(改稿予定)第6話 VS【ドライフ】の6人 part3

**6対6の戦いで敵1機に対し3機であたったということは、他の場所では3対5になっているということを意味する。『ハメられたね、俺ら』と、香具矢は苦笑した。


「ノーザン……!」「シャァァイニング……!!」「ナッコォォゥ!!!」


 この隙を逃す手はない。

「行くぜ、〈ステッペンウルフ〉!ジーさん!」

「ええ、参りましょう」

 二機は攻撃を仕掛けた。**


 ― coop【白樺】 ―

 ・【ジーク】@〈T-6改"SP3"〉CRAWLER

   ……西から侵攻、【swordman】と一対一で交戦

 ・【EZ】@〈ステッペンウルフ〉MOTORCYCLE

   ……西から侵攻

 ・【シュリー】@〈ノーザンライト〉BIPEDAL

   ……中央の山で交戦、その後西に合流

 ・【香具矢】@〈コントラポロスト〉MOTORCAR

   ……東後方から火力支援

 ・【ハイネ】@〈ヴァルキリーV4〉HELICOPTER

   ……東から侵攻

 ・【Quon】@〈凶兆-magatsu kizashi-〉AEROSTAT

   ……東から侵攻


 ― coop【ドライフ】 ―

 ・【アンカー】@〈ヴェクター〉JET FIXED WING

   ……中央の山で抗戦、一時離脱

 ・【swordman】@〈藤四郎〉MOTORCAR

   ……東から侵攻、【シュリー】に味方から引き離される

 ・【CUE】@〈フェアライン〉BIPEDAL❌

   ……西から侵攻、奇襲の後三機から同時攻撃される

 ・【8000】@〈パワーマン〉CRAWLER

   ……東から侵攻

 ・【Tatootea】@〈一番星〉CRAWLER

   ……東から侵攻

 ・【好事】@〈FA-101〉JET FIXED WING❌

   ……中央の山で抗戦、撃墜される



〈ステッペンウルフ〉は射程圏内まで接近すると、左側面からプラズマ砲を展開。至近距離からの精密攻撃で、装甲の薄い部分を狙う算段だ。


 当然、敵は反撃してくる。二両の戦車型リグから放たれたのは、曳光弾のシャワー。主砲の同軸機銃や駆動銃架リモートウェポンシステムから放たれる銃弾は、回避行動をとるのも困難なほど密度の高い砲火となって襲い掛かってくる。

 機体リグといえども所詮バイク、装甲は薄いと見て主砲は温存したのだろうが、その考えは甘い。


 ステッペンウルフの腕、あるいは二関節式駆動銃架の外装は、エネルギー転換装甲。エンジンからの出力を吸い上げて、一時的ながら戦車側面複合装甲並みの強度を実現させる。

 まるで横殴りの雨を傘一本で凌ぐかのように、重機関銃弾の嵐の中を突き抜ける。金属同士が激突し、はじきあう轟音が激しく雪山に響き渡る。


 すると、敵の機体リグ……〈一番星〉が、同軸機銃による射撃を止めて、砲塔をひくつかせた。

 EZはあの動きに覚えがあった。自動装填装置。あの動きは、おそらく榴弾による面制圧を行う前兆だ。

 プラズマ弾をぶちこむなら、絶好の機会。しかし、もう一両、〈パワーマン〉の機銃はステッペンウルフを狙っている。迂闊には近寄れない。

 ならば、相打ち狙いで防御を捨て攻撃するか?それとも一度引いて、次がいつ来るかわからないチャンスを待つか?


 その時。〈パワーマン〉の駆動銃架リモートウェポンシステムが爆音とともに砕け散った。


「!!……ジーさん」ジークの乗る《SP3》の砲身が硝煙をくゆらせていた。狙撃じみた精密な一射。

「今です」突破口が開けた。戦場を俯瞰し、今この時に欲しい一撃を的確に撃ち込む。これが、コープ【白樺】リーダーの神髄だった。


「あいよ!」発射準備完了したプラズマ砲に紫電が瞬く。EZは左手に持ったホログラムの銃爪ひきがねを引いた。

【Tatootea】は慌てて〈一番星〉を回避運動させるが間に合わず、直撃かと思いきや上方に逸れたエネルギー熱量弾を困惑のまなざしで見た。「……っ!?何!?」

 重量やサイズの制約から、ステッペンウルフのプラズマ砲は戦車の正面装甲を貫くほどの威力は持ち合わせていない。しかし、弱点たる後部や上面を撃つなら話は別だ。

 一瞬の後、〈一番星〉が爆発炎上した。


 二次誘導プラズマ砲……ブーメランのような軌道で攻撃できる、トリッキーな装備である。

「まずは一つ」ジークは静かにつぶやくと、SP3のギアを1速に入れ、さらなる獲物を求め走り出した。


 ***


「ち、畜生ぉ……」

〈ノーザンライト〉の各関節からは火花が上がり、限界が近いことを知らせている。

 右手は手首のあたりから切断され、竹槍のようなするどい断面からケーブルが垂れ、バチバチと火花を散らしている。全身のパールホワイト装甲は焼け焦げて、クレバスのような深い傷が無数に刻まれている。主武装のレーザーライフルは後方の雪に突き刺さり、刻まれた傷痕からショート放電するだけの物体と化している。


 一方、【swordman】の機体リグ〈藤四郎〉はほぼ無傷。

 ノーザンライトの攻撃は、藤四郎の剣捌きにことごとくいなされ、反撃の隙を与えるだけだった。まるで、自分だけ時間が止まった世界に居るかのような感覚。


 全身を包む漆黒の装甲は、設計そのままの形を保っている。腰……車体との接合部分のあたりには擦れたような傷があり、金属の地肌を銀色に輝かせているが、それだって最初の邂逅で組み合った時にできたものでしか無い。

 その僅かな傷が、かえって彼我の実力の差をありありと証明しているようであった。


 シュリーはコクピットの中で、悔しさに下唇を噛む。背景の雪山よりも冷静な声がオープン通信越しで聞こえてくる。

「悪くない動きだ。だが、そろそろ終わりか?」

 swordmanの言う通り、もう動けそうもない。だが、まだ終わったわけじゃない。

「まだだよ!」

「ああ、そうだ。そうこないと困る。心が折れた敵にとどめを刺すだけというのは、面白くない」

 ランカー求闘者チャンピオンとしての自負がそうさせるのか、あるいは、単に彼の趣味の問題なのか、どちらにせよ、彼はシュリーとの戦いを楽しんでいた。


「さあ、来い。お前の力を見せてくれ」


「上等!行くよ!〈ノーザンライト〉!!」


 この機体リグの全ての性能をぶつけてやる。操縦桿に力を込め、シュリーは笑顔を作る。そうしないと、美少女顔が台無しだ。

 ノーザンライトは脚部ブースターを全開にし、急加速して間合いを詰める。左手の装甲が、打撃のための形へと姿を変える。

「またパンチか?」芸がないな、とぼやくが早いか、藤四郎の右剣が閃く。

 拳が届くより早く、ノーザンライトは左肘関節に鋭い衝撃を受けた。


 左腕が肩口から引きちぎられ、雪原の上に転がった。

 しかし、機体からものが、左腕の他にもう一つあった。


 それは、ノーザンライトの頭部および胴体中心部……コクピットブロックと主発動機メインジェネレータである。


「脱出装置!」


 それ自体は珍しいものではない。生存性を高めることは戦闘行為の絶対条件であり、それ故に、多くの操者マイスターが座席周辺を切り離すギミックを搭載しようと試みる。

 しかし、生き延びたところで人一人。安全な場所まで離脱しても、もう戦況に関わることはとても難しい。そういうわけで、実用性がないとして廃れていった技術の一つだ。


 しかし、ノーザンライトのそれが違うところは、切り離してもなお操縦が可能ということだ。

 切り離されたコクピットブロックから、小さな手足が展開した。「……ふむ。こういう仕組みか」


 swordmanは感慨深げに呟くと、それを早速刀の錆にすべく、藤四郎のタイヤを駆動させた。

 急げ!シュリーの操縦桿を握る手に汗がにじむ。目指すは、後方に弾き飛ばされていたレーザーライフル。


 この小さな四肢をもつ脱出モジュール―――シュリーは〈アプリコット〉と名付けた―――はお世辞にも高性能とは言い難い。せいぜい、小型軽量な分、小回りが効くくらいのものだ。短い足で体を揺らして歩くさまは、「てちてち」という擬音がふさわしい。


 しかし、今はそれで十分だった。

「〈ノーザンライト〉!」


 呼びかけボイスコマンドに応じ、首と胴体中央と右手首と左腕がないノーザンライトはゆっくりと起き上がった。

 そして事前にプログラムされた動作で、藤四郎に掴みかかる。不意を付かれたのか、一瞬、反応が遅れた。


 組み付き、動きを封じる。自らの傷の深さを省みることもなく、ただひたすらに操者マイスターの勝利のために行動する。魂なき機械の身体の中に、ときに人はあるはずのないものを見出してしまう。


「……良い機体リグだ」swordmanは静かにつぶやいた。

「だが……」


 藤四郎の装甲が雪明かりを照り返す。直後、ノーザンライトはバラバラに分解した。


 シェリーは心の中で、愛機に己の未熟を詫びた。

 そしてその時――――――アプリコットは短い足をバタつかせ、ついにレーザーライフルのもとへとたどり着いた。

 その全長は機体リグと同じくらいある。構えるだけでひと苦労だ。


 近接無線給電モード。エネルギー流路をバイパスから直結。

「いっけえええ!!」


 銃口が、紫の閃光を放った。


 ***


「……」

 ジークは目を細め、その光を見つめていた。

「シュリーさん。頑張っていますね。こちらも負けていられません」

「そうだな」EZの返事は気がない。

「あれ?反応薄いですね」

「そりゃそうだろ、だって」


 爆発。爆発。爆発。


「今集中切らしたら、死ぬし」

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