(改稿予定)第5話 VS【ドライフ】の6人 part2

 **「やめておきましょう。レーダーに反応あり、数3」山の西側を通る地上ルートを通ってきた敵部隊が近づいている。

「団体様ご案内」シュリーはそう言うと、レーザーライフルの外装を展開、強制冷却した。


 一方その頃、山を挟んで反対側では。**


 ― coop【白樺】 ―

 ・【ジーク】@〈T-6改"SP3"〉CRAWLER

   ……西から侵攻

 ・【EZ】@〈ステッペンウルフ〉MOTORCYCLE

   ……西から侵攻

 ・【シュリー】@〈ノーザンライト〉BIPEDAL

   ……中央の山で交戦、その後西に合流

 ・【香具矢】@〈コントラポロスト〉MOTORCAR

   ……??

 ・【ハイネ】@〈ヴァルキリーV4〉HELICOPTER

   ……??

 ・【Quon】@〈凶兆-magatsu kizashi-〉AEROSTAT

   ……??


 ― coop【ドライフ】 ―

 ・【アンカー】@〈ヴェクター〉JET FIXED WING

   ……中央の山で抗戦、一時離脱

 ・【swordman】@〈藤四郎〉MOTORCAR

   ……??

 ・【CUE】@〈フェアライン〉BIPEDAL

   ……??

 ・【8000】@〈パワーマン〉CRAWLER

   ……??

 ・【Tatootea】@〈一番星〉CRAWLER

   ……??

 ・【好事】@〈FA-101〉JET FIXED WING❌

   ……中央の山で抗戦、撃墜される


 CUEが悪夢のような光景を見ていた。

「ヒィィィィッ!?」

 なんで、なんでこんな事に……


 数分前。

 東側ルートを歩くのは〈フェアライン〉、CUEの乗る二足歩行型歩行型機体リグだ。

 西側ルートは平たく舗装された道があるのに対して、東側は岩でできた洞窟の中を進むという非常に不安定なコースである。機体リグタイプによっては通れないこともあるし、通行できたとしても、進行速度は遅くならざるをえない。

 そのため、このマップでの戦闘は主に西ルートで行われ、東ルートはいわゆる裏取り(奇襲)に使われることが殆どだ。


 そういうわけでCUEは、哨戒役として洞窟の中を慎重に進んでいた。敵が近くにいないことを確認し、一息つく。そして、レーダーに反応があった。敵機1、洞窟の外にいるらしい。

