2話 結埜香

「ねぇ、あいつさ、男子の更衣覗いてるんだって」

「まじか、きしょ」


「ルックス的に無理なんだよねぇ」

「あ〜わかるわかる」


「聞いた?今、めっちゃぶりっ子の声出てたんだけど」

「は?きっも」


あはははははははははははっはっはははは

あっははははは あ〜


私の周りってこんな言葉でできている。

別に友達がいない訳では無い。

仲がいい子は沢山いるし、一緒に苦しんでくれる子もいる。

だけど、どうしても、こういった声が耳につく。

毎日が絶望的で、怒りに満ちていて、悔しくって。

でも、怖くって、何も出来なくて、だけど、何か、していたくて、だから、毎日が危険に満ちていて·····

一緒に騒ぐ子はいる。だから、その子たちといる時は私はとても陽キャって感じ。

その時は本当に楽しい。

自分がいるって感じれる。

だけど、相手が変わると、私、「え、あ、うん、そうだね」しか言えない。

罰が当たったんだと思う。

以前、いじめられていた子を助けられなかったから。

私をいじめていた子の悪口を言ったから。

だって、そう思わないと、毎日が暗くて、濡れてて、湿ってて、臭くって、とてもじゃないけど、生きてけない。


ああ、まただ。

涼羽だ。クラスで、最も頭が良い男子。

だけど、私を嘲笑う男子と仲がいい。

おそらく、一緒に私を嘲笑って、悪く言って、私を傷つけようとしている。

背が高い彼は同じく背が高い私とよく目が合う。

一軍の女の子なら、きっと彼は喜んで目を合わせるはず。

だけど、私が目を合わせたら、きっと、

「結埜香がめっちゃこっち見るんだけど。」

から始まる新しい噂ができる。

私は背が高いから、どうしても男子と目を合わせちゃう。

だからといって、猫背になって下を見るのは、矜恃が許さない。

屈したくない。

涼羽のことはなんとも思ってない。

くたばれ。

そうとしか思ってない。


だけど、異常に目を合わせる。

そして、どんなに目を合わせても、特に私に対する悪口は聞こえない。

もしかして...


ああ、ダメ。ダメ。私。そんなこと考えたって裏切られるだけの思考だから。

だから、あなたは私に着いてくればいいから。


この時から、私は二重人格になった。

いつも、知ったような口をきいて、私をたしなめる。


周りから見たら私は幸せものだろう。

だって、駅までは思春期の女の子とは思えないほど父と笑いながら来て、父と別れたら、車両に沢山の友達がいて、まるでランウェイを歩くように手を振りながら車両を歩き、最終的に1番仲がいい友達の隣に腰を下ろす。

移動教室は友達とバカなことで笑って、ほかのクラスの友達とは大きな音を鳴らしてハイタッチ。

こんなに幸せなのに、私はどうしても幸せになれない。

どうしても私の生活を乱す奴らがいる。

一部だとしても、私は傷つく。

仲間がいても、私は傷つく。

皆信じれない。

今私と仲が良くても、いつかは裏切るかもしれない。

自分しか頼れない。

でも、自分だけじゃ耐えきれない。

他人が欲しい。でも、自分も欲しい。

そして生まれたのが、二重人格という病気だ。


油断したら、涼羽の顔が浮かぶ。

恋ではないと思う。

助けを求めているのだ。

影響力の強いあなたなら、私を助けられるでしょ?


自分でも嫌になる。

友達は信じれないくせに、なんであんな奴を頼るの?

幸せなのに、幸せじゃない。

頼れるのに頼らない。

嫌なのに嫌がれない。


何もかも、矛盾していて、嫌になる。

皆が敵に見えて、だけど、見えたくない。


ある日、クラスのいじめっ子と仲がいい子に、いじめっ子と一緒にいて怖くないのか、と聞いたことがある。

てっきり怖くないよ!あの子は優しいよ!みたいな答えが出ると思ったのに、

「怖いよ。だけど、私たちはそんな感情では結ばれていないんだよね。」


もうメンタルがめちゃくちゃだ。

なんで怖いのに一緒にいるの?

あとそんな感情って、私がバカみたいじゃない。

「そんな感情」でしか生きていない私がバカなんでしょ?


皆違う世界で生きているみたいで怖かった。

私は奢っていた。

勘違いしていた。

私は強くて、聡明で、みんなとは違うと。

だけど、実は弱くて、愚かで、モブキャラだったんだ。

主要キャラにすらなれない。

もしかしたら、モブキャラにすらなれないかもしれない。


そんな時に決まって、涼羽がこっちを見る。

私が苦しい時に限って見てくる。

だから、何も出来ない。

あの目は、私の芯まで見抜いているようだった。

だけど、そうされたら、私は自分の存在を確認できる。

だから、結局安心してしまう。


私は生きてていいんだ。

誰かに見られているんだ。


そんな毎日が続いた日の夜、私は涼羽と話してみることを決心した。

なんで、私なんかに構うの?

どうして、目が合っても、私は叩かれないの?

私は生きていてもいいの?


その夜、深く眠った気がした。


起きたら転生していた。




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