(改稿予定)第7話 VS【ドライフ】の6人 part4
***「今です」突破口が開けた。戦場を俯瞰し、今この時に欲しい一撃を的確に撃ち込む。これが、コープ【白樺】リーダーの神髄だった。
重量やサイズの制約から、ステッペンウルフのプラズマ砲は戦車の正面装甲を貫くほどの威力は持ち合わせていない。しかし、弱点たる後部や上面を撃つなら話は別だ。
一瞬の後、〈一番星〉が爆発炎上した。
「さあ、来い。お前の力を見せてくれ」
「上等!行くよ!〈ノーザンライト〉!!」
この機体リグの全ての性能をぶつけてやる。操縦桿に力を込め、シュリーは笑顔を作る。そうしないと、美少女顔が台無しだ。
藤四郎の装甲が雪明かりを照り返す。直後、ノーザンライトはバラバラに分解した。
シェリーは心の中で、愛機に己の未熟を詫びた。
そしてその時――――――アプリコットは短い足をバタつかせ、ついにレーザーライフルのもとへとたどり着いた。
その全長は機体リグと同じくらいある。構えるだけでひと苦労だ。
近接無線給電モード。エネルギー流路をバイパスから直結。
「いっけえええ!!」
銃口が、紫の閃光を放った。
「……」
ジークは目を細め、その光を見つめていた。
「シュリーさん。頑張っていますね。こちらも負けていられません」
「そうだな」EZの返事は気がない。
「あれ?反応薄いですね」
「そりゃそうだろ、だって」***
― coop【白樺】 ―
・【ジーク】@〈T-6改"SP3"〉CRAWLER
……西から侵攻、【swordman】と一対一で交戦
・【EZ】@〈ステッペンウルフ〉MOTORCYCLE
……西から侵攻
・【シュリー】@〈ノーザンライト〉BIPEDAL
……中央の山で交戦、その後西に合流
・【香具矢】@〈コントラポロスト〉MOTORCAR
……東後方から火力支援
・【ハイネ】@〈ヴァルキリーV4〉HELICOPTER
……東から侵攻
・【Quon】@〈凶兆-magatsu kizashi-〉AEROSTAT
……東から侵攻
― coop【ドライフ】 ―
・【アンカー】@〈ヴェクター〉JET FIXED WING
……中央の山で抗戦、一時離脱
・【swordman】@〈藤四郎〉MOTORCAR
……東から侵攻、【シュリー】と交戦
・【CUE】@〈フェアライン〉BIPEDAL❌
……西から侵攻、奇襲の後三機から同時攻撃される
・【8000】@〈パワーマン〉CRAWLER
……東から侵攻
・【Tatootea】@〈一番星〉CRAWLER❌
……東から侵攻、【ジーク】と【EZ】の連携に敗れる
・【好事】@〈FA-101〉JET FIXED WING❌
……中央の山で抗戦、撃墜される
爆発。爆発。爆発。
「今集中切らしたら、死ぬし」
爆撃の嵐がステッペンウルフとSP3を襲っていた。
「完全に上を取られた……【ハイネ】たちは何やってんだ」
「どうでしょう。案外苦戦しているかもしれません」
【Quon】の〈凶兆-magatsu kizashi-〉は完全ステルスを実現した驚異の
機体のポテンシャルをフルに活かすには、僚機も通信を封鎖し、奇襲に徹することが望ましい。つまり、仲間を信じて、援護を期待できない状態で、敵と戦う必要があった。
「まあ、でも、アイツらのことだから、何とかなるだろ」
「はい。信じましょう」
二人の上空を我が物顔で飛び回るのは、〈ヴェクター〉。
ウェポンベイに満載した爆弾の雨を降らせてくる。
「
「またミサイルを回避させてその隙に攻撃するっていうのは、無理か?」
「おそらく、それも読まれていると思います。先ほど回避機動を大きく取っていたのは、おそらくフレアを温存するためでしょう。今度は強引にでも攻撃を続けるはずです」
「マジかよ。打つ手なしじゃん」
〈ヴェクター〉が再接近し、何度目かの攻撃を仕掛ける。透過された爆弾の羽が風を切り、篠笛を思わせる甲高い音を立てた。
「7時の方向、来ますよ」「了解っ!」二人は再び散開。
しかし、今回は少しばかり違った。
地響きのようなエンジン音と、悪魔が鉤爪でガラスを引っ掻くような擦れる音。
大重量を支えるキャタピラが、猛烈な摩擦を受けながら力ずくで回転させられて悲鳴を発しているのだ。
