第4話 サボりたい
「キャハハハ! 何、それ。超ウケるだけど」
「ねぇ、ねぇ、その後どうなったの?」
「ここから更に凄くてね。実は……」
現在、数学の授業中だ。
授業にお構いなしで美少女ギャル三人組は自分たちの会話で盛り上がっている。
その三人の席は最後尾。俺はその一つ前の席で身を縮めていた。
誰も注意する者はいない。
教師もいないものと判断するように授業を続けているのだ。
つまり、この三人に関わり合いたくない者しかこの教室にはいないと捉えることができる。
真後ろから馬鹿笑いが耳に響くので教師の声は全く届かない。
まぁ、届いたところで理解できないので意味がないと言えばそれまでだ。
「ひっ!」
俺は唐突の衝撃に背筋が伸びる。
ガンッとお尻の下を蹴られたのだ。その犯人は見るまでもない。
「キャハハハ。なに、こいつ。ひっ! だって」
俺の反応を嘲笑うように両サイドにいる
「へーおもろ。私もやりたい。あ、でも届かないや」
花岡はお喋りをするが、授業中に席を立たない精神を見せる。
「じゃ、これはどう?」
黒川は下敷きを取り出して俺に向かって煽いだ。
「あははは。下平の周りだけ突風が吹いているんだけど!」
嫌がらせをしているつもりかもしれないが、ちょうど暑かったところなのでむしろ感謝したいくらいだ。まるで王様の気分になったように快適だった。
髪がなびく姿が面白かったのか、黒川はしばらく俺を煽いでくれた。
「えい!」
花岡は俺に向かって何か投げた。
ノートの切れ端を丸めたものだ。虐めの古典的な仕打ちだ。
切れ端を広げて見ると『子豚ちゃん』と悪口が書かれている。
無視をしたら連続でも切れ端をぶつけられた。そこまで痛くないからいいのだが、何がしたいのか疑問である。
「はぁ、なんかかったるいなぁ」と、葛城はぼやく。
「確かに。授業つまらないし」
「言えている! あくびしか出ないよ」
黒川と花岡もそのぼやきに反応する。
小声で言うなら分かるが、普通の音量で言ってしまうのがギャルならではのものだ。
数学の教師はイライラする反応を見せるが、三人に注意することはない。
それでも授業を続けるあたり、鋼の精神を持っている。
大体、遅刻してきて何を言っているのか分からない。
授業くらい真面目に受けてほしいが、ギャルだからと諦めるほかないのだろう。
「んー一層、このままサボっちゃう?」
「あーいいかも。まだ昼前だけど」
「でも、サボってどうする? どこか行く場所ある?」
「んーこの時間から遊ぶとなると中途半端だね」
え? 学校サボって遊びに行こうとしている?
俺としては考えられない。そもそもサボると言う発想すら出てこない。
それなのにこいつらときたら平気でサボろうとするのだからある意味関心する。
「おい! 何、盗み聞きしているんだよ」
ガンッと葛城はまたしても俺のお尻の裏を蹴る。
無意識に身体が後ろに傾いていたかもしれない。だからと言って盗み聞きではなく聞こえてしまうの勘違いでは?
「無視しやがって」
諦めたかと思ったが、背中に何か触れる感覚がした。
葛城は俺の背中に何か文字を書いている。
お・ま・え・も・さ・ぼ・れ
俺は思わず後ろを振り向いた。
「分かったか。下平」
「俺も一緒に学校をサボれってことですか?」
「そういうこと。返事は?」
そう言った葛城は更にお尻の下を蹴る。
「わ、わかりました」
「ふふーん。よろしい」
断る権利なんて最初からなかった。
葛城は俺も学校をサボることを強要した。
そこで授業が終わる知らせのチャイムが鳴った。
「お、ちょうどいいタイミング。よし、このまま帰っちゃおう。雅、紅葉。行こうよ」
「そうだね。今日は気分乗らないし」
「私も二人に賛成。サボり最高!」
「そういう訳だから子豚ちゃんもサボるよね?」
「は、はい」
こうして俺は何故かギャル三人組に強要される形で無理やり学校をサボることになる。
まだ明るい時間に帰ることになり、少し新鮮さを覚える。
一人だったらまずサボるなんて考えに至らなかった。
この機会に人生一回くらい学校を抜け出してサボってもいいのではなかろうか。
ギャル三人組がその機会を与えてくれたとポジティブに捉えたらなんてこともない。
俺はただ巻き込まれた被害者。と言う口実が出来たのでむしろ良かったかもしれない。
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