第5話 合格と変態
「ご、ごごごご、合格!?」
そのメールを見てボクは驚きと嬉しさのあまり思わず叫んでしまった。
あの面接の日から数日経った。面接直後は最後まで噛まずにできた!いけるんじゃないか?なんて考えていたけれど家に帰って冷静になったとき、あれ?それってマイナスがプラマイゼロになっただけでは?って気づいてしまった。
それからは毎日毎日もう不安でしかなかった。あの日の自信はもうどこかに消えてなくなってしまっていた。まあここで自信がついていたら物語が終わってしまうからそれはそれで問題なんだけど。
まあそんなこんながありましたけども、なんとか合格までこぎ着けた。全身から力が抜ける。おい瑠衣、まだここはスタート地点だぞ、なんて自分に呼び掛けたりもしたけどまだこの嬉しさに浸っていたい。
そういえばあそこで出会った変質者だけど、気持ち悪くて暴言吐いてたらいつの間にか大人しくしてくれていた。心なしかボクに従順だったような気がしたけど。まあきっとボクの言葉で目が覚めたんだろう。よかったよかった。
(詳しい要項などは後日また連絡が来るみたいだから、一先ずは安息が訪れたな。さて、何をしようかな。久しぶりにゆっくりスピナちゃんのアーカイブでも見ようかな...
ってスピナちゃんボクの先輩になるんだった!)
ボクの推しの棘宮スピナちゃん。もとはといえば彼女からの告知で思い立ったんじゃないか。
(そっか、ボクスピナちゃんの後輩になるのか...きっとリスナーだったら体験できないあれやこれやができるように... うぇへへ
まあうぇへへなことは置いておいて、他の先輩も見ておいたほうがいいか。ボクは箱推しじゃないから初配信やコラボくらいしか見てないしね。じゃあ切り抜きでも見漁るか)
ちょうど一つの動画が目に止まる。動画タイトルは「ジーク、またもや目覚める」ふむ、確か彼女、ジークリット・オーベルトは王子様キャラで活動していたはずだ。目覚めるっていうのは多分隠れていた才能が開花したとかかなあ。そんなことを考えながらもクリックして視聴する。
「実はまた新しい性癖に目覚めてしまってね」
そんな第一声を聞いたところで動画をストップする。
(あれ?おかしいな、王子様が絶対言わないような単語が聞こえた気がしたけど、聞き間違えかな?とりあえず続きを見るか)
「この度、ボクの性癖リストにドMが追加されました!パチパチ」
全然聞き間違えじゃなかった。ボクの中のカッコいいジーク像が崩れ去る。
(な、何でだ?いつからだ?前のコラボのときはこんな変態キャラじゃなかったはずなのに。っていうかこんなキャラ崩壊、リスナーからあまり良く思われないんじゃ?)
罵倒について熱く語るジークから逃げるようにコメント欄を見る。すると、
:また性癖増えたのかよw
:普段のイケメン王子も好きだけどこの変態王子も好き
:ジーク変態バレしてからめっちゃおもしろくなったよな
など、否定的どころか肯定的なコメントが多く見られる。うーん、普段のイケメンとのギャップが面白いって感じなのかなぁ。
「でだね、なんでボクがドMに目覚めたかと言うと、この前事務所でロリにあって、しかもその子自称男だったわけよ!リアル男の娘か!?って思って、あの、ちょっと、下品なんですが興奮してしまいまして、で、ドン引きされた時のあのゴミを見るような目とか、息をするように吐かれる毒に、ね?ああもう思い出すだけでも興奮するぅ!」
(んーと、なんだが滅茶苦茶心当たりのある話をし始めたんだけど。え、もしかしなくともあの時の変態ってまさかこいつか?
...確かにそれなら事務所にあんな変態がいたことも納得できるか。そう考えるともうあいつの無駄にいいイケボにしか聞こえなくなったな。確定か)
どうやらボクは変態に新たな性癖を追加してしまったらしい。なんでや!
ボクなんか身長低いし、別に顔も良いわけではないのに目覚めてしまうなんて相当変態レベル高いぞこいつ。
はぁー、とついため息をついてしまう。全然改心なんてしていなかったことに対する呆れやこんなやつの後輩やらなきゃいけないのか、といった思いが強すぎて逆に冷静になってしまった。普段はきっと先輩になる人にあんな暴言吐いてしまった...なんて考えるのかもしれないけどそんな思いは全く浮かんでこない。今はただ叫びたかった。
(いや普通に考えて王子様が性癖について熱弁してるのおかしいだろ!)
───
ちなみにジークはついに未成年に手を出したか、なんて意見でほんのちょっぴり燃えたが「スーツ着てたし合法でしょ」という彼女の一言で沈静化した。いや成人済みでも問題だからね!?しかもボク未成年だし!
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