第5話 脱出


「よっと! ほら。あんたもよじ登りなよ」


ギャル三人組は校門を軽々と飛び越えた。ハードルを飛ぶように軽々と。

元から運動神経がいいことと身体が軽いことでこの手の壁は造作もないのだろう。

それに対して俺は正反対である。


「無理だよ。届かないし」


カバンは上から放り投げることはできるが、俺の体重と身長では校門の壁を突破するのは難しい。


「はぁ。これだから子豚は世話が焼ける。雅。手を貸してあげなよ」


「仕方ないなぁ」


 葛城に頼まれた黒川は校門の外から手を伸ばす。


「ありがとう」


 黒川の手を掴むがなかなか持ち上がらない。


「重っ! どんだけデブなんだよ。あんた」


「そ、そんなこと言われたって」


「ちょ、私だけじゃ無理。紅葉も手を貸して」


「えー。そんなに?」


 女子高生二人掛かりで俺を引っ張り上げようと悪戦苦闘している時である。


「お前たち! そこで何をしている!」


 不運にも体育教師の鬼瓦おにがわらに見つかってしまった。

 鬼瓦は生活指導も兼ねているため、学校を抜け出すことが発覚すれば生徒指導室に連れて行かれて反省文を書かされる。そのことから一番相手にしたくない教師として知られている。

 現行犯で捕まれば反省文どころでは済まない。

 ギャル三人組に巻き込まれたとはいえ、俺の評価は一気にガタ落ちだ。


「そこを動くなよ! 今行くからな!」


 鬼瓦は全力で走った。

 ヤバい。このままでは俺の人生が終わる。


「もう! 何をやっているのよ」


 なかなか引っ張りあげられない姿を見かねたのか、葛城も加わって俺の手を引っ張る。


「ぐっ! 重い。せーので引っ張り上げるよ。せーの!」


 三人の力が一つになったことで俺の身体は校門の外へ引っ張られる。


「よし! 走るよ!」


「え。走れないよ」


「ったく! 最後まで世話が焼けるんだから」


 俺は花岡に手を引かれて全速力で走り抜けた。

 鬼瓦から逃れることに成功したのだ。

 もう追ってこれない場所まで逃げてようやく立ち止まった。


「ふぅ。ギリギリだったね」


「本当。ヒヤヒヤしたよ。あの場で鬼瓦に捕まっていたら面倒だからね」


「てか。私たちだけならその心配はそもそもなかったんじゃないかな?」


「ゼーゼー。はーはー。し、死ぬぅ。へ?」


 ギャル三人から熱い目線を感じてようやく俺は我に返る。


「そうだよ。こいつさえいなかったら余裕で逃げてられたのに」


「てか、重すぎるんだよ。テメェ。少しは痩せろよ、デブ」


「手間かけさせやがって。足引っ張るんじゃねぇよ」


 唐突に俺は罵倒させた。

 そもそも俺を連れ出したのは君たちだよね?

 何故、俺のせいされているのだろうか。その辺の常識はギャルには通用しないのかもしれない。


「まぁ、何はともあれ」


「うん」


「脱出成功! やったー!」


 ギャル三人組は学校を抜け出してサボったことに喜びを分かち合う。

 そこまで嬉しいことか?

 そういえばこの三人は遅刻することはしょっちゅうあるが、学校にはちゃんと来ている。授業は聞いていないことがほとんどで抜け出すこともあるが、ちゃんと学校にはいる。不真面目に見えるが、学校を抜け出してサボるのは今回が初めてだったのだろう。


「あ、あの……」


「なんだよ。子豚」と、葛城は睨むように聞き返す。


「あ、いや。学校を抜け出してサボるのはいいんですけど、この後どうするんですか?」


 そう言うと、三人は顔を合わす。


「うーん。結局、どうするの?」


「どうしよう。何も考えていなかった」


「家に帰るのは違う気がするよね」


 こいつらわざわざ学校まで抜け出して目的があるのかと思っていたが、全く何も考えていなかったようだ。


「何もないなら俺はこの辺で。じゃ、そういうことで」


 そう言うと三人の手が俺の肩と首を掴んで静止させた。


「え? 何、帰ろうとしているの?」


「帰さないけど?」


「お前も何をするか考えろよ」


 で、ですよねー。

 俺を連れ出した意味すら全くなくてただ巻き込みたい精神だけで俺は学校をサボってしまったらしい。

 俺、これからどうなってしまうのだろうか。

 俺はギャル三人組の手の上で転がることを強いられた。

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