8・後悔とバカな自分

「はあ……」

 ズルズルと自宅のドアに背をつけ玄関に座り込む。

 毎日帰宅がこの時間なのは、正直辛い。

 しかし辞めた途端、彼女が来るのではないかと思うと辞められないのだ。

「疲れた」


────何やってるんだろうな、俺。


”必死過ぎていや”

 ふと、彼女の言葉を思い出す。今だって思っている。一途に想って何が悪いんだと。必死で頑張って何がいけないんだと。


「はあ……」

家に着いて思い出すのは、彼女との一度きりのデート。

 それは夢のような時間。この先も一緒に居たいと思ってしまった。

 聞き上手で、褒め上手。

 今まで他人から、そんな風に認められたことがなかったから舞い上がってしまっていた。

 自分に好意を持つそんな彼女を、自分に惹きつけて置きたいと願ったのだ。だ。だが冷静になると、自分の気分が良いから側に置きたかっただけなのではないか。

 単なる自分の為なのではないかと感じる。

 ただ認められたいから。

「俺は、自己満足のために彼女を利用しようとしていたのか?」

 あの頃の自分はそれに気づけなかった。

 彼女が好きだからではなく、自分のために……。


────佳奈はそれを見透かしていたのかもしれない。


 彼女が突然手の平を返した理由を考えると、そうとしか思えないのだ。

 デートとなったいきさつを思い出す。

 そう、確かあの日は……。


 数通の手紙のやり取りを数日間かけて行った後のことだ。珍しく彼女のほうから、某メッセージアプリを通してメッセージをくれた。

 自分の方からが常だったから、とても驚いたことを覚えてる。


”今、どこ?”


と言う何の変哲も愛想もない、居場所を尋ねるメッセージ。

 自分はその時たまたま電車で海を見に行くところだった。その旨を伝えれば、


”そっち行く”


 とのこと。

 もちろん、一人であることを知ってのことだ。目的地の駅で佳奈を待っていると、彼女はラフだがお洒落なカッコをしており、自分は着古した普段着。

 釣り合わない気がした。


『いつもはそんなカッコなんだね。スーツ姿しか見たことないから、新鮮』

と彼女は微笑んだ。

『ダサくてごめん』

『そんなことないよ』

 お世辞かもしれないと思いながらも、なんだか嬉しくて。

『有希にはダサいって言われる。自分の彼氏はそんなカッコしないって』

 有希という言葉を聞いて、彼女は一瞬嫌な顔をしたが、

『どっち行くの?』

と、さりげなく流した。

 きっと、こんなところまで来て喧嘩はしたくなかったのだろうと思う。


────ああ。俺はなんて馬鹿なのだろう。


 あの日、楽しくお喋りをしていたと思い込んでいたがほとんど喋っていたのは自分ばかりで、有希の話を結構した気がする。

 彼女は”哉太は有希のことを好きだ”と言っていた。

 自分は今さらと否定したが、その時の自分はどうだった?

 黙ってニコニコ話を聞いてくれる佳奈に、有希の話と自分のことしか話さなかったのだ。


────それなのに俺は……。

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