「詰めてきましたか……〈パワーマン〉」
「名前がシンプルでいいね、Quonと違って」
EZとジークは今、爆撃を回避しながら後退することで、なんとか重戦車〈パワーマン〉の主砲の射程から逃れていた。
戦線を下げることで敵を自陣の基地に近づけてしまうが、敵もわざわざ〈SP3〉の射程内に入るリスクは冒したくないわけだ。
しかし、現にこうして攻め込んでくるということは、勝利を確信してのことか。
あるいは……こちらの策を読んでのことか。
そのとき、爆撃音とキャタピラ音のなかに、もう一つの音が加わった。それは風を切る矢の音だ。
「間に合ったようですね」
「遅せーんだよ!【香具矢】!」
『もっとありがたく思ってくれないと当ててあげないよん』
降り注ぐ鉄の雨。ジークがSP3の火器管制レーダーで得た位置情報をデータリンクし、極めて高い精度で弾道計算を行う。
「SP3から四時方向、距離10m、高度50mに対空お願いします。」ジークは指示のあと、感謝していますよ、と付け加えた。
『りょーかい!』
旋回し、また攻撃を仕掛ける〈ヴェクター〉のコクピットで、【アンカー】は戦況を見下ろす。
敵の砲撃―――おそらく、火砲を用いたものではないが―――は正確だ。
〈パワーマン〉も足を止めざるを得ない。
おまけに対地、対空どちらにも使える武装がある。
空中で矢が無数に分裂し、対空榴散弾と化したときには、さすがの彼も肝を冷やした。
この状況を打開するには。
「こちらアンカー、奥の砲台を潰しに行く」
一言伝え、行動に移る。
敵戦車に機首を向け、爆撃に入ると見せかける。
当然、バイクと戦車からは対空射撃が飛んできた。
「やはり、そう来ると思っていた」
ここが踏ん張りどきだ。操縦桿を固く握りしめ、フットペダルを踏み込む。
機体が大きく傾き、地面に向かって加速する。散弾の攻撃範囲を逃れ、地面ギリギリまで高度を下げる。
度胸試しのような急降下の後、機体を持ち上げ、一気にピッチアップ。機体強度限界ギリギリの13G旋回。
歯を食いしばりながら機体を水平に戻し、再び加速。アフターバーナーに点火する。
「速い!」EZは突然降下した敵機がステッペンウルフの照準を振り切ったことに驚愕した。
SP3も攻撃を仕掛ける。砲塔がぐるりと真後ろに回転し、遠ざかる機影へと砲弾が放たれた。1秒後、さらにミサイルを発射。
しかし、どちらも虚しく空を切っただけだった。ジークの見立て通り、チャフ・フレアを放ちながら回避機動を行ったのだ。
SP3のミサイルは
「自陣側に抜けた!ヴェクターが行ったぞ香具矢!」EZは叫ぶ。
『任せて!』
通信が入るや否や、〈パワーマン〉から放たれた榴弾がステッペンウルフを吹き飛ばした。
轟音とともに爆発が起こり、視界を遮られる。
回転する視界の中で、EZはハンドルを力一杯握りしめ、機体から振り落とされまいと耐えるしかなかった。
***
〈ヴェクター〉は雪原に接しそうなほどギリギリの低空を飛んでいた。
その背後では、〈パワーマン〉の主砲が火を噴いていた。その姿は高速で遠ざかり、胡麻粒のように小さくなる。
そして前方、徐々に近づくのが【香具矢】の〈コントラポロスト〉。精密な支援攻撃で敵を援護していた。実力は確かだ。
しかし、前線から距離を置き後方に留まっていたということは装甲は厚くないはずだ。接近し、仕留める。
「あれか……」ヴェクター機首下部の
「……あれか?」
そこに映っていたのは、マッチョマンの彫像だった。
***
一面の白銀世界。
【swordman】の機体、《藤四郎》の姿は、レーザーの熱が発生させた水蒸気によって覆われている。
確実に致命傷を与えた。その手応えはある。
「やったのか……俺……私は」
シュリーは、その可憐な見た目とは裏腹な口調で独りごちる。
それが敗北のクリシェだと知っていながら、強者を下した高揚が、口を軽くしていた。
そして通信が繋がるノイズが、彼女を現実へと引き戻す。
「まさか、これほどの相手だとは思わなかった」
オープン回線を通して、swordmanの声が聞こえてくる。
そして、白い
藤四郎はとっさに右腕を盾にしたようで、肩から先がない。脇のあたりの外装は融解し、赤熱した断面から内部構造が剥き出しになっている。
なんだこれは?
