第7話 訪問


「お邪魔します」


 ズガズガとギャル三人組は遠慮なく俺の家に入った。

 学校の最寄駅から三駅で着く場所であり、住宅街の片隅にある一軒家が俺の家だ。


「へー。子豚の割にはいい家に住んでいるんだね。親、金持ち?」


「いえ、普通だと思います」


 俺の部屋に入ると断りもなくいきなりベッドに座り込む。

 そしてお菓子まで広げてパーティー状態だ。


「ほえー本棚すご。漫画何冊あるのよ」と花岡は俺の部屋を見渡す。


「千冊くらいはあると思います」


「オタクじゃん」


「普通かと思いますが」


 オタクはオタクと認めない傾向があるが、俺もその部類なのかもしれない。


「ゲームもいっぱいある。何、これ面白いの?」


「エロ本とかあるのかな。定番のベッドの下にあったりして」


 三人はそれぞれ俺の部屋を物色する。遠慮の無さがむしろ清々しいほどに。


「ちょ、無闇に触らないでください。ゲームも漫画も好きにしていいですから」


 俺がいなくても三人はそれぞれ興味を持って楽しんでいた。漫画をペラペラめくるだけで大人しくなる。

 女子高生が俺の部屋で自由に伸び伸びする姿は絵になるが、俺はどこか取り残された気がした。完全に溜まり場状態だ。思い思いの過ごし方をしてしばらく経った時だ。


「んー。雅。今、何時?」と黒川は面倒そうに聞いた。


「十二時過ぎたくらい?」


「お昼だね」


「うん。お腹空いた」


 お菓子をボリボリ食べながら黒川と花岡は会話する。

 お菓子を食べても空腹は収まらないと言うわけか。

 女子高生はあまり食べないと言うのは嘘かもしれない。それでも痩せているので運動や食事制限はしているのかもしれない。俺には無理な話だ。


「ねぇ、子豚ちゃん。何か食べるものないの?」


「食べるものって言われても……モグモグ」


「てか、あんた一人だけ何を食べているのよ」


「弁当ですけど?」


「一人だけズルい!」


「これは元々学校で食べるはずだったものです。皆、持ってきていなかったんですか?」


 誰も持ってきていない。適当に購買で済ませるつもりだったらしい。

 だったら何故、コンビニでお菓子を買ったついでに弁当を買わなかったのだろうか。

 それとも最初から俺の家にあるものをアテにしていたのかもしれない。


「何かあったかな? カップ麺やそうめんならあると思いますけど、どうしますか?」


「何でもいいよ。適当にカップ麺、三つ作っといてくれる?」


「分かりました」


 俺は戸棚にあったカップ麺を三つ、お湯を注いで部屋に戻る。

 ラーメン、焼きそば、うどんというラインナップを三人に出した途端である。


「私、焼きそばかな」


「えー私も焼きそばが良かったのに」


「紅葉も? はーじゃんけんしますか」


「あの、私も実は焼きそばがいい」と黒川は後から申し訳なさそうに言う。


 少し喧嘩になったが、じゃんけんにより分配が決まった。


「やった。私、焼きそば」と花岡は喜ぶ。


「ラーメンか。まぁ、いいけど」と葛城は渋々とラーメンを啜る。


「私、カップのうどん初めてかも」と黒川は未知の味を楽しむ。


 文句や喧嘩もあるが、この三人はなんだかんだ仲はいいのかもしれない。

 それから昼寝をしたりゲームをしたり漫画を読んだり、それぞれやりたいことを堪能する。グータラな時間が流れる。


「まだ十四時前か。時間経つの遅く感じる」


 現状に飽きたのか、葛城はボヤいた。


「そうだね。今頃、午後の授業で居眠りしている頃かな」


「確かに紅葉はいつも午後は寝ているよね。でも暇だね。何かゲームでもしようよ。皆で盛り上がれるようなやつ」


「皆で……か。何をしようか」と、三人は悩む。


 悩むとこの三人はなかなか決まらない。その時間が勿体なくもあるとは言えない。


「そうだ。せっかく下平がいることだし、それにちなんだ遊びをしようか」と、閃いたように花岡は立ち上がる。


「虐めちゃう?」


「そうしよう。なんでそんな単純なことに頭が回らなかったんだろう」


 唐突に三人の視線は俺に集中する。虐めてやるという圧が凄い。

 また目をつけられてしまった。今度は一体何をされるのだろうか。

 ここは俺の部屋なので逃げることはできない。受け入れることしか許されなかった。


「ちょ、変なことはやめて下さいよ?」


「子豚ちゃんに拒否権はありません。何でも受け入れるしかないんだよ?」


 ニコニコと花岡は笑顔で毒舌を吐く。相変わらず言葉と顔のバランスが合っていない。


「じゃ、若菜が決めてよ。何か悪い考えがあるんでしょ?」と黒川は期待を込めて言う。


「ならとっておきのやつをやろうか」


「とっておき?」


「ふふ。誰が一番最初に子豚のあそこをイかせられるかってゲームをしない?」


「それ、いいかも」


「へー面白い」


 ニヤニヤと三人組は俺の股間に目を向けた。葛城は何を言っているのだろうか。

何やら不穏はゲームが始まろうとしていた。いや、これはもしかして新たなご褒美なのでは?

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