第2話 親との相談
「ん?一次選考通過のお知らせ?」
普段使わないメールアプリの溜まりに溜まった未読メールを整理しているとき、一通のメールが目に留まった。
「Attribute Live?... ってああ!?そうだ、どうせ受かってないと思ってたから忘れてた!え、本当に受かったの?」
未だに半信半疑の状態でメールの内容を確認する。
「えーと、二次選考は面接で... はぁ... 面接って苦手なんだよなあ... 会場は事務所内か、日程は... って明日じゃん!?」
多分ずっと前からメールは来ていたんだろう。しかし見るのが遅れてもう日程が明日に迫っていた。
(気づけて良かった... もしここで気づけてなかったらきっととんでもない迷惑をかけてたんだろうな... やっぱりボクってダメだなあ... というかなんでこんなボクが通過できたんだろう?ボイス動画も結構噛んじゃったし...
ってそんな場合じゃない!どんなことを面接で言おう?どんな服着ていけばいいんだろう?
いやその前にお父さんとお母さんに知らせなきゃじゃん!うー、いざ話すとなると緊張するな... いや、ボクはもう決めたんだ!)
決意を固め、リビングへ向かう。
「お、お母さん?」
「あら、珍しいじゃない。何かあった?」
「えっと、重要な相談があって...」
「まあ、とりあえず座って」
そう言われてお母さんの向かいに座る。胸の鼓動が高まっていく。
(ええい、当たって砕けろだ!そもそも親に隠れてなんてことはできるはずがないし無理だと言われたらしょうがない!)
「え、えっと、実はボクでもできそうな仕事が見つかって...」
「へえ、なんていう会社なの?」
「あ、Attribute Liveってところだけど」ガタッ
「...もう一回言ってくれる?」
「Attribute Liveってところ... その反応もしかして知ってるの?」
「ええ、知ってるわ。あのVTuber事務所で間違いないのよね?」
(お母さん、いつにもまして強い語気だ。やっぱり配信業なんて不安定な職にはついて欲しくないのかな。いや、ボクなんかがうまくやっていけるわけがないから諦めろってことかも...いずれにせよ、さよならボクの淡い希望、そして明るい未来...)
お母さんの質問に小さく頷いたあとにそんな思考を頭のなかに張り巡らす。今回こそはと期待ややる気を持っていた分、大きくなったショックにうちひしがれているとき、お母さんが喋り始めた。
「確か一次選考の締め切りはかなり前のことだし、今言ってくるってことはもちろん通過しているのよね?まあ瑠衣なら当たり前だけど」
「あ、あれ?ダメって言わないの?」
「え、そりゃそうじゃない。だって推しと我が子のてえてえが見れるのよ?そんなのダメって言えるほうがおかしいじゃない。ってあ、やば、妄想してたら鼻血でてきた」
「ええ... 」
否定の言葉に身構えていたの当たり前のように肯定されて困惑する。いや、どちらかというと早口オタクトークが原因かもしれない。ていうかお母さんアトライブのファンだったんだ...
「で、面接はいつなの?」
「あ、明日だけど」
「え、明日!?急いで身だしなみ整えないとじゃん!まさかそんな髪の毛で行くわけじゃないよね?」
「あっ」
そう、ボクの髪はずっと切っていないため途轍もなく長くなっていた。一応前髪は邪魔になったら自分で切っているが、それでも目はほとんど隠れてしまっていた。え?美容院には行かないのかって?ボクがあんなコミュ障の処刑場に行けるわけないだろ!
「でも、こうやって目が隠れていたほうが人とあんまり目を合わせなくて済むし...」
「何言ってるの、そういうところもイメージダウンに繋がるのよ?面接落ちてもいいの?」
(うぐぐ、確かにこれのせいで面接に落ちたら元も子もないな... ああ、今まで
「わ、分かったよ... 今から切っちゃうね」
「さ、分かったなら出かける準備しなさい」
「?????」
なんだかものすごーくいやな予感がする。まさかお母さんは例の処刑場でボクの髪を首ごとギロチンでスパッとKILLつもりなのか?
「うわあぁー、ボクは何もやってない!無実なんだ!だから死刑だけはダメー!」
「なにゴチャゴチャ言ってるの、さっさと着替えるわよ。あ、瑠衣に着せたい可愛い服があったんだったー♪」
「ちょ!お母さん!ボク男なんだから可愛い服はやめてー!」
そんなボクの悲痛な訴えはあえなく無視され、ボクはズルズルと引きずられてしまったのだった...
ちなみにお父さんはVTuberについてあまり知らず、大丈夫な仕事なのかと若干反対したが、お母さんのてえてえのマシンガン(トーク)であっという間にシールドも体力も尽き、ダウンしてしまった。多分今頃延々とアーカイブを視聴するという名のフィニッシャー入れられてるんじゃないかな。
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