機体の容積を埋め尽くすように、無数の管がうねりながら伸びている。小腸とパイプオルガンの雑種みたいだ。
「特別に、見せてやったということだ。ちょっとだけな」
swordmanはそう言って、ふふと笑った。
「どうなっているんだ……?」
液圧シリンダーとも、電動モーターとも、人工筋肉とも、違う。
シュリーは
現実においては、しばしば『ロボット兵器を作るくらいなら、その技術で戦闘機や戦車を作ったほうが強い』と揶揄される。そして悲しいことに、その夢見ることを諦めた者の冷たい論評はメック・マイスターズ・オンラインにおいても当てはまるのだ。
前方投影面積の広さ。二足歩行制御の不安定性。最大積載量の少なさ。接地面積の小ささによるパーツ消耗、不整地踏破性能の低下……
欠点を挙げようと思えばいくらでも挙げられる。それを押しのけ、人間に近い動作による独自戦略、柔軟な拡張性、などを押し通す者たちがいる。
宗教じみた熱心さでただ浪漫の二文字を追い求める変人、いや変態たちは
シュリーもその端くれとして、人型のあらゆる可能性を探ってきたのだが……
しかし、こんな奇怪な構造体は見たことがなかった。
同じゲームの、同じシステムで作られたものなのか?
「お前ならこれを見て、面白い
「へぇ……もっとよく見せてよ」
〈アプリコット〉は右足を前に出し、そこでピタリと動作を止め、ばったり倒れてしまった。この機体の電気系統は、レーザーライフルのような高出力のものをドライブするために最適化されていない。逆流したパワーがショートを引き起こしたのだろう。
勝負あり、だ。
「ちょっとだけ、と言ったろう」
藤四郎が左手を振る。内側のハッチが開き、光る物が飛び出した。それはアプリコットの薄い装甲を貫通し、コクピットに至る。
シュリーの体に、身長と同じくらい大きな十字のモニュメントが突き刺さっていた。それは、swordmanの剣。「なるほど、
***
筋肉モリモリマッチョマンの彫刻。
いや、正確には、彫刻のような肉体美を誇る男を模したオブジェが、自走砲の上に鎮座している。
手に弓を握りしめ、矢をつがえて引き絞っている。
大胸筋、上腕二頭筋、僧帽筋が隆起し、その集合体が見事な逆三角形を形成している。
「なんてこった……」
低空を飛ぶ【アンカー】の脳裏に、無数の?マークが浮かぶ。
その間にも雪山の風景が猛スピードで近づいては遠ざかる。低空飛行は絶えず集中力を要するのだ。邪魔しないでほしかった。
〈コントラポロスト〉はコープ【白樺】の誇る後方支援特化型
そのマッチョマンが持っている"弓"が主砲、
射程や弾速は火砲に劣るが、熱と音を発さず、隠密性に優れている。【Quon】の機体とは相性が良かった。
初速が低い分弾頭に与える負荷が低く、複雑な機構を仕込むことができるという利点もあった。
「見かけはともかく、あのマッチョマンは【白樺】の中でも相当な実力者だ」
【アンカー】は呟き、操縦桿を握る手に力を入れる。
彼の目から見ても、その狙撃技術は相当に高いレベルにあると言わざるを得ない。こちらの損害は大きい。
が、それでも。
「この勝負、もらった」
対象が攻撃射程圏内に入ったことをディスプレイが告げた。親指で兵装発射ボタンを押す。
白煙を引き、ロケットの噴炎が伸びていく。「喰らえ」
固体燃料を噴射しながら、ミサイルは螺旋を描いて目標へ迫る。
しかし――
〈コントラポロスト〉は、それを迎え撃つように弩を構えた。
すると、その脇腹のあたりから虫の脚のようなアームが展開し、それが弓に矢をつがえた。彫刻の男は微動だにしない。
「その筋肉は飾りか」思わずつっこんだ次の瞬間、矢が放たれていた。
それは空中で割れ、無数のフレシェット散弾となった。その光景はさながら弾けて種を撒き散らす
ダーツ型の弾丸が、空を埋め尽くす。弾幕をかぶったミサイルが空中で迎撃される。
アンカーはその光景を目にし、顔を歪ませた。
笑いで。
こんなにぴったり予想通りに事が運ぶとは思わなかった。
「拡散弾でなければ、まだ分からなかったものを」
ミサイルの時限信管が作動し、自爆する。爆風が雪を巻き上げ、粉塵となって辺りに降り注ぐ。
吹き飛ばされるのは雪だけではない。〈コントラポロスト〉の放った散弾もまた、爆風に吹き飛ばされた。
「貴様の弱点……それは、弾が軽いことだ」
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