第七話 文化祭の出し物 その二

 そして、待ちに待った文化祭当日。

 綾南高校の文化祭は十月第一土曜日で、開催時間は朝九時から夕方四時までの七時間だ。

 茉莉と静藍は午前中が当番で、午後から自由に校内を回れるというシフトにされていた。宣言通り優美によって、彼らの公式デートのお膳立てがなされている。

 彼女達のクラスの教室は生徒達の手により、一日限定の臨時喫茶店へと変貌していた。窓にはカーテン代わりに白い大きな布を重ね付けして垂らしてあった。黒板には「ジェンダーレス喫茶」と文字がカラフルなチョークで彩られており、その上からはリボンや切り紙を使った飾りがぶら下がっている状態だ。机も二人席、複数席とあちこち配置してある。

 

 その中を長い黒髪を後ろに一つに結び、真っ白なシャツに黒のネクタイを付け、黒の燕尾服に身を包んだ一人の少女が、忙しく動き回っていた。上着のポケットには懐中時計のチェーンが見え隠れしている。

 燕尾服姿の茉莉だった。今日は日中は十月にしては九月上旬の温度でやや高く、スーツ姿は正直ちょっと暑い。

 他には胸元に赤い薔薇を飾り、上下真っ白なスーツに身を包んだホスト風女子が接客していたり、着流しに晒しを巻き、ちょんまげのカツラを被った浪人モドキ女子が後片付けしたりしている。その他、スリットの入った真っ青なチャイナドレスに身を包んだ男子生徒やら、黄色の浴衣にモスグリーンの帯をしめ、厚化粧を施し、ボブヘアのウィッグとかんざしを付けた男子も右往左往しながら給仕している。膝上丈のピンク色のミニワンピースに金髪のウィッグを付けたキャバ嬢ファッション男子もいて、教室内は中々カオスだ。


「……?」

 

 茉莉は自分を呼ぶ声が聞こえた方向に顔を向けると、席について客に扮した親友が、右手をひらひらさせながらおいでおいでしていた。その向かい席には彼女の彼氏である織田純之介が大きく頷きつつ、口元に優しい微笑みを浮かべている。三年生の彼は受験勉強に忙しい中、優美に付き合って来てくれたようだ。


「茉莉〜フットマン想像以上にめっちゃ似合ってる! 超格好いいじゃん!! ねぇねぇ、一生のお願いだから『お帰りなさいませ、お嬢様』って言ってみて〜!!」

「……ねぇ優美。これってさぁほぼ〝コスプレ喫茶〟じゃん」


 引きつらせながら冷静に突っ込みを入れる茉莉の顔を眺めつつ、優美はからからと笑い飛ばしている。


「まあまあ。細かいことは無視無視。体格の良い佐藤君のチャイナドレスはギャップが凄かったけど、みんなそこそこ似合ってるから良いじゃん! あたしは後で中世貴族風のスリーピース着るも〜ん!! 茉莉も後で見に来てね!!」

「茉莉君、優美の言う通りその燕尾服良く似合ってるよ。タカノヅカみたいで良いねぇ」

「織田先輩まで……」


 まぁ時期的にもハロウィンシーズンだし、コンセプトはそれを加味したのだろうと思われる。めいめいが好きな格好をして来客の対応に追われている様は、和洋折衷様々でカオスっぷりが半端ない。良く見ると、互いに記念撮影したりと、アイドルさながらの賑やかさだ。


「まぁ、これずっとじゃないから良いけどね。私は静藍が違った意味でぶっ倒れないかが心配……」


 すると、背後で歓声が一際高く上がった。野太い声と黄色い声があちこち飛び交っている。ひゅーひゅーと、口笛まで聞こえてくる有り様だ。

 

 (……一体何この大歓声。ひょっとして……)


 茉莉がその方向へと顔を向けると、一際目立つ美女が一人盆を持って立っていた。〝彼女〟はあちこち声を掛けられたり、スマホで写真を撮られたりと大変な賑わいである。

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