第18話 メリーインディゴ
「君にはあっしと契約して魔法少女になってもらうでやんす!」
ヒコから放たれたその言葉にアオイは戸惑ってしまう。そして近くにいるメリーガーネットを見る。
「あたしが魔法少女に……?」
「ちょっとヒコ、それって……っ!」
メリーガーネットがヒコの発した台詞について問いただそうとしたその瞬間、横からカンガルー型の天使が突撃してくる。彼女はそれを慌てて避ける。
「やっぱり獣型はタフね」
天使には大まかな分類がある。獣型、魚型、人型、蟲型、鳥型、霊型、そして無型だ。それぞれの天使に特徴があって、獣型には打たれ強いものが多い。
「いくわよ! ガーネットローズ!」
蔓を発生させてカンガルー型の天使の動きを止めにかかる。足元に蔓が絡まり、動き出そうとした天使の出鼻をくじく。
「Ziiiii‼」
絡まった蔓をほどこうとしてジタバタとその場で暴れる天使。脚力の強さから地面が揺れる。
「は、早くあっしと契約するでやんす!」
普段、戦闘時は安全な場所に隠れているヒコにとって天使が暴れているのは精神的に良く無いようでアオイに契約を促す。
「でも魔法少女って……」
「あいつらはこの世界を破壊しようとしている天使! それを倒せるのは魔法少女だけなんでやんす!」
ヒコは慌てながらも説明する。
「天使……? 倒せるのは魔法少女だけ……」
ヒコから言われた言葉をゆっくりと呑み込むアオイ。その間もメリーガーネットと天使との戦いは続いている。お互いに一進一退の攻防が続いている。パワータイプのカンガルー型の天使と必殺技以外はアシスト向きのメリーガーネット。
「そうでやんす! そして君には天使を倒せる力があるでやんす」
アオイは考える。天使と呼ばれる存在が街や人々に危害を加えているのは身をもって実感した。その天使たちを倒す力が手に入るなら契約をした方が良いのではないかと。
「(弥勒くん……)」
もし力が手に入れば公園に一人残った彼を助けられるかもしない。その思いが彼女をつき動かす。
「……なるよ。あたし、魔法少女になる!」
強い気持ちをもって答えを口にするアオイ。その言葉にヒコが喜ぶ。
「ありがとうでやんす! いくでやんす! 一名様、魔法少女にごあんなーい!!」
ヒコのふざけた台詞と共にハート形のサングラスがピカーっと光る。そこから光線が出てアオイの左手の人差し指を照らす。するとそこに指輪が出現する。青色でメタリックな500円くらいで売ってそうな指輪だ。
「なにその居酒屋みたいな掛け声⁉ ワタシの時もそんな感じだったの⁉」
天使と戦いながらもこちら側の様子を気にしていたメリーガーネットは思わずツッコミを入れる。彼女は寝ている間に勝手にヒコに契約をされていたから契約の仕方を知らなかったのだ。
「神聖な契約でやんす! クレームは受け付けないでやんす!」
メリーガーネットからの言葉に反論するヒコ。サングラスをクイッと上げながらキメ顔でそう言っている。
「さぁ指輪にキスをして変身するでやんす!」
「う、うん……分かった」
アオイは戸惑いながらも言われた通りに指輪にキスをする。
「メランコリー! ハートチャージ! (く、口が勝手に⁉)」
自然と口から言葉が出たことに驚くアオイ。メリーガーネットはそれを温かい目で見守っている。彼女も通った道なのだ。今では変身にも慣れて恥ずかしさは多少緩和されたようだが。
アオイの動きに合わせて指輪が発光し全身が光に包まれる。周りには青い花びらのようなエフェクトが発生し、髪が少し伸び、後ろでまとめられてお団子ヘアへと変化する。髪の色は青くなり、瞳の色も濃紺へと変わる。そしてメイクが自動で施される。
当然、衣装も制服から変化していく。まずは両手に黒い手袋が現れる。足には黒いロングブーツが装着される。デザインはメリーガーネットと比べてややスポーツテイストとなっている。黒とインディゴを基本配色としたフリフリの衣装が身体に装着される。最後に胸元に大きなインディゴライトが出現する。
「勇気の輝きは全ての活力! メリーインディゴ!」
右手を上に挙げてそう叫ぶ巴アオイ、もといメリーインディゴ。普段の彼女からも明るさが滲み出ていたが、今はそれが溢れ出ている。
「で、ここからどうすればいいの?」
流れに身を任せてポーズまでしたのは良いものの、戦い方を知らない彼女は首を捻る。
「強化したい場所を念じれば魔力が込められるわ! あとはインスピレーションで乗り切って!」
「気合いを入れれば大丈夫でやんす!」
あまり教えることに向いていない二人からのアドバイスを受けて、とりあえず右拳に力を入れてみるメリーインディゴ。
「おぉー!」
すると実際に拳が少しだけ黒く輝く。それを見て感動するメリーインディゴ。そのまま左手や足に順番に力を入れて確認していく。そしてその場でトントンと軽く跳ねる。
