第2話 パワハラとパワレベ
貴族の中でもウエス家は特別なのだ。
何でも聖女の神器は適合者が少なく、そのほとんどは、ウエス家から出る。
今世代の適合者はアメリアと二人の姉で、聖女に選ばえる可能性があるのは、三人しかいなかったそうだ。
だから、アメリアの左手の甲には、聖痕がある。
ところで、勇者パーティーの神器は、ランダムに現れる。
「神のきまぐれ」と呼ばれる現象で規則性がない。
勇者システィーナの神器は「聖剣エクスカリバー」。拳聖クリスは「ドラゴンファング」。私賢者ハルナには「陰陽のロッド」が女神に授けられた。
この三種の使い方は幸いに、広く知られている。
聖女アメリアは「太陽の指輪」を授かったはず。「仲間」である私達は、そこまで分った。だけど、見せてさえくれない。
勇者伝記に「勇者を手助けする強力な指輪」とあるが、それしか分からない。
聖女になるのが、ほぼウエス家の女子。だから家の書庫に記録はあるようだが、私達では見せてもらえなかった。
どうせ聞いても、「平民」は拒否されるのだろう。
さてアメリアだけど、その強さを認めるしかなかった。
聖痕を持つアメリアら三姉妹は、わずか8歳で魔王領に入り戦闘訓練を始めたそうだ。
性格はもとかく、戦闘のエリート。アメリアの身長は私達と同じ160センチくらいの中肉中背だけど、軽々とロングソードを持ち上げた。
「あなたたちグズだからパワレベしてあげるわ」
ぱわれべ?
いきなり中級ダンジョンに連れていかれた。
転移装置を勝手に起動して10階に連れていかれた。
するとアメリアが、いきなり走り出した。驚いて、みんな必死で追いかけた。
「こんな場所ではぐれたら死ぬ。走って!」
冒険者の親に鍛えられ、ダンジョン経験があるクリスが誰より顔が青い。
そのクリスを見た私とシスティーナも、焦った。
突き当たりにギルド訓練場くらいの部屋があり、中には信じられない光景が広がっていた。
手足がないオークがそこいら中でブエェー、ブモモッともがいていた。
その真ん中でアメリアが笑っていた。
「あーっはっは。みんな捨てられたような顔。あっ勇者ちゃんはリアルに捨て子だっわね」
「メス豚ちゃんたち、止めを刺しなさい」
下を指差して言った。
「今のまんまじゃ賢者ちゃんの氷魔法は保冷庫くらいにしかならない。拳聖ちゃん得意の軟気功も肩こり治すくらいにしか役立たない。神器の発動なんて、いつになるか分からないわ」
上等の防具が用意されていたけど、私達はまだ素人だった。
完全に嫌がらせ目的の初ダンジョンだったと認識した。
お金に糸目をつけないミスリルの装備を渡されて、アメリアに対する警戒が緩んでいた。
三人とも腹がたった。
怒り?もちろんオークにぶつけたよ!
ダンジョン、嫌がらせ、ダンジョン、勝手な進路変更、ダンジョン。有無を云わせない。
ギルドも騙されてて、報酬はアメリアに一括払い。
Sランクの魔物倒してアメリアに渡された金貨は一人2枚。
ギルドに相談しても能天気な答えしか返ってこない。
「聖女アメリア様にお考えがあるのですよ」
そう言われた上に、聖女に報告されてしまった。
アメリアが心底嫌いになったけど、一年後、私達四人は超人としか呼べないほど強くなっていた。
過去の例で考えると、魔王は倒せるくらいになってるらしい。
だけど魔王討伐後、アメリアが私達をすんなり故郷に帰してくれるんだろうか。
魔王を倒しても、魔王と同じ運命をたどるんじゃないだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます