4話。レナ王女に婚約して欲しいと言われる

「どうか、お願いしますロイ様! わたくしでは力不足かも知れませんが、お役に立てるように、精一杯、努めさせていたただきますわ!」

「えっ……!?」


 頭を下げるレナ王女に、俺は硬直した。

 レナ王女は歴としたこの国のお姫様でありながら、ソロで縦横無尽の活躍をするSランク冒険者だ。

 孤高にして至高の存在。すべての冒険者の憧れの的だった。


「……ちょ!? な、なぜ、よりにもよって、俺を誘うんですか!?」


 レナ王女とパーティーなど組んだら、悪目立ちしてしまうじゃないか。

 というより、もう取り返しがつかないレベルで、注目を集めてしまっている。


 噂好きの冒険者たちのことだ、今日中には街中に俺がレナ王女に勧誘されたことが広まっているだろう。


「コホン……それは、もちろん。ロイ様が、史上最強の荷物持ちだからですわ!」


 レナ王女は答えに困ったのか、咳払いして告げた。

 な、なんだ史上最強の荷物持ちというのは……


「じょ、冗談ですよね? 俺はEランク冒険者で、身分的にも実力的にも、とてもレナ王女のパートナーなど務まりません!」


 レナ王女は機神ドラグーンの開発、及び運用にも深く関わってもらっている。


 あまり表立ってレナ王女と親しくしたら、俺の正体が露見する危険があった。

 錬金術師ヘルメスには敵が多い以上、それは避けたいところなんだけど……ちゃんとわかってくれているのかな?


「そんなことはありませんわ。長らくお一人で、聖女ティア様のサポートをされてきたロイ様が、Eランクなどと不当な評価をされていることこそ、間違っているのです!」


 凛とした反論が返ってきた。

 やっぱり、この王女様はわかっていなさそうだった。


 好意的に解釈すれば、錬金術師ヘルメスではなく、荷物持ちのロイとしての俺を評価してくれているということか?

 だとしたら、ありがたいのだけど、やっぱり困る。


「おい、てめぇロイ! どういうこった!? なんでレナ様のような天上人と、お知り合いかつ勧誘されてんだ!?」

「アニキと俺に紹介しやがれ、こんちくしょうぉおおお!」

「ティアと一緒に、一度だけダンジョンで偶然お会いしたことがあるだけだよ!」

「そう、あの時はまさに運命の再会でしたね!」


 なんとか誤魔化そうとしたら、レナ王女が一言でぶち壊しにしてきた。

 どんどん酒場内の嫉妬のボルテージが高まるのを感じる。


「レナ王女は、ずっとソロ活動していたハズじゃないか!?」

「クソッ! なんで、よりにもよって【万年Eランク】のロイなんだ!?」


 何か詮索するような動きも始まっていた。これは、マズイな……


「す、すみません、レナ王女。ここでは人目がありますので、ちょっとこちらへ!」


 俺はレナ王女の手を引いて、無理やりに外に連れ出した。


「ああっ! ロイ様! そんな強引は困ります。いえ困らないのですが、困ります。まだ心の準備がぁ……」


 人気のない路地裏に連れ込むと、何やら姫様は顔を赤くしてモジモジしている。

 な、何を勘違いしているのだか……


「だめですよ、姫様。俺がヘルメスであることは秘密なんですから。何かご用命なら【クリティオス】の通話機能で連絡してください」

「申し訳ございません。ですが、ロイ様。機神ドラグーンは完成しました。【クリティオス・カスタム】の魔法増幅率も500%という驚異的数値を記録しています。もはや正体を公表しても、ロイ様を害そうとする者など、現れないのでは? いたとしても、ことごとく返り討ちにできますでしょう?」


 そういうことか。

 ちょっと前までは、俺も同じことを考えていたが、ドラゴンの襲撃を受けて考えが変わった。


「この前、俺の婚約者だったティアが襲われました。俺自身が狙われるのであれば問題ないのですが、俺を攻撃するためにティアや妹を人質に取られる危険があります。それだけは、絶対に避けねばなりません」


 妹は老男爵夫妻に預けられて、身分も貴族になっているので、そうそう俺の身内だとはバレないハズだけど……

 油断はできない。

 妹に、二度と怖い思いをさせるつもりはない。


 俺が錬金術を極める道を選んだのも、8年前の襲撃で不自由になってしまった妹の足を治すためだ。


「それなら大丈夫です! ロイ様とわたくしが婚約してしまえば、万事解決です!」


 頬を上気させて、王女様はうれしそうに宣言した。

 意味がわからず、俺は絶句してしまう。


「えっ? 一体、どういうことですか……?」

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