 相手チームも最低限の戦力しか回してこないか。相手もこちらの存在に気付いているはずなのに、交戦の意思は見られない。

 ならば、こちらから仕掛けるまで。


「敵機捕捉。これより戦闘に入る」

『了解。くれぐれも無理しないようにね』通信が入る。【swordman】からだ。「わかっています」

【swordman】の伝説を知る者にとって、彼の言葉は決して軽いものではない。CUEは彼と肩を並べて戦えることが嬉しかった。彼を失望させてはいけない。


 気を引き締め、洞窟の出口に向かう。フェアラインはごつごつした足場を飛び渡るようにして進んでいく。

 外の光が近づき、だんだんと明るくなる……が、突然暗くなる。


 空気を絶え間なく叩きつけるような、ヘリのローター音。「まさか……」機体を反転させるより早く、影がフェアラインの前に立ちふさがった。

 攻撃ヘリコプター型〈ヴァルキリーV4〉。

 その銃口が、フェアラインに向けられた。

「くっ……!」

 ヴァルキリーの両小翼スタブウイングが火を吹いた。ナパーム弾の炎が、CUEの視界をオレンジ色に染めた。


「フン……やりすぎちゃったかネ?」

 ヴァルキリーのコクピット内、【ハイネ】は芝居がかって言う。

 洞窟からは煙が立ち込め、視界を遮っている。

「定義ニモヨル。弾薬ヲ使イスギタトイウ点デハ、ソウカモ」【Quon】が答えた。

「わかってないなあ。それじゃあ映えないじゃないか!Quonもこいつがなんでヴァルキリーって名前なのかくらい知ってるよネ」

「ドノミチ、1機ダケジャ騎行ジャナイダロ」

「そりゃそ……」突然。


 黒い影が煙を突き破り、一直線に飛んできた。「うおっ!」【ハイネ】は機体を横転させて回避する。


「外したか、速いな」右腕から生えた超音波ブレードを地面から引き抜き、人型の機体リグが起き上がる。

「へぇ、やるじゃん」ハイネは内心、冷や汗をかいた。空中のヘリに飛びかかれる運動性能。これが大手クランの実力か。


 フェアラインはナパーム弾が炸裂する寸前、地面のくぼみに飛び込み、身を守っていたのだ。状況に応じた柔軟な動きこそが、人型の強みだ。時に駆け、時に伏せる。

「いいセンスしてるネ」ハイネは攻撃のチャンスを伺う。

「次は当ててみせよう」ふたたびハミングする刀身を構える。

「でも、ちょっと遅かったみたいだネ」

「え?」

「ほら」


 ハイネがそう言い終わる前に、フェアラインはよろめいていた。突然の衝撃。一瞬遅れて爆弾だと気づく。

「何だ!?どこから撃ってきた!?」レーダーに反応はない。姿も見えない。「まあ、せいぜい頑張ることだネ」

「待て!うわっ」

 高度を上げるハイネのヴァルキリーを追撃しようとしたが、突如飛来したロケット弾が機体を吹き飛ばした。


「なんだ……これは」攻撃の正体がつかめない。一旦逃げるか?どこに?迷っているうちに、新たな脅威が襲いかかってくる。

 上昇したヴァルキリーは、その対地攻撃性能をフルに発揮した。ガンポッドのガトリング機構が回転を始め、無数の弾丸が降り注ぐ。


 装甲が削られていく。このままではまずい。CUEは機体を加速させた。とにかく距離を取らなくては。だが、逃げている間にも敵の攻撃は続く。

「このぉおおおッ!!」

 弾幕を縫ってフェアラインは突進し、高周波振動剣を振った。

 しかし、それをすんでのところでかわすと、ヴァルキリーは再度上昇を開始した。

「くそ……っ」フェアラインは歯噛みした。高度を上げられてしまっては為す術がない。


 ここは一度離脱し、味方と合流すべきだ。フェアラインの全速力を持ってしても、地形を無視できるヘリを振り切ることは容易ではないが、戦うのは得策ではない。

 背を向けようとした、その時。「あれ……は……?」


 空を見上げる。なにか細いものが、宙に浮かんでいるように見えた。それは次第に大きくなり、近づいて―――


 矢?


 まずい。そう思った瞬間、その軌道を予測してフェアラインは飛び退いていた。次の刹那、ミサイルのように落下してきた物体は、先ほどまでフェアラインがいた場所を貫いた。

「なんだ、今のは……」着地と同時にフェアラインは周囲を見渡す。

「あれを避けたか。やるネ、お兄さん」ハイネが言った。矢はさらに飛んでくる。二本。三本。「さっさとやられた方が楽なんだけどネ」五本。八本。十二本。


 空から鉄串の雨が降ってくる。


「うおおおお!?」CUEはなんとか避けたが、それでも被弾は免れなかった。肩アーマーが砕ける。

「これで終わりじゃないヨ」さらに、爆発。また見えない攻撃だ。「くっ……」センサー類が損傷する。

 その隙を見逃さず、ヴァルキリーが急降下攻撃を仕掛けてきた。機銃掃射が襲い来る。

 かろうじて高周波振動剣で弾いたが、体勢が崩れた。そこにロケットランチャーが突き刺さる。

 矢。爆弾。矢。矢。ロケット。矢。機銃。矢。機銃。ロケット。矢。爆弾。矢。

「ヒィィィィッ!?」


「どうだい?なかなか映える絵面だろう?」

 高度をとったヴァルキリーが、光学センサで地上の様子を観察する。そこには、数十本の矢に貫かれ、地面に磔になったフェアラインの姿があった。


「ケッコウ硬カッタナ」Quonが言い、彼の機体リグ、〈凶兆-magatsu kizashi-〉が突然なにもない所から現れた。

 本当のところは違う。光学迷彩クロークによって周囲の風景を外装に投影していたのだ。


 光学迷彩クロークは状況によっては効果的だが、万能ではない。ジェットスラスターから発せられる熱や、レーダー波の反射までは消してくれないからだ。

 しかし〈凶兆-magatsu kizashi-〉は(この正式な機体名をフルで呼ばれることは殆どなかったが)、推進を静音電動ファンに限定し、電波吸収材料を全体に塗布することで、実践レベルにおいてほぼ完全なステルス性能を実現した。


