第3話 起死回生の一手
魔王討伐の決戦前夜、アメリアを除く三人で密かに集まった。
心がすさんだ私達の会話はゲスかった。
「あの女、また盛ってるの?あした、戦えるのかな」
「最後の町で合流した騎士隊のアレンは、アメリアの恋人だって」
「わずか10日でしょ。旅が終わるまで我慢できんかね」
「夜はやりっぱなし。最後の街のから魔王城まで魔王結界に穴を空けながらの10日間。進みは遅いけど、二人にすればパラダイスよね」
「今日の聖女もすごいよね。どんなプレイ? 性騎士アレンの性剣すごいのだよ」
「聖女改め、性女を広めたいね」
「そういえば、伯爵家の大広間の壮行会だって変だったよ。みんなアメリアの前で、ぎこちない社交辞令ばっかだった」
「お姉さん二人なんか、笑顔さえ見せなかったし」
「だって、今でさえアレだよ。魔王討伐後は暴君に成り上がる可能性まであるんじゃない。どっちに転んでも伯爵家には魔王みたいなもんが降臨。「わーっはっはっは」か、「おーっほっほっほ」の違いしかないよ」
「さすがに街の人たちは手を振ってたけど、討伐後に態度がコロッと変わるかもね」
「私達だって元が平民だから、魔王の手先だ、とか難癖つけられても、誰も守ってくれない」
「証言してくれる騎士隊は、アメリアの仲間だろうから、むしろ敵と思った方がいい・・」
・・・・。
「ねぇ…」
私レナ。
「どん底に落としてやらない?」
「「?」」
私は黒い笑みを浮かべていたと思う。
「デンスのギルマスに「映像記録の魔道具」を渡されたの。恨みがあるから聖女のテントに仕掛けろって」
「「!」」
「討伐が成功したら聖女アメリアは第二王子に嫁入り確定だって」
「アレンとの関係、不貞だったんだ。それも被害者が王族」
「アメリア、私達からお金を搾り取ってたでしょ。この国で立場が悪くなりそうなら、お金持って隣国に逃げ込む可能性もあるそうよ」
「お金は惜しいけど、いなくなってくれるなら・・」
「私達は家族を人質に取られてるのよ。アメリアの国外逃亡を手伝わされたら、普通に犯罪者よ」
「あ、どうしよう」
「そこもギルマスが反アメリア勢力と協力して解決してくれるって。魔王倒したら転移門使えるようになるから、速攻でデンスに帰ってギルド直行。再生装置で大公開して聖女を転落させるしかない」
「それしかない。明日が勝負だ」
◆◆◆◆
私は勇者システィーナ!
なんてね。
魔王討伐は明日が山場だけど、勇者パーティーは聖女に支配されてきた。
金銭、行動、細部に至るまでだ。
普通、リーダーは勇者では?
反抗したいけど、育った孤児院の弟妹と愛しいマーク。聖女の手の者に監視されている。
平たく言えば人質だ。
月に一回、通信映像の魔道具で一時間、マークと子供達の顔を見ながら話せる。
癒される。
力が漲る。
性悪アメリアは強調した。
「魔王に止めを刺すあなたが、やる気を出せるように高価な魔道具を使ってるだけ。逃げたときには、マーク君はどうなるか、分かってるよね」
バカでも分かる。
魔王討伐に成功しても、私達三人と、三人の大切な人達が穏やかに暮らせる保証はない。
人を陥れたこともない私達では、搦め手で聖女をどうにかするなんて考えつかない。
それに私達の家族に監視を付けられて、真っ当な手段で対抗なんかできない。
もしやるなら、力業しかない。
魔王討伐後に、あの女と騎士隊の殺戮も頭をよぎった。
超人になった勇者、拳聖、賢者が力を合わせれば可能だろう。
でも私達の心は「人」のままだ。
デンスで騎士隊長の家に招待された。マリア奥様の笑顔と手料理は心に染みた。
相手は手練れでも、殺害隠蔽のためには一人も逃がしてはいけない。
やるならゴブリンの巣を片付けたときより、非情で機械的に作業しなければ、ならない。
私は「縁」が生まれた隊長に迷わず剣を振り下ろせるのか。
どう考えても無理だ。
八方塞がりのなかで、レナから蠱惑の提案。
被害も聖女とアレンだけで抑えられる。
そして効果的だ。
もう映像の魔道具は回収した。
討伐が終わったらギルマスに渡して、再生装置で大々的に広めてもらおう。
うん、単純だからこそ、私達でもやれる。
クリス、ハルナ、マーク、必ず幸せになろう。
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