13話。幼馴染がヘルメスの正体に勘付く

『ちょ、ちょっとレナ王女、何、私のヘルメス様とイイ感じになっているのよ!』


 そこにティアが口を挟んできた。


『ぐぅうううう、決めたわ! 私もこの秘密組織【ドラニクル】のメンバーになる。そして、ヘルメス様をお助けするのよ!』


 はぁ……っ? な、何を言っているんだティアは? 


『いえ、ティア様、それは……』

『ちょっと聖女様、何を勝手なことを騒いでいるんですか!?』

『そうですよ! レナ総司令のクリティオスを奪ったりして。あなたは私たちの邪魔をしただけでしょう!?』


 ティアの暴走に、作戦司令室の女の子たちが、一斉に反発した。


『な、なによ! 私はAランク冒険者の聖女なのよ!? 私が加われば戦力アップ間違い無しでしょ!? あなたたちなんかのよりも、私の方がずっとヘルメス様のお役に立てるんだから!』

『き、聞き捨てなりません! 私たちは厳しい選抜をくぐり抜けた【ドラニクル】のメンバーですよ!』


 ティアは昔から興奮すると周りが見えなくなるけど、これはマズイ。


「ティア! ティアを作戦司令室に招いたのは、あくまで緊急措置だ。本来、そこは部外者は立ち入り禁止だ」

『ヘルメス様、待ってください! 今回、私は失敗しちゃいましたけど、絶対にお役に立って……むぎゅ!?』

『申し訳ありませんが、ティア様。退場していただきます。それと今後、ここへは出入り禁止とさせていただきますわ』


 レナ王女の指示の元、【ドラニクル】のメンバーたちが、ティアを拘束した。


『ちょっと待って! まだ、ヘルメス様とお話が……!』

『空間転移、座標入力【ヴァレンヌの街】、起動!』


 ティアは空間転移の魔法で、俺のいるヴァレンヌの街まで送り返されてきた。

 ふう、これで一件落着だな。


「おおおおおっ! あのバケモンをやっつけちまったぞ!」

「強ぃいいい! カッコいい! ありがとうヘルメス様!」


 街の人々が俺に手を振って、感謝を述べた。


「みんな安心してくれ! この国は、俺が、機神ドラグーンが守る!」


 俺は本来、こんな熱血キャラではないが、みんなを安心させるために叫んだ。

 機神ドラグーンは王国軍所属。国民を安心させるのも、軍属としての任務の内だ。


「うぉおおおおおお!」


 とたんに、大地を揺るがすほどの熱狂が返ってきた。

 うわっ、ちょっとビックリしてしまうな。


「俺たちのヒーロー、ヘルメス様がいればこの国は安泰だ!」

「きゃあああああ! 素敵、ヘルメス様ぁあああ!」


 特に町娘たちの声援がすごくて、みんな目がハートになっている。


 さらに普段、俺をバカにしているロジャーやその腰巾着まで、『うぉおおお、ヘルメス様、カッコイイ!』『機神、マジ最強!』と大興奮していた。

 みんなにこれほど応援されると、ちょっと居たたまれないな。


「で、では、サラバだ……!」


 俺は機神ドラグーンを空へと飛び立たせる。海竜機リヴァイアサンもその後に続いた。


 みんなの注目が空に注がれた隙に、俺は空間転移で、人気のない路地裏に降り立つ。よし、誰にも見られていないな……

 俺はヘルメスの仮面とコートを外して、大通りに出た。


「あうぅううう! ヘルメス様がぁ……!?」


 すると、泣きながら機神ドラグーンを見送るティアがいた。


「あっ、ティア! 良かった無事だったか……?」

「はぁ!? ロイじゃないの、くっ、話しかけて来ないでよ! せっかくヘルメス様のお役に立てるチャンスだったのにぃいいい!?」


 ものすごく不機嫌な顔で睨みつけられた。

 ヘルメスに対する態度とはえらい違いだな。

 ……って、あれほど、ハッキリ別れを告げたのに、まだ諦めていないのか?


「そうだ! あんたレナ王女に私を【ドラニクル】に入れてもらるように頼んでちょうだいよ!」


「はぁっ!? いや、さすがにそんな無理は通せないと思うぞ。そもそも【ドラニクル】ってなんだ?」


 俺は正体を隠すために、すっとぼけた。


「機神ドラグーンの戦闘をサポートする秘密組織みたいよ! しかもメンバーは、全員美少女! くぅうううう! あ、あいつら、私のヘルメス様を誘惑する気だわ! 絶対に許せない!」

「いや、そんなことは無いと思うけど……それに、私のヘルメス様って……ヘルメスには婚約破棄されたんじゃないのか?」

「ぐぅううう! う、うるさい! あれは何かの間違いよ!」


 ティアは喚き散らした。


「だって、ヘルメス様は3回も私のピンチを救ってくれたのよ! きっと、何か事情があるのよ! そうよ、私とヘルメス様は4年前から運命の赤い糸で、結ばれているのよ!」

「3回? 4年前って……なにかあったけ?」


 そう言えば、とっさに魔物に襲われているティアを助けるために、変装してヘルメスを名乗ったことがあった。

 ……あれから、ティアはヘルメス一筋だったのか?


「それに、やっぱりヘルメス様は素敵だったわ! みんなを守るために、命がけで戦って! ああっ、ヘルメス様に抱かれたい!」

「い、いや、それは困るというか……」

「はぁ!? なんで、あんたが困るのよ! ……って、ふふーん、やっぱりあんたは、私に惚れている訳ね。でも、お生憎様、私の身も心もヘルメス様のものよ!」


 ティアはいじわるそうな目を向けてきた。

 ……うん。これは、早急にヘルメスとレナ王女との婚約を国中に発表すべきかもな。

 それで、完全にあきらめてもらおう。

 

「あぁああああっ! あんなスゴイ魔獣を倒しちゃうなんて、やっぱりヘルメス様は最高だわ! いつか絶対に私がヘルメス様と合体してやるんだから!」


 ティアの絶叫が街に轟いた。

 が、合体って……他人に聞かれたら誤解されそうなんで、やめて欲しい。

 俺はこの場から、離れようとした。

 そこで、ティアは驚愕に震える声をかけてきた。


「えっ、ロイ。あんた、いつの間に怪我をしたの? ?」

「へっ……?」


 俺はその時、初めて後頭部に痛みを感じた。

 魔獣ケルベロスの攻撃を受けた際の衝撃で、後頭部をコックピットシートにぶつけて怪我をしていたらしい。

 手で触れると血が流れている。今まで戦闘の興奮のせいで、気づかなかった。

 しまった……! ヘルメスの様子も作戦司令室のモニターに映像として流れていたんだ。


「こ、これはちょっと、そのあたりで転んで……」

「転ぶ? 転んでできるような箇所の怪我じゃないわ!? ちょっと、見せてみなさいよ!」


 まずい。


「いや、大丈夫だ! なんでもない。俺はこのあと、レナ王女と予定があるから!」

「はぁあああ!? ちょっと待ちなさい! 私の命令よ!」


 命令って、なんじゃそりゃ。 

 俺は慌てて、その場を逃げ出した。

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