case 3 失った男 5 「捜索」

 収集所に着いた警察は、デパートのある地域を担当する車がどれか聞いている。


「それならまだ帰って来ていないと思いますよ。周る箇所が多いですから。ぼつぼつ帰ってくる頃だとは思いますが……。あ、ほらあれです。良いタイミングだ。しかし何かあったんですか。」


 「いえね、この人がデパートで財布を盗まれまして。それで犯人は財布をデパートのゴミ箱に捨てたと言いますが、犯人を捕まえた頃には運悪くゴミを回収した後だったんですよ。」


 なるほど。当人以外に本当の事を話すと、現場が混乱したり、誰かがいらぬ事を喋ったりして犯人がごまかしやすくなるかもしれず、それを防ぐつもりなのだろう。


 件のゴミ収集車が接近して来る。こいつが例の男たちの一味なのはすぐにわかった。なぜならほら、運転手め、警察を見て眉間にシワをよせている。降りて来た運転手みずから警察に声をかけて来た。


「どうも。警察がお出迎えだなんて、なにかあったんですかい。」


妙に馴れ馴れしいな。何かやましい事でもあるのではなかろうか。でなければ愛想笑を浮かべて警察なんかに話しかけるものか。


「いえね。この男があのデパートの裏にバラバラになった遺体が入ったゴミ袋があり、それをこの収集車が回収して行ったと言って聞かないんですよ。」


 この話の切り出し方はこの警察官の癖なのだろうか。そんな事をぼんやり考えている。それにしても、そんな聴き方をしても犯人なら首を縦に振るはずがないだろうと悶々としていると、


「そんなもんありませんぜ、あったら通報してますよ。」


ほらやっぱり。当たり前だ。誰だってそんなもんがあるのなら、はいありますなどと言うものか。こいつは本当に捜査をする気はあるのかと思い腹を立て

る。


「すみませんが、一応中を改めてもよろしいでしょうか。」


 運転手はキョトンとし、


「中……ですか。」


 よっぽど見られたくないのか、少し渋っているようにもみえる。


「ええ。まあお気持ちはわかりますが、中を確認しないとこの男も納得しないでしょうし。一応捜査をすれば、この男も納得するだろうと思いまして。」


 なんだか俺が悪者みたいな言い方が引っかかるが、カモフラージュの為かもしれない。


「そうですよね。捜査の協力は市民の義務です。どうぞ確認してください。」


「お手間を取らせてすまない。協力感謝します。」


と、運転手に礼を言う警察と共に俺も乗り込む。うむ、ひどい臭いだ。こんな臭いなら遺体も誤魔化せるんじゃないか。


 しかし数十分間ゴミと格闘したが、彼女の遺体は腕はおろか、指一本出てきやしなかった。


 警察は運転手に礼を言い、ごみ収集所を後にする。いよいよ冷ややかになった警察の目を見ぬように、下を向いている俺に警察は言う。


「あなた、本当に狂言じゃないんですか。そもそもその恋人と言うのは実在するんですか。そう言えば、恋人さんの名前もまだ伺ってないですね。お名前は何というのです。」


俺はハッとなる。そう言えば、彼女の名前は


「知らない……。」


「知らないですって。大事な恋人の名前を知らないなんて事ありますか。では仕事は何をなさってるんです。どこに住んで何をしている方かさえ、まさか知らないなんて言い出すんじゃないですよね。」


 俺はたぶん青ざめた顔をしていたんじゃないかな。

そう、何も知らないのだ。名前も、どこで産まれて何をしているのかさえ知らなかった。


「黙っているという事は図星か。まったく、こっちも忙しいんだ。いい大人が警察をからかっちゃ困るじゃないか。」


 警察は俺をデパートまで送り届けると、


「次またいい加減な事を言ってきたら、公務執行妨害でふん捕まえてやるからな。」


そう言い残し、去っていった。


 俺はしばらくの間、その場から動けずにいた。なんでこんなことに。彼女が何をしたと言うのだ。彼女の遺体は、あの小綺麗男共は一体どこへいったんだ。もしや何かの陰謀に巻き込まれたのか。どれだけ考えてもらちがあかない。どれほどか経って、俺は家路についた。


 くそ、犯人め。必ず捕まえてやるからな。

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