第3話 最初の第一歩

(うう、もう着いてしまった...)


 アトライブ事務所の前、スーツに身を包んだボク、入江瑠衣は立っていた。ちなみに職探しのときに買った子供用()のものである。誰が小学生じゃ!

 髪は昨日よりも大分短くなったがまだ長めだ。ボクはせっかく切るんだったら少しでも男っぽくと思ってショートカットにしようとしたのだけれど、お母さんがその超絶キレイな髪をバッサリ切るなんて世界的損失だ、と喚いたからこうなった。


(ここまで来るときもなんか視線を感じたし、きっと周りから見たら変な見た目なんだろうなあ... もしかしたらこの見た目のせいでイメージが下がって面接に落ちる要因になるのかも... そもそも時間がなくて面接の対策とかもできなかったしそれ以前の問題か... やっぱりボクなんかがこんなことしても何にも良いことなんか起こらないんだ。むしろ迷惑を掛けちゃうからしないほうが良かったんだ。ああごめんなさい、ボクのせいでストレスが溜まる面接官さん、ボクのせいで一次選考に落ちてしまった人...)


 どんどん思考が悪い方向に向かっていっていたときだった。


「ねえ、ちょっと邪魔なんだけど」


「ぴいっ!?あっすみませんすみません!」


 突然話しかけられて飛び上がる。どうやら相手は事務所の人で、自分が邪魔で中に入れないことにイライラしてるようだった。


「ハァ... あなた事務所で見たことないし多分二期生の候補者でしょ?そんなこの世の終わりみたいな顔してたら面接に落ちるどころか事務所内の雰囲気も最悪になるから今すぐやめてくれる?」


「ごっごめんなさい許してください」


「ああごめん、言い方が悪かったわ。あのね、私はあなたに謝ってほしいわけじゃないの。もっと前向きになれって言ってんの。どうせ、絶対に面接落ちる~とか思ってたんでしょ?そんな微塵も、これからここでやっていくんだ!みたいな気持ちが感じられない人材を採用すると思う?そんな悪い未来を想像して落ち込むんじゃなくて明るい未来を想像して気分あげていかないと。面接落ちてもいいの?」


「明るい未来...」


(そうだ、ボクは面接を受けるために来たんじゃない、受かるためにここにきたんだ。無事に受かってVTuberになれたらどんなことをしよう。リスナーさん達と楽しく雑談して、同期の子や先輩とも仲良くなって、それでそれで...)


「うん、いい顔になったわね。あなた可愛いんだから二度とあんな顔しないでよね。面接終わった後もこうして落ち込んでたら許さないから。それが嫌なら自分でも高評価が出せて前向きになれる程の面接、やってきなさいよ!じゃあ私は急いでるからもう行くね」


 そういって彼女は速い足取りで事務所の中に入っていった。


(わざわざ忙しいのに勇気づけてくれるなんていい人だなあ。おかげでなんだかとってもうまくいきそう!それに可愛いだなんてお世辞も言

 ってもらっちゃった。まあボク男だしそこまで嬉しくはないけど)


 そんなことを考えながらボクも事務所の中へと足を進める。


(あれ、でもどこかで聞いた覚えがある声だったな。一体どこで聞いたんだろう...)


 ───


 ついに面接が始まる。緊張が高まり、心臓も高鳴る。この機会を逃したらもう二度と社会に復帰できないような気さえする。でも、不思議とリラックスできている。ああ、何か昔にもこんな感覚になったことがあった気が...

 いや、今は今のことに集中しよう。意を決してノックを三回する。


「どうぞ」


 さあ、室内への一歩を踏み出そう。ボクの人生を変える最初の第一歩を。

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