1話 優雅って何?

【これは、私の友達の日記と、友達の取材のメモを交えて小説にしたものです。


私の友達は結埜香という名前です。


彼女がある日、中学生の時に不思議な体験をしたそうなので、私が少し誇張してお話にしてみました。


大部分は結埜香の体験に基づくものですが、一部フィクションが含まれています。


彼女とは本当に仲がいいので、私はこの体験を信じていますが、読者の皆さんはひとつの物語としてお楽しみください。


また、この小説は今の結埜香が情景の説明をし、物語の結埜香がその時思ったこととして、当時の彼女の思想を忠実に再現しました。


特に括弧などをつけて分けませんので、わかりづらいと思いますが、私と結埜香との合同作としてのオリジナリティを出したつもりです。


私は時にナレーションとして登場します。


その時は括弧をつけてご説明しますので、ご心配なく。


では、平安時代に戻って、不思議な空気を一緒に吸ってみましょう。】



落ち着いて、私。

今までもそうしてきたじゃん?

·····

怖い。

怖いよ。

·····

怖がっちゃダメ、結埜香。

いつもと同じだよ。

みんなが敵でも自分は味方じゃないの。

嫌われても、あなたは呼吸できて、生きられるから。

·····

でも、いつもと絶対違う。

これは、私では無いんだから。

生きていても、私が生きているわけじゃない。 ·····

だから、いいんでしょ?

結埜香がどうなろうと、結埜香のせいにされないよ。

·····

でも、知らない人に、知らない私。

知らない世界に、知らない空気。

どうしろって言うの。

·····

結埜香はただ、生きていればいいから。

何も考えなくていい。

自分さえいれば、それでいいって決めたでしょ?

·····

だけど、これは私じゃない。

自分すらいない。

私は結埜香じゃない。

私は誰なの?

私はどこにいるの?

ねぇ、答えてよ。


お願いだから。



「ねえっっ!!」


唇が震えてる。

歯茎が痺れてる。


私はあの時から毎晩同じことをしている。

二重人格と言うはずだ。

自分を失い、世界を失った。


神様は私に何も残してはくれなかった。

だけど、せめて与えて欲しい。

だから、私は行動を起こした。





「癸子様〜、いつまでお休みになられるのですか?奥方様が機嫌を損ね始めていらっしゃいますよ!」


カーテンみたいなのから小柄で小麦色の女の子が出てきた。


うーん?奥方様?

話し方からして、この人は私よりも身分がしたかもしれない。

だから、ちょっと見下した感じに·····


「そ、そうなのっ?それなら、さっさと起きなくちゃいけないわね。」


声が上ずってしまった。


「雪乃様、癸子様はまだ、風邪気味なのですか?

声がとってもおかしいです!」


この子、ド直球じゃん。 平安時代ってもっと、謙虚なんじゃないの?


「そうねぇ、私もそう思っていたのよ。いつもより騒がしいわね。普段はもっとおしとやかなのに。」


えぇぇ、私いつもの半分もおしとやかにしてんのに!

難しい。

だけど、良い情報が入ったかも。

平安時代の「私」はおしとやかってことね。

えと、これを優雅っていうのかもね。


「ごめんなさい。悪い夢でも見たかもしれないわ…」


起き上がろうとしたが、上手くいかない。


んもう、どうして十二単なんか着るの。

ああ、動きづらくて仕方がないじゃん。

最悪ゥ


そして、雪乃と呼ばれた女性は、私を支えて、


「病み上がりなのだから無理しないことよ。

私から、母上に申しておきましょうか?」


ほほう、私は病み上がりなのか。

そして、雪乃は奥方様の娘。

今までの会話から、もしかしたら私たちは姉妹なのかもしれない。

そして、私はその奥方様とは一体誰でどこにいるのか分からないから、雪乃に着いて来てもらおうっと。


「ええ、お願いしてもよろしいかしら?」


カーテンみたいなのから外へ出ると四角形の穴が沢山空いた板が立っていた。

そこから外へつながるらしかった。


「それにしても、あなた、昨日は大変だったわねぇ。辛かったと思うわ。」


なるほど、私が転生している時、こちらの私は随分苦しんでいたってことね。

直接関係するか分からないけど、覚えておこっと。


「そうね、確かに苦しかったけど、今は平気よ。」


私たちは、ひとつの大きなカーテンと屏風の間からひとつの空間に入った。


「お母上、癸子は随分回復しましたよ。でも、病み上がりだから、どうかお優しく。」


雪乃が一つの畳に座った。


「癸子、何してるの?座りなさい。」


さらにひとつ奥のカーテンから人がでてきた。


「あ、はい。」


おお、これが奥方様。

さすが、豪華そうなの着てる。


私は雪乃の見ている方向にある、畳みたいなのに座った。


「さあ、癸子、お化粧しますよ。はあ、あの方に果たしてあなたが合うのか、母上は心配よ。」


え、ちょちょちょ。

あの方って、何、私結婚するの?

てか、貝合わせってやつやるんじゃないの?

あ、でも、この人私のお母さんだ。


「貝合わせは·····?」


もしかしたら、私の聞き間違えかもしれない。

だってあの時まだ古文みたいなのだったから。


「ちょっと、何を言い出すやら。貝合わせは午前のお話でしょう?今は夜のお話をしているの。だって、今日は7月7日の髪洗いの日だもの。時間がかかるのよ。」


ああ、つまり、お化粧しながら貝合わせってのをするってことか。

って、はああああ?

夜のお話?

ちょっとやめてよ、私まだ13歳なんだよ?


「あの、今日じゃなくてもいいかしら?」


荒れる息を抑えて何とか絞り出した言葉は果たして伝わったのか。


「もう、癸子、いい加減にしてちょうだい。どうしてあなたは、こう、毎回お見合いになると優雅になれないの?」


私は一気に頬が赤くなるのを感じた。

どうやら、この体はすぐに頬が熱くなるようだ。


そんなこと言われても、 知りませんよぉー!


もう、優雅って一体何なの!?








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