第10話 「また明日ね」は死亡フラグ

    (下校中)


咲「やみこ、一日に何度も帰ろうとしちゃだめだよ……」


やみこ「だって学校にいると不安になることが多すぎるし……私、臆病だし……」


咲「臆病っていうか、いつも考えすぎなんだよ、やみこは。想像力をはたらかせるのもいいけど、あんまり深く考えないことも大事だと思うよ?」


やみこ「でも私、どうしても考えちゃうし、考えたらイヤな想像しか出てこないし、それが本当になったら私、耐えられないし」


咲「大丈夫だよやみこ、本当になんてならないよ。前田先生が人の心を読めるとか、絶対ありえないし」


やみこ「でも言葉には力があるから、口にするといままで存在しなかったことが本当になるって――」


咲「(被せて)だからやみこ、悩みすぎ!」


やみこ「咲……」


咲「ネガティブなことばかり考えてると、気持ちもどんどんネガティブになっていくよ? 言葉だけでもポジティブにしようよ。そしたら元気だって出るんだから」


やみこ「……うん、そう、ね……。(少し顔を上げて)そうだね」


咲「うん。あ、週末のグランドワン、また誘うからね」


やみこ「う……それは行かないって言ったのに……」


咲「ダメだよやみこ。一回来たら安全だって分かるから。あ、じゃあ私、こっちだから。また明日ね!」


やみこ「また明日……。あっ――」


咲「えっ、やみこ? どうしたの」


やみこ「フラグ……死亡フラグが立っちゃった……」


咲「死亡フラグ?」


やみこ「『また明日ね』って言いながら別れたら、もう二度と会えないの。この前読んだ小説がそうだった。当然明日も会えると思っていたのに、別れた後でその友だちが急な事故で亡くなってしまう――」


咲「(ため息)やみこ、小説の設定を現実に持ち込むクセ、やめた方がいいよ……。あ、やば。塾の時間に遅れる。じゃあ、また明日ね!」


やみこ「あっ」


 私のほうをふり返りながら走る咲。

 その右手がバイバイと少しだけ横に振れたとき、丁字路へとびだした彼女に、右からやってきた一台のトラックが猛スピードでつっこんできた。


 咲の体が、まるで人形のように力なく宙を舞った。

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