3章。妹と合体する。風竜機神シルフィード
14話。幼馴染、ロイの正体を探ろうとする
【聖女ティア視点】
「……それで? 別れた男の様子が気になるから身辺を探って欲しいってか?」
「違うわ! ロイがヘルメス様ではないという確証を掴んで欲しいのよ!」
私は新しく雇ったAランク冒険者、レンジャーのランディと酒場で話をしていた。
レンジャーとは、索敵や偵察、罠解除などを専門にするサポート職業(クラス)よ。中には、探偵のマネごとをする人間もいるわ。
「……あいつが、ヘルメス様のハズは無いと思うけど、万が一ってことがあるからね」
ロイはヘルメス様と、まったく同じ箇所に怪我をしていた。
さらに、悔しいけどヘルメス様とレナ王女の婚約話が持ち上がっているのは、事実よ。
ロイはそのレナ王女から冒険者パーティに誘われて、イチャついていた。
……冷静になって考えてみると、怪しい。
レナ王女のヘルメス様への愛は、本物だと感じたわ。
ふたりが信頼し合っているのは、【竜融合(ドラゴニック・フュージョン)】に成功したことからも明らかだし……
そのレナ王女がヘルメス様以外の男と、あんなに親密そうにするのはおかしいわ。
そう思うと、気になって夜も眠れなくなってしまった。
だって、もしロイがヘルメス様だったら、そうとは知らずに私から振ってしまったことに……
そのことに思い至って血の気が引いた。
「まあ、ヘルメスについて直接調べるのは、王国政府に睨まれるから無理だけどな。ガキひとり監視するくらいなら、たやすいぜ。それにしても、そのロイってヤツはEランクの荷物持ちなんだろう? それが天下のヘルメスかも知れないって? 悪いが聖女様、いくらなんでも想像力をたくましくしすぎじゃねえか?」
ランディは呆れたように肩をすくめる。
彼は二十代後半のベテラン冒険者。言葉に説得力があった。
「私だって、そう思うわよ! でも現に有りえないことが起きてるし……」
自分をヘルメスだと名乗ったロイの顔を思い出す。アイツは無能だけど、少なくとも人を騙したりするようなヤツじゃないわ。
あの時は、なんて見え透いた嘘をつくのかと、激怒してしまったけど……
ヘルメス様からの婚約破棄は、ロイがヘルメス様だと考えれば、説明がつくのよ!
「それと【ドラニクル】のメンバーになる方法についても調べて欲しいの」
ヘルメス様ともう一度お会いするには、それしか無いわ。
そうすれば、私を悩ますこの疑問にも決着がつくハズよ。
なにより、あの憎っくきレナ王女から、ヘルメス様を奪い返してやるんだから。
「そりゃ、王国軍所属の秘密組織だろう? まぁ俺も多少、興味はあるが……危ねぇと感じたら俺は手を引くぜ。とりあえず、【ドラニクル】について、あんたが知っていることを全部話しな」
「わかったわ」
私はこの目で見てきたことを話した。
話しながら、レナ王女とヘルメス様が信頼しあっている姿を思い出して、どんどん悲しくなっていった。
「……この4年間、私はヘルメス様に認められるためにがんばってきたのよ。それなのに、突然の婚約破棄だなんて!」
私は頭をテーブルに打ち付けつけた。
何度思い出しても、胸が張り裂けそうになるわ。
「おいおい、聖女様だじょうぶか?」
「大丈夫じゃないわよ!」
思わずランディに対して、苛立ちをぶつけてしまう。
そこで、ランディは私をマジマジと見つめた。
「なぁ、確認しておきてぇんだが、あんたはAランク冒険者の聖女ティアだよな? 俺と組んで、ダンジョン攻略をやりたいんだよな?」
「はぁ? 何を、わかりきったことを聞いているのよ?」
私は面食らった。今さら、契約の確認?
私たちは、これからB級ダンジョンの攻略に向かう予定だった。
チャチャっと楽勝で終わらせてやるわ。
「俺は他人や魔物のステータスを見抜く魔法【アナライズ】を習得しているんだが……今のあんたのステータスは、Dランク冒険並みだ。その程度の力で、B級ダンジョンに潜ったりしたら、下手すりゃ死ぬぞ?」
ランディは真剣な眼差しで、私を睨んだ。
えっ……? 一瞬、何を言われたか、わからなかった。
「はぁっ? 何を言っているのよ。私のステータスがDランク冒険者並? そんな訳ないでしょ!」
私は憤然とテーブルを叩いた。
何よ、コイツ。こんなデタラメを言ってくるなんて、私をバカにしているの?
「特に体調は崩していないわ。Aランク冒険として、これまで余裕で数々のダンジョンをクリアしてきた私が、いきなり弱体化するなんて、あり得ないわよ!」
足手まといのロイを切り捨てて、むしろ私は以前より、活躍できるようになったハズ。
「……オーライ。じゃあ、ロイの調査報酬は一ヶ月分を、前金で一括で頼むぜ。クライアントがおっ死んじまったら、俺が困るんでな」
「はっ? 私がダンジョンで死ぬとでも言いたいの? 私はヘルメス様の婚約者に選ばれる程の聖女なのよ!」
「そのヘルメス様からあんたは婚約破棄されたんだろうが? ……はぁ、その理由がなんとなくわかったぜ」
なんですって?
「嫌なら、あんたからの依頼は一切受けられない。他を当たりな」
強気に出られて、私は押し黙った。
ロイの調査はなるべく早く行いたいわ。
他の高ランクレンジャーを探して交渉する時間が惜しかった。
コイツ、私の足元を見てるわね。嫌なヤツ……!
「ぐぅ! わかったわよ。その代わり、仕事はきっちりこなしなさいよ!」
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