「うん、だいたい分かった!」
運動部として普段から身体を動かしているからか、彼女自身のセンスの賜物なのか。あっという間に魔力運用のコツを掴んだようだ。
「ふっ!」
足に魔力を溜めてから一瞬で加速するメリーインディゴ。メリーガーネットと戦っていた天使に近づくと、その脇を狙って拳を放つ。
「とりゃぁー-!」
「Ziiii⁉」
彼女の放った右拳が天使にヒットする。天使は苦悶の声を上げる。
「おぉ、すごいわね」
いきなり力を使いこなして天使に一撃入れた彼女を見て素直に感心するメリーガーネット。小さく拍手している。
「Ziii!」
天使がメリーインディゴへ向けて蹴りを放ってくる。メリーインディゴはそれを軽いフットワークで避けて拳を放つ。天使もそれをジャンプしてかわす。そのまま彼女の顔面目掛けて再び蹴りを入れてくる。
「っ!」
彼女はそれをいなしてアッパーを叩き込む。しかしお腹の厚い筋肉に阻まれダメージにはならない。
「ガーネットローズ!」
天使が地面に着地したのを狙ってメリーガーネットが再び蔓による足止めを行う。
「今よ! 尻尾を掴みなさい!」
その言葉に反応して天使の背後に回り込むメリーインディゴ。そのまま尻尾を両手でしっかりと掴む。
「インディゴトルネード!」
尻尾を持ったまま勢いよく回転をする。そのスピードはもはや小型の竜巻だった。そして尻尾を掴んでいた両手を放して天使を放り投げる。天使は凄まじい勢いで飛んでいき、地面を何度もバウンドする。
地面に転がっている天使に追い打ちをかけようとメリーインディゴが走り出す。その姿にメリーガーネットはアドバイスを送る。
「必殺技を使うのよ! 全身の魔力を高めて攻撃しようとすれば自ずと出来るはずだわ!」
その言葉に彼女は走りながら魔力を高めていく。そしてその中にカチッとはまる何かがあった。本能的に必殺技とは何かを彼女は理解した。
「メランコリータイガー!」
その拳に宿るは藍色の虎。極限まで圧縮された藍色の魔力は全てを喰らいつくさんと大暴れする。それをカンガルー型の天使へと叩き込む。魔力で編まれた虎は大きな口を開けて天使に噛み付く。
「Ziiiiiiiiiiiiiiii……‼」
断末魔の叫びを上げて消滅する天使。完全にその姿を消えたのを確認してメリーインディゴは力が抜けたのか地面に座り込む。そして彼女の変身が解除されて巴アオイの姿へと戻る。そのそばにメリーガーネットが近寄ってくる。
「やったわね!」
「さすがはあっしが選んだ魔法少女でやんす」
いつの間にか物陰から出てきていたヒコが調子の良いことを言っている。メリーガーネットはそれを呆れた目で見ている。
「む、無我夢中で……何がなんだか………」
「わかるわ~。ワタシの時もそんな感じだったしね」
自分の時の初戦を思い出して頷くメリーガーネット。ヒコも隣で同じようなポーズをしている。共感しているつもりなのだろう。
「ってそうだ! 弥勒くんを助けないと!」
いきなりの契約からの戦いで、本来の目的をすっかり忘れていたアオイは慌て出す。彼女が魔法少女になったのも元々は彼を助けるためだ。
「弥勒くん?」
「う、うん。あたしたち公園にいたら突然、鳥の天使に襲われて……。それであたしを逃がすために弥勒くんが囮に……!」
「なっ⁉ 大変じゃない! 早く助けに行かないと!」
メリーガーネットもアオイの話を聞いて慌てる。
その時だった。アオイの携帯から音が鳴る。彼女はスマホを取り出してチャットアプリを開く。そこには弥勒からのメッセージが届いていた。
『無事か?』
短いメッセージだったが、弥勒からの気遣いが伝わってきてアオイは思わず笑顔になる。そしてチャットを送ってこれたということは大けがなどはしていないだろうと思い少し安心する。
「無事っぽいわね」
横からスマホをひょっこり覗き込んでいたメリーガーネットが呟く。そして彼女も変身を解除する。とりあえず危険は去ったと判断したのだ。
「えっ、同じ制服?」
元の姿に戻った姫乃木麗奈に反応するアオイ。自分と同じ学生服を見て驚く。しかも彼女が制服に付けている襟章は緑色。つまりはアオイと同じ一年生ということだ。
「ワタシは一年二組の姫乃木麗奈よ」
「あたしは一年三組の巴アオイです。えっと、よろしく?」
「ええ、よろしくお願いするわ。これから天使を倒す仲間としてね。それよりも彼に返信しなくて良いの?」
「あっ、そうだった!」
お互いに自己紹介をしてから弥勒のメッセージに返信するアオイ。そこから少しだけやりとりをして弥勒と合流する約束を取り付けたのだった。
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