第6話 怪物


 ガチャン!!!


 俺の頭部に振り落とされた大きなツルハシをコイツ(俺の怪物)がシャベルではじき返してくれた!!

 俺の怪物のグレートヘルムから、


「博士、お下がりください」


 腰を抜かしていた俺は後ろに進みながら、


「ああ……」


 直後! 

 

 牛の鉄仮面のツルハシの一撃が!俺の怪物の胸に深く突き刺さった!


「ハーデス!!」


 俺は、俺の怪物をハーデスと叫んでしまった!


 牛の鉄仮面はぐっぐっぐっっっっと刺さったツルハシを抜こうとしていたが……


 すでに、コブシを振りかぶっていた俺の怪物……


 ブ――――ン 

 ドン!!!


 牛の鉄仮面の巨体はスクリュー回転しながら飛ばされた!


 想像を絶する一撃……

 まるで軍の大砲を至近距離で顔面に喰らったように……


 牛の鉄仮面の体は無数の墓石を巻き添えのクッションにして止まった。


 壊れた墓々を背もたれにして、こっちに両手両足を向けている。

 コブシの型ができた鉄仮面はうつむいたまま動かない。

 

「今の一撃で死んだようだ」


 今まで気付かなかったが、牛の鉄仮面の左手に白い布に包まれた何かが握られていた。 この墓地に埋葬されていた頭部? アイツも、俺と同じで遺体を盗みにきた墓荒らし……? 

 なら、あの白い布の中身はきっと……


「墓が壊れた音で誰かが来る危険があるから、急がないとだめだ」


 コイツは何事も無かったように刺さったツルハシを抜き捨てて、


「はい、急いで城に帰りましょう」


「違う…… このアロー墓地にガリアナの首から下があるはずだ」


「ガリアナ?」


「一度でフランケンレデイの素材を二つ以上を得られる、こんなチャンスはない。 かくの広い墓に行くぞ」


 俺は布に巻かれたゼルダの頭部を持って走った。



 すぐに見つかった。

 有名なシュナイダー家だけに郭も広い立派な墓だった。

 ゼルダと違い菊の花は無かったが、無造作に大きな穴があったからすぐに分かった。


 穴の下の、首の無いガリアナの遺体の入った藁袋わらぶくろを見下ろしながら、


「これがフランケンレデイのボデイ候補だ。 オマエはこのボデイを城まで運べ」


「はい」




 素材を得て、俺とコイツで城へ急いで戻った……


 俺の城の直前で……


「ワン!! ワン!!」


 うっ……

 今朝、聞き覚えのある犬の鳴き声が……


「あ? フランケン・シュタイン博士?」


 濃い霧の向こうからラルの声だ……

 警察犬のワトソンを連れているのか……?

 近所の墓地を張り込んでいた帰りだろうな。


 うっ? まずい……俺の怪物を見られたら……


 と思ったが、俺の怪物の姿はない。


 ラルが俺を見つけるまえに、俺の怪物はラルに気づいて路地裏に隠れたようだ。


 足元に走って来た老犬ワトソンは白い毛の隙間の鋭い眼で、俺の右手に持つゼルダの頭部を包んだ白い布を見上げている。


 まるで『やっぱりお前だったか? お前はもう終わりだよ』という眼……


 これはやばい……

 俺も終わりか……



 ラルは俺に頭を下げた後に、


「こんな時間にどこに行ってたんですか?」


「森の木の上にトリモチの罠を仕掛けていてね。 もしかして鳥が罠に掛かってないか見に行ってたんだよ」


「こんな夜遅くにですか?」


「明日の昼にカチャトーラ(鶏肉のトマト煮)を食べたくなったんだ。 夜のうちに鳥を取っておかないと昼飯に間に合わないからな」


「なるほど」


 ラルはゼルダを包む白い布を嬉しそうに見つめ、

「とても大きい鳥がトリモチに掛かってたんですね」

 顔をゼルダを包む白い布にかなり近づけて、

「血が滲んで出てる?」


「捕れたハトが野良犬に少しかじられてたんだ…… ワトソンも、このハトの血の匂いが気になるらしいな? 食べたいんだろう?」


 ラルは呆れた目でワトソンを見下ろし、

「ワトソンしっかりしろよ? 警察犬だろ? それじゃ野良犬と同じだぞ? ちゃんと警察犬らしい仕事しろ?」


 ワトソンは口をポカーンと開けてラルを見上げていた。


「そんな事よりラル?」


「はい?」


「頼まれた通り、俺がゼルダに祈りを捧げてやった……」


 同じ目線のラルから涙がこぼれ始める。


「ありがとうございます……」


「じゃ、おやすみ」


「おやすみなさい、フランケンシュタイン博士」


 城に入るまで、後ろからヤバイ犬の鳴き声が聞こえた。


 危なかった……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る