3話。レナ王女から冒険者パーティーに誘われる

「ヒャッハー! ロイ、てめぇ、とうとうティアから縁を切られたんだってな! ざまぁねぇぜ!」


 冒険者ギルドに併設された酒場で食事をしている時だった。先輩冒険者のロジャーが、俺に嘲笑を浴びせてきた。


「万年Eランクのクソ落ちこぼれが! ティアの幼馴染だってだけで、ティアと親しくしやがって! いい気味だぜぇ!」


 ロジャーの罵声に、酒場はどっと笑い声に包まれる。

 冒険者はその実力によってSからEの階級にランク付けされていた。

 俺は冒険者3年目にしてEランクと、落ちこぼれだった。ロジャーは冒険者5年目にしてCランクと、階級的には中堅だった。


「それがロジャーと、何の関係があるんだ……?」


 せっかく新しい魔導具の構想を練っていたのにな。邪魔しないで欲しい。


 俺は正体を隠すために、昼間は冒険者として活動している。その間にも錬金術の思索を続け、アイディアを閃いたら、夜には工房に戻ってそれを具現化していた。


 そのため他人からは、常にボーッとしている鈍臭いヤツだと、舐められてしまっている。

 正体を隠すにはちょうど良いんだけど……たまにロジャーのような手合いに絡まれるので困る。実力主義の冒険者は、弱い人間には冷淡だ。


「ぎゃははははっ! まあ、俺も悔しいが、ティアのお相手は【機神の錬金術師ヘルメス】だからな。俺たちとは、住む世界が違うってこったぜ」

「ヘイ、兄貴! この街を襲ったドラゴンを巨大兵器で瞬殺しちまったのには、痺れましたぜ」


 ロジャーの腰巾着の冒険者が合いの手を入れる。

 昨日のドラゴン襲撃から、ヘルメスには【機神の錬金術師】という二つ名がついた。

 それだけ機神ドラグーンが、人々に与えたインパクトは大きかったようだ。


「まったくだ! 俺のおふくろもあの場にいたが、ヘルメスが来なければ殺されていただろうからな。お前も運が悪りぃな、あの大英雄ヘルメスと比べられるなんざな!」


 そうか、ロジャーの母親もあの場にいて、助けることができたのか。それは良かったな。

 幸いなことにあの襲撃で死人は出なかったが、ドラゴンを召喚した術者、犯人は捕まっていなかった。

 それだけが、気がかりだな。


 ロジャーは俺の前に座ると、最新型タブレットの【クリティオス5】を見せびらかした。


「それより、お前、まだ初期型【クリティオス】を使ってやがるのか? 俺様はとうとう、最新型を買ったぜ! どうだ、すげぇーだろ!?」

「はぁ……」


 別にうらやましくはないので、気のない返事をしてしまう。


「兄貴、聖女にくっついていただけの貧乏人に、そいつは酷ってモンでしょう?」


 腰巾着が爆笑した。

 ティアと俺の分け前が9対1だったのは、有名な話だ。

 だから、他の冒険者は俺が貧乏人だと思い込んでいる。


「……万年金欠なのは間違いないな」


 俺が【クリティオス5】をはじめとした発明品を売って得た利益は、8年前に別れた妹の引き取り先に預けてある。


 その総額は国家予算にも匹敵する。それらのほぼすべてを錬金術の研究資金に投じていた。オリハルコンなどの希少金属、希少素材を入手するためだ。

 そのため、手元で使えるお金はほぼ無かった。


「ハッ! だが商売道具に金をかけねぇようじゃ。いつまで経っても成功しねぇぞ? どうだ、俺様が信頼できる金貸しを紹介してやろうじゃねか?」


 ニヤニヤとロジャーは下卑た笑みを浮かべる。

 どうやら、俺をカモにする気みたいだ。


「俺は荷物持ちでパーティーに貢献するから、スタッフにお金をかけるつもりはないんだ。話がそれだけなら、もう帰るぞ」


 俺は話を打ち切るために、席を立とうとした。

 新しいパーティーメンバーを探すために、冒険者ギルドを訪れたけど、俺とパーティーを組んでくれる冒険者は誰もいなかった。


 【万年Eランク】のロイという悪いあだ名に加えて、ティアから追放されたせいで、すっかり使えないヤツだと思われてしまっているらしい。

 はぁ、仕方がない。別の街に拠点を移して、そっちの冒険者ギルドに当たってみようかな……


「ひゃはははは! 荷物持ちだと!? 戦力にならねぇようなヤツに分け前をやる慈善事業家がいると思うかよ? 素直に俺様から金を借りて、ヘルメスの最新型スタッフを買った方が利口だぜ?」


 だが、ロジャーが行く手を遮って、借金を勧めてきた。


「いや、別に【クリティオス5】なんて、欲しくないんだって」

「はぁ? 負け惜しみもそこまで行くと立派だな! そんな旧式で、他のライバルに勝てると思ってやがるのかよ?」

「アニキ、こいつは正真正銘のアホでさぁ!」


 ゲラゲラとロジャーたちが、俺を見下して爆笑する。

 同じ魔物討伐クエストなどを受けた場合、冒険者同士で競争になる。無論、失敗したり、ライバルに出し抜かれたりすれば報酬はゼロだ。

 魔法の威力を高めるスタッフは、用意できる最高のものにしなくてはならないのが常識だった。


「……はぁ、困ったな」


 正体の偽装のために、【クリティオス5】を手元にひとつ置いておくのも、悪くないかも知れないな。

 変に絡まれるリスクも減らせるだろうし……

 そんなことを考えている時だった。


「ああっ、良かった! こちらにいらしたのですね、ロイ様!」


 入口から鈴を振るような少女の美声が響いた。

 見れば、絢爛豪華な鎧に身を包んだ美少女が入ってきた。砂金のようにきらめく金髪をなびかせて歩く様は、場違いなほどの気品に満ちている。

 酒場にいた冒険者たちは、彼女の放つ圧倒的なまでの美しさに言葉を失った。


「あ、あの鎧と、美しさ! ま、まままさか【氷の姫騎士】レナ第2王女殿下か!?」

「たまげたぜ。あれが錬金術師ヘルメスの造ったっていう最強防具【ディストーション・アーマー】か!? すごい魔力を感じるぞ!」


 酒場は一気に騒然となった。

 レナ王女の鎧は錬金術師ヘルメスによって造られた特注品で、鎧の下半身部分はミニスカート状になっている。華やかな王女の容姿をさらに引き立てるドレスのような装いで、俺の自信作でもあった。


「ロイ様はフリーになったとお聞きしました。ぜひ、わたくしとパーティーを組んでくださいませ!」


 レナ王女の爆弾発言に、酒場に衝撃が走った。


「はぁ!? Sランク冒険者のレナ様が、ロイをパーティーに勧誘だとぉ……!?」


 ロジャーが目を剥いた。

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