顔を押し返そうにも、力の限り抵抗してくるくらいに。

 なんなの、この徹底的さ!?


「んぐォォ……と、ところで勇者殿、お名前はにゃんと申されましたかな?」

「え? お、俺は狭間はざま 翔助しょうすけだけど……」

「おお、さすが勇者殿、お名前も実にたくましいッ!」

「変に褒めるのやめろぅ! なんかこっぱずかしいからぁ!」


 そんでもってこうも唐突に褒められると恥ずかしさも倍増だ。

 やたら嬉しそうにしている所がすっごく痛々しいし!

 いい加減もう耐えられそうにないからブン殴っていいか!?


 ……ま、まぁ、この謎の距離感はいったん置いておくとして。


 昨今のラノベらしいド高速展開。

 コッテコテの目的とシチュエーション。

 色々と突っ込み所も多いが、こんな現実が目の前にある以上はもはや受け入れざるを得ない。


 すまんな、友よ。

 どうやら俺の方が異世界転移してしまったらしい。


 くだんのアプリのおかげもあったからかな、事実は割と早く受け止める事が出来たようだ。

 元々、内心では期待していた事もあったからだろう。

 俺もファンタジーRPGやラノベはある程度嗜んでいるくらいだし。

 子どもの頃には「勇者になって冒険したぁい!」なんて夢も抱いたものだから。


「それで勇者殿!? 我等の願いをどうか叶えて頂けませぬか!?」

「わ、わかった、わかったって! 言いたい事はわかるし、別に断固拒否って訳でもない」

「お、おお!」


 だからこそ俺は事実を受け止めた上で、彼等の願いを受け入れてみる事にした。


 もちろん怪しくない訳じゃない。

 この世界の事も彼等の事も、まだ何もわからないのだから。


「勇者殿ォ! あぁりがとうございますゥゥゥ!!!」

「お、おい、そこまでしなくても!?」


 ただ、王様達の熱意は本物だと感じたよ。

 なにせ今、承諾した俺にひざまづいて感謝を述べているからな。

 こうして体裁など気にしない所は信用に足ると思えたのだ。


 そこで俺達は詳しい話をする為にと、ひとまず城へ向かう事に。

 パンイチのまま歩き回るのもなんだと、髭男の一人からローブをゆずってもらった上で。


 でも、髭男もローブの下はパンイチでした。


 しかも白ブリーフで俺より破壊力抜群ときた。

 なので俺は「すまない、なんかすまない……ッ!」と心に思いつつ、視界に入れない様にした。


 髭男の虚無の視線が痛かったので。




 俺が召喚された神殿は城の隣にあったらしく、謁見の間へはすぐに到着。

 そして王様風――いや、本物の国王より召喚の目的などを改めて教えてもらい、大体の状況が把握できた。


 どうやらこの世界では、邪神が三年~二十年ほどの周期で復活するらしい。

 しかし、邪神はこの世界の住人では触れる事さえ叶わないという。

 なので、邪神復活のつどにこうして召喚を行い、異世界の勇者に頼るそうだ。

 ……まぁ随分と大雑把な周期だとは思う。


 その勇者はいずれも俺と同じ時代の現代人とのこと。

 つまりあのアプリが要因なのは濃厚だろう。

 一体どうやったかまではわかるはずもないが。


 ただ、どうも先着順という訳ではないらしい。

 訊くに、親友の名は記録にまだ連なっていないそうなので。


 それと、勇者はどの代でも一人だけとのこと。

 なので共通話題で語れる旅仲間はとても期待出来そうにない。


「それでは早速、勇者殿を導く仲間を紹介いたしましょう。いずれもこの日の為にと鍛え上げて来た強者ばかり達ですじゃ」


 けど、寂しい一人旅だけは避けられそうだ。

 あらかじめ道中の仲間まで用意していてくれたらしい。


 すると早速、何者かが国王の声に応じて別室から現れた。


 ただその者達の雰囲気に俺はただ呑まれるばかりだった。

 異世界の仲間とはどうやら、とても普通とはいかない連中ばかりの様だぞ。


 まるで、この世界の異様性を象徴するかのようにな……!

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