 その姿は軽量ガスで満たされた気嚢バルーンが大半を占めた、まるで気球のようなシルエットだ。下部にある控えめな爆弾倉は、今半分以上が開かれていた。


「ヤハリ、弾ヲ使イスギタ。香具矢ガ悪イ」

『えーっ、なんで俺のせい!?』通信回線の向こうから抗議の声があがる。

 香具矢の機体、〈コントラポロスト〉はこの場にはいない。少なくともハイネとQuonから見える場所には。


 大型バリスタによる長距離火力支援が、今回の作戦における香具矢の役割だった。

 人数のバランスを見て東側ルートを支援した形だったが、6対6の戦いで敵1機に対し3機であたったということは、他の場所では3対5になっているということを意味する。『ハメられたね、俺ら』と、香具矢は苦笑した。


 ***


 シュリーはレーザーライフルを腰部にマウントさせると、音声コマンドを送る。

「アームズ・オン・アームズ」

 コクピットに座るシュリー自身の腕にホログラムの装甲がまとわりついた。両腕部の制御が切り替わり、パイロットの動作を機体リグがそのまま拡大再現する、マスター/スレイブ方式となる。


 通常、ノーザンライトの両腕はアームズ・オン・スティック、つまり操縦桿による操作コマンドに対応した半自動制御によって行われている。これにより、パイロットの負担を減らしつつ、高速機動戦闘における偏差射撃など高度な火器管制を実現している。しかし、今はあえてマニュアルコントロールに切り替えた。


 戦闘中にでやることは一つだ。


「ノーザン……!」鋼の脚が地面を踏みしめ、撥条の弾ける勢いで巨体が飛び出す。

「シャァァイニング……!!」右腕部装甲が展開し、ナックルガードを形作る。

「ナッコォォゥ!!!」渾身の右ストレート。砲弾のごとく撃ち出された拳は、機体リグそのものを質量弾として【swordman】の〈藤四郎〉を粉砕せんと迫る。


「……」しかし、その一撃をかわしざま、【swordman】は左手の剣を翻した。

「ッ!?」


 一閃。


〈藤四郎〉の斬撃はノーザンライトの右腕を肘のあたりから斬り落とした。


 しかし、もとより多少のダメージは想定の上である。そのまま体当たりをかけ、スラスターを全開に吹かす。


「オオオッ……ラアアッ!!!」

 衝撃。二機は組み合ったまま、じりじりと移動しはじめ、加速していく。

「大した推力だ。少し付き合おう」【swordman】は冷静さを崩さない。

「余裕ぶってんじゃあねぇぞぉぉぉおッ!!!」

 二つの機体は、マップの端まで一気に駆け抜けていった。


「シュリー!負けんなよ!」EZは遠ざかる彼女に叫んだ。

「しかし、長くは持たないでしょうね。相手がswordmanでは」ジークは冷静に分析する。

 しかし、シュリーは二人にチャンスを与えてくれたことは確かだ。彼ら自身もそれは把握していた。


 西側侵攻ルートの平たい道から来たる3機の機体リグ

【8000】の〈パワーマン〉と、【Tatootea】の〈一番星〉、二機は重装甲を備えた戦車タイプだ。速度に劣るが、高い火力と厚い装甲を持つ。

 そして最も警戒すべきが、【swordman】の〈藤四郎〉……6輪の装甲車からロボットの上半身が生えたような外見をしている、異形の機体であった。


 会敵時、EZはレールキャノンで狙撃を試みた。しかし、〈藤四郎〉の片手が動いたかと思うと、頭部を狙ったはずの弾丸は跳弾し、道路脇の木立に消えた。

 恐ろしい反射速度、動作速度、動作精度が為せる、神業的な斬り払いであった。


 かの強敵がいれば、勝ち目は限りなく薄かっただろう。しかし、シュリーが注意を引きつけてくれた。この隙を逃す手はない。

「行くぜ、〈ステッペンウルフ〉!ジーさん!」

「ええ、参りましょう」

 二機は攻撃を仕掛けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る