ペーパー・テイスト

 問題用紙、解答用紙が配られる……、しーん、とした静寂、教室内の緊張感。


 頭の中に溜めておいた数字や言葉が出ていかないように、必死に押さえる……イメージをすれば、大きな貯水タンクの横に空いた穴を、手で塞ぐ感じである……。時間が経てば経つほどに横の穴は増えていき、漏れる水も増えていく……、足下は水溜まりだらけだ。

 だけど、それならまだ拾える。


 側溝に流れてしまえばお終いだ……、せっかく覚えた単語が完全に消え去る。


 どうしたって拾えない――思い出せない。


 そうなる前に……早く時間よ、こい!


 早く『始め』と言ってくださいよ、先生ぇっ!!



「――よし、始め」


 先生の号令がかかり、ここでやっと問題用紙を開くことができる――ようし!


 ペンを持ち、いざ、テスト開始である――。




「えーと、『問一』……」


 覚える方法として、印象に残るようにするといい、とアドバイスを貰ったことがある……、たとえば逆立ちをしながら勉強してみたり、覚える文章を歌にしてみたり、単語は語呂合わせ――大きな声を出すなど。


 中でも私に合っていたのは、声に出して勉強することだ。


 このやり方だとすぐに覚え、長く記憶することができる……。


 ただ、当時の状況で覚えているので、思い出す時も『覚えた時の状況』を再現しないといけないのが難点なんだけど――つまり、声を出す必要がある。


 テスト中に声を出すことはもちろん禁止されているので、小さな声で……――よし、これくらいの声量でも大丈夫だ、思い出せる……じゃあ『問二』は――。



『問六』……これはちょっと、難しいな……なんだったっけ?

 記憶を引っ張り出せ、覚える時はもっと声を出してて――。



 よしよし、テストも終盤である。次に『問九』を――。


 記憶から引っ張り出してきた答えを記入し、ふう、と息を吐く――すると、


「おい、白船しらふね


「はい?」


 と、テスト中でありながら、先生が私に声をかけてきた……、あれ?

 消しゴムでも落とした? ペン? でも机の上にあるし……じゃあなんだろう……?


 思わず返事をしちゃったけど、いいんだよね……?



「なんですか、先生?」

「お前、うるさい。テスト中に叫ぶな、カンニングとして処理するぞ」


「えぇ!? うるさいって……あれ、声、大きかったですか……?」


「ああ、教室全体に響いてんだよ。問題文ならまだしも、でかい声で答えを言うんじゃない。他の人の邪魔になるだろ。妨害行為は赤点にするからな」


「ちょっ!? それはあんまりですよ先生!! 私にそんなつもりは……――そ、それに先生、安心してくださいよ、答えを言っていたのだとしても、どうせ合っていないでしょうし……」


「――ぜんぶ合ってるから言ってんだよッッ!!」



クラスメイト一同「(あ、合ってるんだ……)」



 至近距離で、ぐわー、と怒声を浴びせられたので、耳がきんきんしている……この人怖いよぉ……でもまあ、合っているなら、いっか……。自分で答え合わせをする必要もないかな。


 必死に勉強をしたおかげだ……努力が報われるって、気ん持ちいいっっ!!



「…………あれ?」


 みんな、消しゴムを使ってるけど……?


 その後、一斉にペンが動き出して……?


 答えを書き換えてる?


 なんで? 急に?

 なにか引っ掛け問題でもあったっけっっ??




 その後、テストの平均点がめちゃくちゃ高かったことを報告します。

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