第六話 文化祭の出し物 その一
文化祭はクラスメートとの仲が一段と深まる機会であり、他高校の生徒との交流も出来る良い機会でもある。
十月はここ、綾南高校の文化祭シーズンだ。
各クラスがそれぞれ色々な出し物を準備する。
カフェや縁日メニュー、お化け屋敷に演劇……などなど。
それぞれ企画を出し、作り上げるのだ。
たった三年間しかない高校生活で、生徒達が楽しみにしているビッグイベントの一つである。
そんなある日の放課後、新聞部の部室内に女子生徒による素っ頓狂な声が響き渡った。
「ええええ!? そこでどうしてそういう企画が通っちゃったのよ優美!? 言い出しっぺは一体誰!?」
声の主は門宮茉莉だった。彼女の親友から情報をいち早く聞き、驚きのあまり、背中まであるさらさらストレートの黒髪が全て天を衝くのではないかという位の勢いだ。
色白できめ細やかな肌。
二重でぱっちりとした榛色の瞳。
上品な薄桃色の唇。
思ったより幼さを感じる顔は目鼻立ちが整っていてまるで人形のようなのに、これでは全て台無しである。
「総務と副総務。面白そうだったから採用した……だってさ」
それに対して丸い瞳をぱちくりさせながら、ショートヘアーのちょっと気の強そうな少女、城殿由美はけろりとした顔をしている。普段と変わらず、いちいち大袈裟な反応を示す茉莉を面白そうに眺めている。
「何よそれ……!!」
「冗談よ。多数決で決まったの。よって、これはうちのクラスの大多数がそれを望んだという結果」
「うちのクラスって、そういうキワモノ系好きな風潮あったかなぁ……」
彼女のクラスの出し物は「ジェンダーレス喫茶」にほぼほぼ決定らしく、茉莉は思わず空を仰ぎたくなった。男子は女装、女子は男装して給仕するタイプでいく予定らしい。マニッシュファッションの女子はともかく、レディースファッションの男子は仕上がりが想像出来ない。
「だってさ、面白いじゃん。普段と違うみんなが見られるんだよ。あんたには悪いけど、あたしは賛成派ね。うちのクラスの目玉はなんてったって〝彼〟なんだから、きっとお客さんたくさん来てくれるはず!!」
「そういう問題じゃな〜い!!」
「あんたが〝彼〟と二人で他を一緒に回れる用シフトを組んであげるから、お祭りと思って潔く諦めなさい!」
「ええええ〜……」
白のシャツに茶色のチェック柄のスカートの制服に身を包んだ女子二人が賑やかにやり取りとりしている中、ガラリと部室の戸が開いた。
「何だか賑やかですね。二人共、一体どうしたのですか?」
もの静かな声が聞こえてきた。さらさらの黒髪に煌めくタンザナイトブルーの瞳を持つ少年が、プリントの山を両腕で抱えつつ佇んでいた。色白肌を持つ彼の目元はやや切れ長の二重だ。顎のラインはシャープで、すっと通った鼻梁に形の整った薄い唇をかすかに開けている――優美が言う噂の〝彼〟である神宮寺静藍だった。白のシャツに黒のスラックスの制服姿の彼は、不思議そうに小首をかしげている。
「お! うちのエースのご登場〜!!」
「え?」
「静藍君、視力が良くなったお陰でトレードマークの黒縁眼鏡がなくなったのは寂しいけど、お陰で通りすがりの誰もが振り返るイケメンになっちゃったよね……彼のコーディネートはあたしに任せて! 勿論、あんたのもちゃんと考えてあるから安心して」
「優〜美〜っっっ!!!!」
「え? え? え? 一体何の話ですか!?」
話についていけていない静藍はただ一人、やや引き気味かつ始終首を傾げてばかりだった。
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