配信開始
第6話 初配信と事故
「うわ、すごい!」
ボクに合わせて画面の中で動くキャラクターに思わず感嘆する。
しばらく時が経ち、二期生デビューまでもう少しだ。ついに届いた配信用の機材を設置し終えたし今はガワの動作確認をしているところだ。
真っ暗なフードパーカーに身を包んだ肩にかかるかかからないくらいの黒髪の、どことなく陰な感じを漂わせているこの少女が、ボクのバーチャルでの姿だ。予想はしていたけどちっちゃい。とてもちっちゃい。あ、身長の話だよ?
まあ見た目は置いといて、とプロフィールを確認する。
───
名前:狛枝オトハ
性別:男→女(TS)
年齢:17歳
身長:138cm
体重:34kg
───
あ、やっぱりか。ボクの武器を最大限活かせるのはTSだよねー。男の娘とかもありかなーとは思ったけどそういうのは女性ってバレたら炎上しそうだしね。
年齢はロリやらされるかな、とか思っていたけど17にしてくれた。あとはちょこっとだけ身長体重が減ったくらいか。
基本的なプロフィールが終わって、設定が後に続く。
───
幼い頃にTSした元男の女の子。TSしたせいで人間関係が拗れ、引きこもりになっていたが、脱却を試みてVTuberに。趣味はゲーム。
───
うーん、これTSしたこと以外はほとんどボクそのまんまじゃない?まあ演技しなくていいから助かるんだけど。
まあとにかく、これで配信の準備は大体終わった。あとはトゥウィッターというSNSで呟いたり、初配信の細かい予定を考えたら準備万端だ。
不安は大きいが、それ以上に期待がある。目の前まで迫っているデビューに胸を膨らませ、ボクは作業に取り掛かった。
───
「うあー緊張するー」
ごめん、やっぱり不安のほうが大きいや。デビューの日、配信を開始して待機画面を表示したところでそう呟く。トゥウィッターで告知もしたし、念入りに予定も立てた。それでも、不安なものは不安だ。理由は大きく二つある。
一つ目は、アトライブではデビューするまでライバーの情報をできる限り出さないというスタイルを取っていることだ。公開されるのはせいぜい姿や名前だけだ。つまり目玉である属性は初配信で初めて公開されるというわけで...
「こんなボクをみんなは受け入れてくれるのかなぁ...」
こんな考えになるわけである。一期生の先輩達は全員メジャーな属性だから、大衆向けといえる。でもボクはTS、比較的ニッチな属性だ。初配信に訪れる人の多くは先輩達のリスナーだ。その中には元男の女なんていう設定受け付けられない、なんて人もいるかも...
そして二つ目は、ボクがこの二期生デビューの大トリを飾ることになってしまったことだ。同期のみんなの配信も見たけど、みんなミス一つなく、とてもクオリティの高いものに仕上がっていた。その分ボクのハードルはぐんぐん上がっていく。しかも、基本的にリレー方式を取る初配信の場合、同時接続数は後になるにつれて増えていく。それすなわちボクの配信の同接が多くなるわけである。
「えっと同接は... 15000人!?こんな多い人の前で喋ったことないよー、ボクしんぢゃう
...って、あれ?なんかコメントが騒がしいような...」
:かわいい(かわいい)
:しなないで
:お、気づいたか?
:ミ ュ ー ト
「...え?」
血の気が引いていく。え、そんなまさかと思い、すぐさま確認する。するとそこにはしっかりと...ミュートoffの表示がされていた。
「ああ...終わった... きっと何か重要な機密をポロっと言っちゃってて今頃クビってメールが届いてるんだ...」
:やめないで
:大丈夫だ、重要そうなことは何もいってなかった
「ほ、ほんと?よかったぁ...」
ほっと胸を撫で下ろす。まあそれでも放送事故には変わらないんだけど。なんかショックが強すぎて逆に冷静になれた気がする。
「じゃあなんかグダグダだけど自己紹介とかやっていきます。本日から二期生として活動していきます、狛枝オトハです。ということでプロフィール出しますね」
プレゼンテーション形式で作ったプロフィールを画面に表示する。
:TS!?
:TSだと...
:ガタッ
:TSボクっ娘少ないからたすかる
「はい、そこに書いてある通りTS、つまり男から女に性転換してます。え、えっと、こんな声してて元男なんて気持ち悪いって思う人もいるかと思いますが...」
:は?そんなやつおるん?
:そもそもこんなにかわいい声で嫌いになるやついないだろ
:TSネガティブフードロリとかぶっ刺さるわ
:こんなにかわいい子が女の子のはずがない
よかった、悪印象を抱いた人はそこまでいないみたいだ。でもボクそんなに声かわいいかなあ。
「それで、年齢は17歳で、身長は138cm、体重は34kgです。」
:合法ロリ!...じゃない
:誕生日配信を楽しみに待つとしようぐへへ
:ちっちゃい
:ナニもちっちゃい
「...別に男なんで胸をとやかく言われても悲しくないですけどね」
そう言いながら送られてきた設定の文章をそのまま貼り付けたスライドを表示する。
:あっそういう
:これはディープな匂いがしますねぇ
:ゲーム配信とかするの?
「あ、はい、ゲーム配信は結構頻度高めでやっていこうと思ってます。腕は結構いいですよ?」
:どやかわいい
:これはわからせたい
:わからせられたい
:おまわりさんこっちです
「じゃあ自己紹介も終わったので次はタグとかファンネームとかいろいろ決めていきます。何かいい案あったらどんどんコメントに書き込んでください」
そう言って流れていくコメントを眺める。その中で気に入ったものを選んでいく。
「はい、じゃあ決まりましたー。配信タグは#引きこもり改善のお時間、ファンネームはカウンセラーで、ファンアートタグは#引きこもり観察スケッチ、え、えっと、センシティブなのは#引きこもり保健体育のお時間でいきます」
これで大体やることは終わったかな。じゃあそろそろ時間だし締めるか。
「次回はマシュマロ食べようと思っているので是非送ってみてください、それじゃあカウンセラーの皆さん、お、おつオトハ~」
:かわいい
:かわいい
:おつオトハー
今度こそマイクをしっかりオフにして配信終了画面を表示する。
はあ、やっと終わったー。最初にミュート芸をやらかして幸先悪かったけどそれからは何事もなくできてよかったな。まあ放送事故した時点でアウトなんだけど。そんなことを考えながらベッドに潜り、眠りについたのだった。
───
マシュマロの内容のネタが欲しいのでオトハくんに質問があれば是非コメントください助かります()
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