郵便ポストの日々

@amethustos

郵便ポストの日々

1994年 4月 17日(木) 朝7時過ぎ


京都の上京区にある郵便ポストに1通の手紙が入った。今朝一番の手紙だ。

上京区のポストドワーフ、ポッチはその音で目が覚めた。

おそらく、出勤前に出されたその手紙は、京都の稲葉さんから静岡の中島さん宛のものだった。きっと、中学時代の友人への手紙だろう。

ポッチは、封を開けなくても、その手紙が醸し出す雰囲気で何が書かれているのか分かるのだった。


ポストドワーフは、ポストの守護神として、ポストに住んでいる小人だ。そのポストに入れられた郵便物がまとう空気を体の中に取り込んで暮らしている。


ポッチは3年前から、この上京区のポストに住んでいる。上京区は民家が多いので、1日に何通もの郵便物がポストに入れられる。


はっくちゅん!

ポッチがくしゃみをした。

そう、ポッチは花粉症なのだ。だからこの季節はつらい。ポストの口が開き、郵便物が入るたびにはっくちゅん!

ポッチは、稲葉さんが投函した手紙を恨めしそうに見た。

でも、その手紙の内容は心が温まるものだった。

稲葉さんが新入社員として、就職した出版社の和気あいあいとした毎日、中学時代の思い出が綴られており、「お前に会いたいよ〜!」という言葉で締めくくられていた。

ポッチは、人生に別れはつきものだけれど、その別れを繋ぎとめるのが手紙だなと、じんわりした気持ちになった。

そして無事に届きますようにとぎゅっと目を瞑った。




2002年 8月 19日(火) 10時頃


ポッチが今日も暑いな〜とうちわであおいでいると、夏の空に合うスカイブルーカラーの封筒が投函された。

田中まい。

ドイツへのAIRMAILだ。

田中まいは、1年に2、3回ほどドイツへ手紙を出す。文通友達だろう。


え〜っと、I went to… ふんふん。今年は友達とキャンプに行ったみたい。去年は北海道へ行ってたな〜。

そして、「私は学校では、友達は少ないけど、ドイツに文通友達がいることがとても嬉しいです。大人になったら、ドイツへ行ってアンナに会いたいです。」と締めくくられていた。

ポッチは、スカイブルーの封筒をそっとなでた。

外国への手紙は、空を飛び、海を渡る。

そんな大旅行をするまいちゃんの手紙が無事に届きますようにと願った。




2010年 10月 28日(土) 夕方4時半


ポッチが今日投函された郵便物の数を数えていると、投函口からごそごそ音が聞こえた。

見上げると、少し分厚いレターパックがのぞいていた。

そこに可愛らしい女の子の声。

「う〜ん入るかな〜。お母さん入れすぎだよ〜」

ちょっと困ってるみたい。

そこでポッチは手を伸ばして、そのレターパックを引っ張った。

そしたらキュッと中に入った。

「よかった!入った!」と外から嬉しそうな声。

ぽっちもひと安心。


中はなんだろう。

おや、誕生日プレゼントかな。

長期休みにしか会いに行けない遠くに住んでいるおじいちゃんへの誕生日プレゼントだった。

ちょっぴり高級そうなマフラーにお菓子。あと、あの女の子からおじいちゃんへの手紙。

おじいちゃんは71歳になるそうだ。

おじいちゃん、喜ぶだろうな。

郵便屋さん、無事に届けてねとポッチは思った。




2017年 12月 27日(水)


年末は忙しい。

郵便物が少なくなった近頃でも年末だけは朝からたくさんの年賀状が投函される。


ポッチも郵便屋さんが取り出しやすいようにきれいに並べるのに忙しくしている。

忙しいけど、ポッチはこの仕事が大好きだ。

年賀状は人と人とを繋ぐ。普段手紙を出さない人も出す。

投函された年賀状を見て、遠く離れていてもみんな繋がっているのだなとポッチは毎年思う。

末永く、この関係が続いて欲しい。

それが、ポッチの願いだ。



 


 

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